アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
磯崎新さんによるマスタープランで計画が進められているカタール・ドーハのエデュケーション・シティ(教育都市)に建つブリッジ・アーツ&サイエンス・カレッジです。
このプロジェクトが始ったのは、9・11のテロ以前です。イスラム圏に建つということもあり注目されていませんでした。僕は昔からイスラムの国々が好きでよく旅行もしていたことをお話ししていたことや、学校の設計をしていたこともあって、磯崎さんが声をかけて下さったのかなと思います。砂漠に建物を設計することができることになったのは、ですから大きな喜びでした。
カタールは秋田県ぐらいの面積で人口は50〜60万人、その内カタール人は15万人ぐらい、外国人が総人口の4分の3を占めています。組織のトップ以外は雇われ外人で、いろいろな国から出稼ぎにきています。こういった出稼ぎ労働者は人口としてカウントされていませんから、そういう人たちを含めたら相当な数になるでしょう。いったいひとりで何人使っているんだろうと疑問に思うくらいです。この国は石油と天然ガスがすごく豊富なので、絶対埋蔵量が多いというよりも人口が少ないからひとり当りの貯蓄がたくさんあって、世界一の金持ちの国になっています。砂漠地帯なので気温が50度を越えるのは仕方がないにしても、夕方になると90パーセントを越える湿度には閉口します。
雨はぜんぜん降らないのですが、ペルシャ湾の水面から蒸発した湿気がそのまま入ってくるのです。ベトベトした空気が身体にまとわりつくような蒸し暑さです。
この国での仕事でコンテクストとしてあるのは、強い光線とアラベスクと呼ばれるイスラムの純粋な幾何学パターンです。まず、強い光線に関しては、それを制御するためパネルをつけて、壁を二重にすることを考えました。GRCを二枚使ってスチールのフレームをサンドイッチしたパネルで、ステンレスのケーブルでぶら下げています。壁面の高さは15メートル、一周は500メートルほどになります。パネルの裏側を黄色にして、ちょうど太陽が後ろ側にきた時には、光が反射して壁が黄色くなり、正面から光が当たっていると黄色い色は見えないようにしました。日時計のようなものなので、太陽との関係によって黄色い色が見えたり見えなかったりするのです。夜間、外側から光を当てるライトアップも試してみましたが、最終的には内側に仕込まれた照明だけにしています。オープニングセレモニーを今年二月にやりました。ロンドンでミレニアムナイトのライトショーを演出したグループがこの二重の壁面を面白がって、セレモニーでも僕らが設定していなかったようなすごい色の照明で式典を盛り上げました。
プランニングについては「黒」と「白」の話をしてすぐに了解してもらえたのですが、ファサードはシェードをかけたダミー案を見せたら「エレベーションがぜんぜんない」、デザインアーキテクトの意味がないといわれ突き返されました。その時期は日本でいう基本設計の前半でしたから、面積やプランを押さえていれば立面はもっと後でやればいいと思っていたのです。
日本で学校を設計する場合、立面については誰も意見をいいません。せいぜい時計台とか塔があったほうがいいという人がひとりふたりいる程度で、基本的にはプランの話ばかりです。
イスラムだからなのか、ヨーロッパ建築文化の影響なのかわかりませんが、外からどう見えるかをちゃんと提案してほしいとまともにいわれたのははじめてでした。僕は内部から空間を組み立てることばかりを考えていて、外は結果だと思っていました。しかし、このプロジェクトでは中の論理とは別に、彼らが納得するような外の論理も用意することになったのです。
最終的に用いたのはクォイジ・クリスタルという幾何学のパターンです。数学的につくり上げた六次元の立体に光を当てたときにできる二次元の影のパターンで、スタートするポイントがあって、繰り返しなしにずっと無限に広がっていくという特徴があります。この場合、タイルのかたちは三つしかないので、プレキャストかGRCで型をおこし、大量につくるのには適しています。地面にスターティングポイントを決めて広げていって起こし絵にすると自動的に立面ができるという論理で考えていきました。ちなみにこのスターティングポイントには、磯崎さんがセシル・バルモンドと一緒にモニュメントをつくる予定です。
このファサードのプレゼンテーションして了解を得た翌日、帰国しようとクウェート国際空港にいたのがちょうど2001年の9月11日でした。飛行機に乗ったほうがいいのか乗らないはうがいいのかと思案したことを覚えています。たまたま中近東にいたことで日本にいる人とは違った見方をしたような気がします。
プランは四角形で、この中にFLAと教室、六つの中庭、そして円形の大中小3つのレクチャーホールが入っています。どのFLAを歩いていても円形のレクチャーホールが出てくるので、自分の場所がわからなくならないようになっています。中庭には六本のウインドタワーを建てました。現地ではバドギールといいます。この地域のウインドタワーは、どちら向きに風が吹いても下から上へ空気を引っ張り出すもので、半地下の駐車場の換気と排煙に用いてかなり有効です。屋根もダブルルーフにして、その間に巨大なエアハンドリングユニットを入れています。
この大学はイスラム圏ではじめての男女共学の大学です。英語を用い、アメリカのソフトウェアで運営されます。すでにあるカタール大学では男女それぞれに校舎やモスクがあって、はっきりと区別されています。ここでは、一階の透明な空間は教室ですが、視線が丸見えにならないようにセラミックプリントでパターンをつけました。二階はオープンリソースエリアです。オープンリソースエリアはただのオープンスペースと違って、コンピュータなどのサポートする人がいて、いろいろなことを聞ける場所です。女の子たちは人から見られることに慣れていないので、シェードをしっかりつくって、見え方をコントロールしました。厚さ30ミリのキャストのアルミニウムでできています。厚みがあるので、歩くとヴェールをくぐり抜けるような感じがします。実際に眼で見るとモアレがかかります。
FLAの交差点の部分だけはトップライトにして、太陽が真上にきた時だけ床にパターンが映るようになっています。それ以外の時は、授業や研究の邪魔になるので、アルミの板で反射するようになっています。熱だけでしたら熱線反射ガラスを用いれば済むことですが、直射は視覚的な環境としてきつ過ぎます。
もう授業は始まっていますが、まだ一年目で学生が少なく静かです。見学は可能です。遠いといわれて誰も見に行ってくれないのですが、実際にはヨーロッパよりも近いのです。関西国際空港からドバイへ毎日直行便が飛んでいて、夜11時半に経つと朝5時半にはドバイに着いて、1時間待つとドーハ行きの便があって1時間で到着しますので割合簡単に行けますし、それほど料金も高くはありません。これからジャン・ヌーベルやザハ・ハディッドの建物も建つので建築的にも面白いし、文化的にも気候的にも日本人には経験したことがない場所なので、ぜひ行ってほしいと思います。