アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
百田山形県山形市につくった「シェルターインクルーシブプレイス コパル(2022年)」(以下、「コパル」)という子どもの遊び場をご紹介します。背後に蔵王連峰がそびえた有機的な屋根が特徴の建築です。この建築は障害の有無や国籍、家庭環境の違いにかかわらず誰にでも開かれた子どもの遊び場として構想されました。またこのプロジェクトはPFIという方式でつくられています。設計者、施工者、運営者、維持管理者がひとつのチームをつくり、初めから協働して応募するのが特徴です。設計期間中に創造会議という会議を10回行い、どういう建築がよいのかについて設計者、運営者、施工者、地域の方、有識者の方、そして維持管理を行う方も一緒に集って、議論したり理念を共有したりするというところから始めました。
この建築を通して学んだことがあります。それはひとつのものに多重の意味を見出していくということです。この建築でメインの要素であるスロープは、車椅子に乗る人にだけ必要なものではなくて、子どもたちにとっても思わず駆け上がりたくなる坂道でもあるというように、ひとつのものに多重の意味を込めることで障害あるなしに関係なくみんなが楽しめるものになると思います。スロープに沿って滑り台を付けると、車椅子の方が落ちてしまうのではないかということも考えられます。その時に、では立ち上がりを設けましょうとすると、目が見えづらい方にはつまずきやすくなってしまうという別の問題も出てきます。そこで段差に明度差のはっきりしたアクセントとなる色を付けて、それ自体が魅力になるようなかたちを考えました。このようにひとつのものに多重の意味を重ねてそれが連携し合うかたちで構想していきました。メインのスロープは、建築の中で閉じなければいけない部屋の上にできています。トイレや事務室、多目的室等を3本の帯状のボリュームとし、それによってできる窪地を体育館と遊戯室としました。これは山形の盆地の地形にも通じるように思っています。また、体育館と遊戯室の天井は印象的にしたかったので、木製のアーチ梁を架けています。構造的には木製アーチ梁の周りに鉄骨のトラスのフレームを組んでスラスト(アーチが受ける横方向に広がろうとする力)を受け、それを下のコンクリートのボリュームに集約して流す計画としています。内部からも蔵王連峰の山並みが見えるよう、風景を阻害しないようにブレース等はなるべく集約して、スラストや地震力を処理しています。また、屋根をトラスのフレームで組むことでかなり剛性の高い面ができるので、柱は梁上で自由に配置できます。類似施設の多くは遊戯室や体育館は箱で区切られていますが、「コパル」は体育館と遊戯室が共用部と一体になっているので入った瞬間に体育館がすぐ目に入ります。体育館の周りにはスロープが回っていて、登っていくと遊戯室の巨大滑り台に連続する、建築ができると同時にランドスケープもできて、全体が遊び場になるという計画になっています。
大西「コパル」では、多様な人が自分の場所だと思える空間にしたいと思いました。例えば、目が見えづらい方や耳が聞こえづらい方に対して、五感を使って楽しめる空間にするとよいのではないかと考え、空間に音や手触り等で楽しめるような工夫を重ねていきました。お母さんたちが子どもを見守るためのベンチが木琴にもなっていて音を鳴らすことができたり、通路の左側に通常の手すり、右側にすごくぐにゃぐにゃしている遊びの手すりを付けたりしました。運営の方々から、「手すりは使っている人にとっては必要なものだけど、普段使わない子どもは手すりを必要としている人が近くにいることに気が付かないことも多いのではないか」というお話を聞き、遊びの手すりをつくることによって、自分の近くに手すりを必要としている人がいるんだと気が付くきっかけになるとよいなと考えました。その他にも、例えば床の素材を踊り場でザラザラしたものに切り替えて、足ざわりで踊り場と分かるようにしたり、扉の入口の枠だけタイルにして壁を伝って歩いた時にも手触りでここに開口があると分かるようにしたり、さまざまな工夫を重ねています。
内部空間は、ランドスケープ的に繋がっていくスロープの中に、小上がりやテーブルが置かれてみんなが集まれる場所、というようにいろいろな場所が連続しながら、自分たちの場所はそれぞれに持ちながらも、互いが繋がっていることが感じられるような関係性を大切にしています。こうした考え方は屋外まで連続させていて、ランドスケープと一体になったスロープで広場まで繋がり、そこを駆けることができたり、遊具が地形の一部になっていたり、スロープに囲まれた広場ではさまざまなイベントが開かれています。
PFI方式が、すべての人がこの街に何ができるかをいちから一緒に考えていける仕組みだとしたら、本来的なものづくりのあり方だと思っています。「シェルターインクルーシブプレイス コパル」ではこれから15年間の施設運営・維持管理を通して、この空間がどんなふうに育っていけるかを一緒に考え続けていけたらよいなと思っています。
「シェルターインクルーシブプレイス コパル」外観
体育館東側スロープ
左側には遊びの手すりがついている
大型遊技場
スロープより体育館を見る
平面
ダイアグラム
百田この建築は360度屋根が浮かんでいて、それを可能にしているのが屋根の鉄骨トラスのフレームです。この鉄骨トラスのフレームを組む時には、接点がかなり重要になります。鋼管に対して三次元的にH型鋼が取り付くという構成になっています。先ほどこの接合部に屋根を支える柱を立てる必要がなく、柱が屋根から解放されて柔軟に対応できることがよいとお話ししましたが、施工の段階に入り建て方を一体どうすればよいかと悩みました。結果的には仮設の交換柱を接合部に建てて、その間を繋いでいくことになりました。当時新型コロナウイルス感染症が流行していた期間で工期がかなり押していたので、工区割りをし、部分的にジャッキダウンして、施工者さんと協力しながらやっていきました。また、三次元曲面の屋根を構成する鉄骨部材の形状や寸法は全部違うので、施工図をどう書くかということも問題になりました。僕たちも設計する方に時間をかけてしまって、十分に施工図を書いていただく時間が取れないような状況でした。そこでPFI事業であるということを生かして、施工者さんと一体になって、どういう情報がほしいかをヒアリングし、それを設計のモデルから自動で書き出せるようなプログラムを構造設計者が組んでくれました。それにより、三次元接合部に対して三次元的に取り付いてくるH型鋼のような複雑な部材もすべて書き出し、施工図の基となるデータを一緒につくっていくことでなんとか進められました。また、今回の建築の特徴である有機的な屋根をどう仕上げるかも問題になりました。屋根はアスファルトシングル葺きで、どう綺麗に葺いていくのか田島ルーフィングさんが一緒に考えてくださいました。これも設計者と施工者が一緒になってひとつの問題に取り組んで解決できたものだと思っています。本当に綺麗な三次元的な屋根ができました。
東側俯瞰
西側よりエントランスを見る
鉄骨トラス接合部アクソノメトリック