アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
思い返すと、本講演会では2005年に仙台でお話しさせていただきましたので、今回十二年ぶりとなります。最近、私は東京の講演会でお話しする機会よりも、もっぱら地方都市や、あるいは中国、韓国など海外で講演させていただく機会が多いものですから、今回は久しぶりの東京で、とても楽しみにしてきました。
私たちはそれぞれ自分ひとりで暮らしているわけではなく、必ず私たちを取り巻く人、もの、環境と一緒に暮らしているのだという、日頃私が考えていることをお話ししたいと思います。
私は早稲田大学で建築のデザインを教えており、一方で、私自身の設計事務所も持っています。事務所が大学の真向かいにあって、そうでもなければとても両立できないでしょうが、大学で教えることと実際に設計することをずっと車の両輪のように考えて活動してきました。1980年に早稲田大学大学院を卒業して以来ずっと、一方では大学に籍を置き、一方では設計をするという二足のわらじを履き続けています。建築を学ぶ学生諸君にとって、現役の建築家が大学で設計を教えるということは悪いことではないと思うのですが、早稲田大学ではその伝統が強く、私が学生だった頃も学科の18人の先生のうち5人が実際に活躍する現役の建築家でした。学生にとって、教科書だけから教わるより、生きた建築を、時には失敗したりもしている建築家から教わることは意味のあることだと思っています。しょっちゅう学校を留守にしてしまい学生に申し訳ないなとも思うのですが(笑)、その分生きた教材を学生たちに提供したいと思っています。しかし、この逆がけっこう難しく、大学の研究室で斬新な考え方やフレッシュなアイデアを磨くのはよいのですが、事務所としては常に学生たちに見せて恥ずかしくないものをつくらなくてはいけないという宿命があるのです。「古谷さんは、授業であんなこと言っていたけど、実際につくっているものと言っていることが違うなぁ」なんて、学生たちに愛想を尽かされる可能性もあるわけですよね。そういう意味では、とても緊張感があり、設計するひとつひとつが学生たちに示唆できるものでなくてはいけないと思っています。これはとてもたいへんなことですが、私の設計の基本を支える原動力でもあります。
これからご覧いただくものは、学生と一緒に取り組んだものもあれば、事務所だけでやっているものもあり、その中から私の二足のわらじが目指すものを感じ取っていただければ幸いです。タイトルは「LIVING WITH SURROUNDINGS」。それから、「MAKE A PLACE TO MEET」という副題を付けました。われわれの仕事をつきつめて考えると、建築がなければ人と人が出会うことができない、つまり、建築は人と人が出会う場所をつくっていることになるのではないだろうか。また、人は誰か他の人と出会うことを通してでしか幸福になれないのではないかとも思っています。たまに悪い人に出会って不幸になることもありますけども(笑)、それでもやはり、たったひとりでいて幸せになることはないのです。自分と違う人格、それは親や友達、先生、恋人、将来の伴侶だったりするかもしれませんが、そういう自分以外の誰かと出会うことを通して見知らぬものを知り、自分自身が変わっていく喜びを感じるのです。その幸福になるための場所をつくっているのが私たちの仕事なのではないかと思い、このような副題を付けました。