アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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都市へのプロトコル

大江 匡TADASU OHOE


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ファンハウスファンハウスファンハウス
ファンハウス

私どもの仕事の仕方も、現在はネットワークを基本にしようと思っています。事務所にはドラフティング・ボードはありません。すべてコンピュータで描くことになってます。

コンピュータで描くことによって、いろいろなことが起こります。ネットワークで起こることのうちの一つを紹介しますと、コンピュータで描くことによっていろいろな人の参加が可能になりました。今までは、図面を描きたいといって学生アルバイトが事務所にきても、なかなか図面の手伝いをさせることはできなかったんです。習熟度の問題で、字が汚いとか、図面の線が甘いと、私自身も建築家の先輩にいわれました。ところがコンピュータで描いたものは、線は線ですし、字は字なんです。ワープロで打ちますから常にきれいな字なんです。そうすると、図面の一部を切り取って、アルバイトに渡すことにより、いろんな人の参加が可能になります。今までは一枚のトレーシング・ペーパーを描き切るスキルが存在しなければそれを達成する事はできなかった。しかし、現在ではコンピュータによって参加という概念が出てきたことが面白い。参加を英語ではtake part inといいますが、部分を取る、という概念が参加に通じることが非常に面白いと思います。

ザウルスやニュートンなど、PDAといわれる端末を使って私どもはスケッチを送り合ったりしています。実際に描くものはハンドライティングで、アナログなんですが、それを通信することによって、お互いがつながっていきます。また、デジタル・カメラも使用しています。現場や敷地の様子を撮り、その画像をコンピュータに乗せて送ることができます。

自分の端末が外に出ていくことによって、事務所の内部と外部の関係が変わってきています。先程のアルバイトの例に戻りますが、だんだんなれて来ると、自分の部屋にマッキントッシュをもっている学生もいるので自分の家で描いてきていいか、という人も出てくるんです。そうすると、通信をやるような学生の場合、自分の描いた図面を電子メールで私のところへ送ってきて、これでいいかどうかとチェックをしてもらうようになるわけです。

仕事のピーク時、スタッフが二十人足らずの事務所なのに、外でさらに同じぐらいの人が働いている状態が一時的に起こりました。そうすると、この人は事務所内部のスタッフなのか、外部のアルバイトなのか、という組織体系自身がだんだんとルーズになってくることも起こるわけで、私はテクノロジーによって、いろんな人の参加を呼び起こすことができるのではないかと思います。

私どもでは、ハンディキャップをもつ人、主婦など、スキルをもっているのだけれども、クリエイティブなものへ参加できない人に対して門戸を解放し、部分的に参加してもらうことによって、新しい事務所の体系や、さらには建築設計全般のFM、そういったものに通じるような概念がつくれないかと今考えています。

では、作品を通じてお話をしてみたいと思います。

ファンハウス

渋谷区恵比寿の住宅地の中に、レコード会社の本社を建てるというプログラムでした。音を出すので、基本的には外に向かっては閉じています。接続方法としては、むしろ閉鎖している形態を取っています。
 閉鎖されたシリンダーの中は、地下マイナス五メートルまで掘られています。そこに中庭空間をつくり、それに対してオフィス空間が巻きついてるような方法論を取っています。

ご存じのように住居地域では高層にするわけにはいかず、なおかつ、ワンフロアの広い面積のオフィスとそれから天井高の高いオフィスを要求されると、こういったことがプロトタイプとして存在するのではないかと思います。地盤面のレベルは格子戸のドアのところにあります。一見外からは閉鎖されているその中庭に対して、すべてのオフィスは開放的になっています。

もう一つここで考えたのは、自然素材の利用です。「ファンハウス」という名前自身、ハウスということばがついているように、クライアントであるオーナーの考えは、家族的な雰囲気で仕事をしたいということでした。もともとレコードをつくること自身が組織的ではありえない活動なので、組織的なものではなく、何となく家にいるようなアットホームな感じが欲しいということで、ここでは土や木など、ナチュラルな素材を使っています。

外にある素材などを見ると、「自然」を単純に思い起こしますが、ほんとの自然かというと、そうではありません。土壁といえども、中身はストラクチャーにコンクリートを使っていますし、木も一部は張ったものです。先ほど團さんが、「ミディアム」ということを話されましたが、これも一つのミディアムであると思います。メディアの語源は「媒介」です。本物ではないけれども、それによって自然を想起させるメディアになっていると思います。

先日、伊東豊雄さんと話した際、おにぎりの話が出ました。昔おにぎりは、竹の葉に包まれていました。竹の葉には防腐性、保温性があって、それで包むことによっておにぎりがいい状態に保たれたのです。しかし、最近はサランラップに包まれるようになり、今いった機能はすべてサランラップが媒介をするようになってしまいました。ところがさらに進んで、料理屋でおにぎりをもらうと、サランラップに包み、さらにその上から竹の葉に包まれて出てきます、その最初の竹の葉と、最後の竹の葉は、意味が違います。その竹の葉にそのものの機能は存在しなくなっているのだけれども、それによって自然を感じるようなメディアになっています。要するに、そういうメディアになってきていると思うのです。

最近、RV車が流行ってますが、ほとんどの人はRVの機能を使ってはいません。街中で乗るから必要がないのに、なぜRvに乗るのか。これは、やはりメディアだと思います。RVに乗ることによって、そこに感じられるものは個人によって違うと思います。家族性、環境、何かサブ・コンシャスというか潜在意識の中にあるものを自分の中で感じたいと思っているのでしょう。RV車に乗っているから本物志向かというとウソで、まったく本物ではないことなんです。おにぎりの話のように、一つはメディアである可能性があると思います。

地下の部分は、自然光が十分に落ちてきて、高い天井の中に降り注ぎます。天井高を高く取るような構造になっているので、二階と三階の事務所は大きな吹き抜けを囲んでいます。

コンファレンス・ルームは、レコード会社ですからあっちこっちで音を出すので、そういったことに対応するために天井に吸音と反射をアトランダムにしつらえています。

シリンダーに差し込まれた階段で、下まで下りられるようになっています。

工事中の恵比寿ガーデンプレイスが見えていますが、本当の意味での業務地区に存在する表の都市に対して、ファンハウスは住宅地の中にひっそり建つオフィスです。これからのオフィスのひとつの傾向ではないかと思います。

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