アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

マークアップリンク
トップ
私の建築手法
原 広司 - 建築の可能性
超高層ビル以降の計画(1)
2022
2021
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
1986

東西アスファルト事業協同組合講演会

建築の可能性

原 広司HIROSHI HARA


«前のページへ最初のページへ次のページへ»
超高層ビル以降の計画(1)

私の最近の作品の説明に移りたいと思います。

梅田スカイビル
梅田シティ遠景
梅田シティ遠景
空中庭園へのエスカレーター
空中庭園へのエスカレーター

新大阪の連結超高層ビルです。最初の発想は、従来の超高層を繋いで空中都市をつくること。また同時に、時間によって建物を自然の中に溶け込ます意図も持っていました。オフィスビルですから均質空間の部分が多く、それを部分化する意味で四本の塔により空中庭園を支えることを考えました。さまざまな経路がありましたが基本的な構想の大部分は実現できました。

今まで説明してきた建物における時間的な表情の変化に合わせて、ここでは具体的な経路、つまりわれわれが時間を考えるときに基本的な概念となるであろう経路を空中に延ばす意図を持っています。 将来、空中都市ができるとすれば、それは空中における経路の公共化ということに成るでしょう。ニューヨーク、香港、あるいは新宿の西口に展開する現代の超高層都市は、一見、三次元的に展開しているような感じですが、実は全部立体的袋小路で、その建物に登ったらその道をエレベーターでまた降りてこなければなりません。すべて立体的な方向への経路が袋小路になっているのです。その根本の戸を閉めれば、容易に管理可能という便利さがあります。しかし、都市とは果たしてそういうものだろうか、そうした建築形式自体が都市の可能性を限定しているのではないかと考え、袋小路ではない都市を構想し、その道具立ての実現を試みたのです。その道具立てとは、第一に満ちです。空中のブリッジ、空中に行くエレベーター、空中のエスカレーターなどの経路を設定し、それをもって空中都市への一連の道具立てを準備するという構想でこの建物をつくりました。

サンクガーデン見下ろし・空中回廊
サンクガーデン見下ろし・空中回廊

基本的には三棟連結で考えたのですが、ホテルのほうから自立したいとの要請があり、現在のところ二棟連結の状態で建っています。しかし、将来おそらく三棟連結になっていくであろうと増築の余地を残しています。

空中の経路は、エスカレーターという道具立てによって実現されました。当初はエレベーターで実現しようと思っていましたが、技術的に非常に制約があり、エスカレーターとなりました。均質空間は時間的一定性を保持する。つまり窓を開けないことを前提に、時間によって変化されない状態を保っていますから、窓を開けることは非常に難しい。

一定の状態とは人工的気候によって支えられており、窓を開けるとその状態を乱すわけです。しかし、技術的には可能です。ただ非常に面倒くさいこと、コストがかかることがあり、一度閉ざされた超高層ビルを開いて再び自然との対応を求めるためには、大勢の人びとに高いところで外に出ることを体験してもらう以外にありません。そして、高い所でも新しい空気を体験することは非常に快適だ、という声が高まったときに、超高層ビルは開かれていくと思います。そうした体験の場として、外に出るための場所を限定的につくってみました。

この超高層ビルをつくるに際しては、いろいろな工法を検討しました。設計施工をともにしたJVの方がたもたいへん熱心に技術的な検討をしてくださり、都市のイベントとなるような「リフトアップ」が実現しました。それがテレビで報道されましたので、みなさんご存じかましれません。施工者に対して私が感謝しているところです。ある日、都市のイベントとしてこの建物の施工の一部が放映されました。一日の都市の出来事として、およそ千トンのこの部分をさまざまなセンサーを使いながら四本のロープで八時間かけてリフトアップしたのです。

建物全体は働く場所ですが、単に働くということだけではなく、ひとつの遊園地のようにさまざまな活動がそこで同時に展開しているほうが、これからの都市の生産に合っているのではないかという考え方に施主の方がたも賛同していただけたのでこういう建物が実現できたのではないかと思っています。

ランドスケープは吉村元男さんが中自然という概念、つまり自然を都市の中に残すということで、実際の平面地平上での経路性を確保する設計をしてくださいました。巨大な都市の建築物ですから小さなスケールのディテールが消えるので、ディテールを持った装置—実際にその場を形成する要素ですがアトラクターと呼ぶことができると思います—そうしたものをいろいろ配置することによって、巨大さを補っています。人の動きのよりどころをつくっていくかたちで要素を寄せ集めています。

換気棟などは小さな建築と呼んでいますが、ひとつの要素を建築化していくかたちをとっています。

夜については、もう一度建築のかたちを解体し、分解して見せることを意図して照明を計画しました。

«前のページへ最初のページへ次のページへ»