アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
まず「多摩美術大学附属図書館」をご紹介したいと思います。京王線橋本駅から車で10分ほどのところに位置する多摩美術大学八王子キャンパス内に建設中の図書館です。キャンパスの周辺は、まだ再開発途中の自然も感じられる環境です。キャンパス内にはコンクリート打ち放しの建築が次々につくられてきて、キャンパス計画の第一期、第二期に続く、第三期計画として、新しい図書館と新しい学部棟が建設されて、それらが竣工すると八王子キャンパスの計画はひとまず完成します。
既存の図書館には11万冊の蔵書があります。それらの書籍はすべて新しい図書館に移されて、既存の図書館はアーティストや建築家の作品や資料が保存されるアーカイブになる計画です。一方、新しい図書館には30万冊の書籍が収蔵されますが、そのうち10万冊が開架の書架に、10万冊が閉架の書架に、残りの6万冊が地下の機械式書架に収蔵される計画です。新しい図書館はキャンパスのシンボルとして、既存図書館のアーカイブと最近完成したコンピュータ教育のためのメディアセンターと共にメディアテークを形成するという構想です。
キャンパスの特徴は敷地全体が1/20勾配のスロープになっていることです。正門を入ってバス停を降りたところに「彫刻の森」という多摩美術大学にゆかりのアーティストの彫刻が置かれる広場があって、その奥に新しい図書館の敷地があり、その隣に既に完成しているショップ棟と情報デザイン棟、芸術学棟があります。ですから新しい図書館は学生の通り道になるところに位置していて、正門からはずっと勾配が続いているわけです。
5000平方メートルという延床面積に対して、大学側は三、四階の建物を想定していたようですが、私たちは敷地を見て、可能な限り低層のものがよいだろうと思いました。そこで、まずは図書館を全部地下に埋めてしまい、バス停の近くまで地下空間を伸ばして、地上が「彫刻の森」になるというイメージから設計をスタートしました。地下と地上はオープンな関係になっていて、地下空間には地上からの光が十分に差し込んでくるようなイメージを持っていました。
しばらく地下空間の検討をしていたのですが、さすがに図書館を地下にすべて埋めるのは難しいし、大学側からも多少であれば当初予定していた敷地よりも拡がってもよいとは言っていただいたのですが、「彫刻の森」のための敷地を確保する必要があるから、そのスペースまで図書館が伸びてきては困るという話がありました。そこで、地下と地上の二層にまたがるボリューム検討をしました。その時、地上部分のストラクチュアに建築的な形式を与える必要が生じたのです。この過程でわれわれがまずイメージしたのは、あるボリュームから空間をえぐったドームの連続体のような空間だったのです。
今となれば、その時の模型は後の展開にとって面白いモデルだと思っています。とはいっても、その検討をしている最中というのはまったく暗中模索の中でモデルをつくり続けていて、後になって「ああ、こういうことか」という解釈ができるようになってくるのです。そして次にフランク・ロイド・ライトの「ジョンソン・ワックス本社」のように柱頭が膨らんでいってスラブに変わっていくような梁のないスラブを支える屋根と柱の関係が現れてきました。それが変化して今度は二方向のアーチになり、最終的にはアーチの連続体になりました。見方を変えると模型をつくるのが難しくて、それで直行するアーチのアイデアが出てきたとも言えます。模型をつくるのが難しいというのは、実は建築を施工するのも難しいのです。模型で考えていることが、建築の持っている形式、あるいはルールのようなものに置き換えられていかないと実体としての建築にならないわけです。
生産の方式、空間の秩序、そういったさまざまなところから洞窟は洞窟のままでは建築にはなり得ないことを、この一連のスタディは示しているのです。ちょっと比喩的な言い方をすると、地下に潜っていたセミの幼虫が地上に出てきて、その瞬間には液体のようなドロドロとした幼虫が、脱皮をして、しだいに形を持って地上でセミになっていくという、そのプロセスと似ていますね。
階数は最終的に地下一階、地上二階建てになりました。当初、大学側が地上三、四階建てを期待していたのは向かいに建つメディアセンターから図書館に直接アクセスできるブリッジの構想があって、三、四階建てならばそれが可能だったからなのです。しかし、閲覧室の使い方から考えると、やはり低層にしてワンフロアの面積が大きい方が使いやすいので、結局ブリッジは取りやめになって地下一階、地上二階建てになりました。
