アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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手塚 貴晴 - 人は建築の向こうに何を見るのか?
傾きが生み出す人との距離感
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2014 東西アスファルト事業協同組合講演会

人は建築の向こうに何を見るのか?

手塚 貴晴TEZUKA TAKAHARU


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傾きが生み出す人との距離感

屋根の勾配についてお話する時、私はいつも、初めてのデートの時にファストフード店に行ってはいけないという話から始めます。初めてのデートにファストフード店に行って、小さなテーブルで向かい合わせに彼女と彼氏が座ったとします。初めてのデートでは話すことなんて大してないので、一生懸命話し続けても、大体30分くらいするとネタがなくなってきて、そのうちふたりの間には沈黙が訪れてしまいます。ファストフード店のような明るい雰囲気の店内で沈黙が訪れると、それはもう、ものすごく気まずく感じるものです。そこで無理をして喋り始めても、ついろくでもないことを言ってしまい、結局はうまくいかないのです。ですから、ファストフード店は最初のデートスポットには向いていないんですね。

「屋根の家」南東側からの俯瞰。前面道路の傾斜に合わせて、屋根は一寸勾配。表面は全面デッキ敷き。
「屋根の家」南東側からの俯瞰。前面道路の傾斜に合わせて、屋根は一寸勾配。表面は全面デッキ敷き。
「屋根の家」屋根上階パース。
「屋根の家」屋根上階パース。
「屋根の家」屋根の上からの眺めをあらわした断面配置。
「屋根の家」屋根の上からの眺めをあらわした断面配置。

それに対して、私の教えている東京都市大学の傍には、多摩川があり、土手の斜面や河川敷にはいつもたくさんのカップルが座っています。どう座っているかというと、向い合って座ろうとすると、斜面を転がりそうになってしまいますから、どうしても相手とはそっぽを向いて、川に向かってふたりで並んで座らなくてはいけなくなります。それが、向かい合っていないせいか、沈黙が気まずくなくて、逆に、むしろなんだかロマンチックな感じにさえなります。また、ふたりとも川を見ているので、水面を眺めながら「あっ、魚が跳ねたね」なんて、普段なら絶対恥ずかしくて耐えられないような会話でも、自然と言えてしまう。さらに言うと、土手に傾斜があるから寝転がりやすい。そうすると、次のアクションが起こしやすい(笑)。

また、世界中の広場を見て回ると、シエナのカンポ広場や、ポンピドゥー・センターの前の広場、マドリッドの広場など、だいたい傾いているところには多くの人が集まります。傾いていることはやはり大事なのです。

「屋根の家」屋根のふちに腰掛ける様子。
「屋根の家」屋根のふちに腰掛ける様子。

だから、この「屋根の家」の屋上は、普通の屋上ではなくて、勾配のある「屋根」なんですね。傾いているのがよいのです。また、人はやってはいけないことをすると、よい気持ちになります。つまり、もし、この屋根に扉があったら面白くもなんともなくて、普段は出ないような屋根の上に出る、という感覚がよいのです。そこで、屋根の出入口は一階の天井から飛び出すような、天窓としました。下の娘さんが天窓の案を気に入ってくれて「これは私の天窓だ」と言ったら、今度は上の娘さんが、「これは私のだ」と言い出して、さらには、お父さんも「これは俺のだ」というように、天窓がどんどん増えていき、最終的にはひとつの天窓にひとつのはしごが付き、それぞれに天窓の持ち主がいるような構成となりました。


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