アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
これはぼくがつくった一本松ハウスで、博多の浄水通りからちょっと離れたところにあります。急傾斜の屋根のてっぺんにポンと象徴的にマツを植えています。とても徴笑ましく見えます。
このようにマツを住宅の屋根に植える仕事は、あとの管理の責任という問題がありますからなかなか建設業者さんはしてくれません。結局、自分でするわけです。芝棟を見て、屋根が急傾斜であることが大事だということで、この屋根もかなり急斜面ですが、それを銅板で葺いています。しかも、なるべく凸凹が出るように葺いています。実は茅葺きでやりたかったんですが、現実的にはできませんので銅板葺きにしたわけです。
マツを植えている足元には草が生えるように工夫しています。こういうことをやっていると、よくお施主さんが「うん」といってくれますね、と聞かれます。もちろん、ぼくといえども躊躇はあります。普通のお施主さんはそういうことを期待してぼくに頼むわけではありません。
白然素材を使った温かい家がほしい、といった理由で頼まれるのですけれど、ぼくはそれたけではちょっとおさまらないのです。そこで、どうやってそれを説得するのですか、とさらに問いかけられるのですが、なかなかぼくも口には出さないのです。
最初は、スケッチで、屋根のてっぺんにちょんちょんと点々を打ってあるわけです。そこに何かしたいとは思っているんですけれど、いえないのです。
すると当然、お施主さんも聞きづらいわけです。お互いに徴妙な関係ですよ。ですが、いかはその日がくるわけです。
プランから詰めていって、いよいよ屋根のてっぺんをどうするかという段になって、そのとき、お施主さんから私の家の屋根には何を植えるんでしょう、と尋ねられて、もう、ぼくはホッとして、それではマツでも、ということでマツを植えたわけです。
みなさんも経験すると思いますけれど、普通の施主の方は、模型をつくっても絵で描いて説明しても実際の建物のイメージはわからないんです。特にスケッチに描いて、そこに木が植えてあっても頭に入らないんです。ぼくらは職業的に訓練をしているから、図面を見れば全体のイメージをつかむことができますが、普通の人にはなかなかわかりづらいわけです。
もちろん植える木はお施主さんといっしょに選んだ木です。家が出来上がって、引き渡しの日がクリスマスの直前だったのですが、お施主さんの奥さんと娘さんが来られて、車を降りて、屋根を見て無言だったら、ぼくは屋根に登ってすぐ切り倒そうかと思っていたのですが、おふたりともゲラゲラ笑われるんです。ほっとしましたね。人間、笑ったら許すというか、諦めるというか、そういうことですからね。
ぼくのめざす人工物と自然の関係が幸せな状態にある建築手法のひとつは芝棟から学びました。芝棟状に屋根のてっぺんにポコッと木を植える手法は、上手くできると思っています。
もうひとつは、人間のからだに産毛が生えているように建物から毛のように植物を植え込むことができればいいと思っています。そうすれば、さきほどいったような屋上庭園にならずに、もっと植物が建築と一体化できるに違いないと思っているわけです。
ぼくの自宅で試してみました。タンポポハウスです。この名前は聞いたことがあると思いますけれども、屋根に鉄平石を二枚重ねて載せてその間にタンポポを帯状に植えています。
これは屋根の部分です。建築写真の見せ方としてはかなり例外で、全体像を見せないうちから部分を見ていただいていますが、全体像はあとでお見せします。こんなようにタンポポを帯状に植えれば建築と植物が一体化するのではないかと思ってやっているわけです。
タンポポを植えた理由は、ぼくの著書『タンポポハウスが出来るまで』という本を読んでいただけたらわかると思いますけれど、ほんとうは「超高層タンポポ仕上げ」ということをいろいろ考えていました。しかし、どこからも注文なんてないわけです。
ぼくのねらいは「超高層タンポポ仕上げ」で、超高層が綿毛で包まれるときをイメージしたわけです。風が吹いて、ふわあっと一陣の霞の中に超高層がスックと現れたらすばらしいと、いろいろ妄想が拡がりましてね。当たり前ですが、どこからも注文がないわけです。
「超高層タンポポ仕上げ」の話をすると、日本で山ほど超高層をつくっている日建設計の人たちからけっこう面白がられるんです。だけどだれもやらないので、自分でやってみようということで自宅でやったわけです。
結果的には、タンポポ仕上げはいまいちだと思っています。理由は、タンポポの花がいちばん咲いているときでもこれだけなんです。これを下から見ても、どこに咲いているのか深すほどにしか見えないのです。努力があまり報われてないんですね。もうちょっと報われて欲しい。毎年、ぼくが手入れをしているわけですけれども、そのわりには報われないのです。
タンポポは春先に花が咲いたら終わってしまいます。秋にまた芽を出すのですが、花の姿を見ることができません。
春が過ぎたらどうするかというと、乾燥に強くてあんまりボテッとしないポーチェラカという花がいちばんいいということで植えました。、あくまで産毛のように見せるということですから、あまりかたまりになって咲く花は嫌なのです。
いわゆる芝棟状になっていて、ポーチェラカをタンポポのあとに植えるわけです。だれが植えるかというと、ぼくが自分で植えるんです。屋根に足場が出ていて、ぼくの歩幅になっているんですね。梯子を架けて命綱をつけて植えるわけです。
けっこう社会的にはウケるんです。夏のシーズンになるとたくさんの人が見に来られる。幼椎園の子どもたちが寄ってきたりして喜んでくれるんですが、ぼくはあまり気に入っていません。
自分の部屋の窓から見える景色は、われながらなかなかいいなと思うわけですけれど、まあ、全体としては上手くいっていないのです。
するに産毛のように植物を生やしたい。芝棟のようにシンボル的にやるか、建築全体に生やすのだったら産毛のようにしたい。ということで、赤瀬川原平さんの家で屋根にニラを植えてみたんです。それが「ニラハウス」です。
ニラは自分たちで用意しました。赤瀬川さんの友だちの奥さんたちに手伝ってもらってニラの苗を千株くらいつくったのです。こういう屋根は、最初はプロに頼んでましたが、当然やってくれません。逆に、先生が自分でやりなさいといわれてしまいました。どうしてですかと聞いたら、見積ができない仕事は引き受けないというわけです。それもそうだと思いました。あとで問題が起きたときの責任が取れないともいっていました。それでは自分でやるしか仕方がないので、ぼくたちの友だちを呼んでやったわけです。
この屋根のつくり方は、実は簡単です。下地に工業用のすごく腐食に強い鉄板を張って、その上に根太を渡して板を載せています。それから板に穴を空けました。その穴にひとつひとつポットを納めて「ニラハウス」の屋根はできています。ニラはそのポットの中に植えています。
プロにやってもらったのは板に穴を開けるところまでです。そのあとキシラデコールを塗ったりビニールのホースを回したりするのはみんな素人で、友だちが集まってきてやってくれました。多いときは三十人くらいきてくれましたから、あっという間に終わりました。
毛穴のように屋根の全面に点々とニラを植えていけば、なんとか産毛のようになるのではないかと思ってやってみたわけですが、これはけっこう気に入っています。
産毛にしては、ちょっと毛深遇ぎるという気もしますけれど、建築に植物が取りついた例としては、世界で一番上手くいっているんじやないかと密かに自負しています。