先はど導き出されたアーチの連続体は直線から曲線で並べ替え、より柔らかい表情にしました。そうして湾曲したグリッドの平面が導かれたのです。外形も五角形の各辺を曲面のラインで形成する計画にしたかったのですが、経済的な問題もあり、最終的には二面が曲面で二面が直線の四角形に落ち着きました。コンクリートだけでつくるのであれば、曲面で全面つくることは容易でしたが、私たちはアーチの間に嵌めるガラス面を曲面でつくることにこだわったのです。折れた直線が連続したガラスではイメージしたものがつくれないので、コストが高くなるのは覚悟して曲面ガラスに敢えてこだわったのです。曲面によって生じる一枚のガラスの端部と中央部の最大のギャップは四ミリほどです。微少な差ですが結果としてとてもきれいな曲面ガラスをつくることができました。
平面計画ですが、一階の半分くらいはアーケードギャラリーと呼ばれるフリースペースになっています。先ほど申し上げたように図書館は正門からの学生の通り道に沿っていますから、このスペースを自由に通り抜けられるようにしたのです。そこは敷地と同じ1/20勾配の床になっています。コンクリートの土間になっていて、レクチヤーができたり、ギャラリーにも使えるスペースとしました。このアーケードギャラリーと図書館はガラスパーティションで隔てられていますが、図書館のほうもオフィススペース以外は、勾配のついた床になっています。書架のレイアウトは私と同じく多摩美術大学で客員教授をしてらっしやる藤江和子さんにデザインしてもらいました。床が1/20の勾配を持っていて、それに対しての閲覧カウンターなどは水平にならなくてはならないので椅子の足の長さが随時変わっていきます。
二階が図書館のメインフロアで、ここは水平の床です。一階から階段を上ると開架の閲覧室が大きく広がっています。ガラスパーティションによって開架閲覧室と閉架書架が分けられていて閲覧エリアから閉架書架の中を見ることができます。ワークショップ・セミナーをやるようなスペースもこの中に確保しています。二階の家具のレイアウトですが、当初私たちが考えていたのはアーチのグリッドを意識して、ある程度グリッドによって空間が分節され、そのブロックをガイドに書架を配置して、空いたところに閲覧のスペースがあるような配置でした。ところが藤江さんから提案されたものはアーチの空間を縫っていくようなレイアウトでした。これはとても面白かったです。思わずうなってしまい「参った」という感じでした。型枠の状態の現場を歩きながら、ひとつひとつのブロックの分節が強いので連続感がなくなってしまうのではないかと危惧していたところに、この提案が出てきたのです。家具によってブロック間の連続性を強めることができると思いました。もうひとつ藤江さんの提案があって、ふたつのアーチの間に、鉄板でつくつた書架を入れています。そうすることによって壁ではないけれど本が置かれて、ゆるやかに分節されていて、かつ透けた感じになります。アーチの間を煉瓦で埋めていくようなイメージで面白いと思っています。
構造は佐々木睦朗さんにお願いして、とても薄い200ミリ厚ですべての壁ができました。芯にスチールのプレートを入れて、その両側に現場でコンクリートを打つという珍しい構造になっていますが、特に足元が細いピンのようなアーチをつくるためにその構造が必要でした。「MIKIMOTO Ginza 2」の場合は外側が鉄板で内側がコンクリートだったのですが、その逆ですね。コンクリートが外側にあって耐火被覆のような役割をしています。施工は、まず鉄板を組んで、その両側に配筋をして、コンクリートを打つという、なかなか面倒な工事でしたが、とてもきれいなコンクリートを打っていただきました。
2007年3月1日現在、ようやく建築ができ上がりました。あとは内装を残すのみという段階です。平面で検討していると、曲がっていくアーチのラインばかりを意識していたのですが、実際にでき上がった内部空間に入ってみるとさまざまな方向にランダムに建っているアーチの足元が強く意識されます。仕上げ材をほとんど用いないでコンクリートの打ち放しで仕上げる予定です。その空間の中に、照明を吊って天井を照らして、高いところでは七メートルくらいある天井から柔らかい間接光を拡散させて下に落とします。その間を藤江さんの書架が流れるように続いているのです。