アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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古谷 誠章 - LIVING WITH SURROUNDINGS
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LIVING WITH SURROUNDINGS

古谷 誠章NOBUAKI FURUYA


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気候に合わせて着脱できる家
大草原に建つモンゴルのゲル。

大草原に建つモンゴルのゲル。

私は、広島の近畿大学で8年ほど教えた後、1994年に早稲田大学へ戻りました。その翌年に、自由化されて間もないモンゴルで講演会と展示に参加する機会がありました。そこでモンゴルの遊牧民たちが暮らすゲルという住宅に出会ったのです。大草原にぽつんと建ち、そこで一家で暮らしているのですが、周りに何もなく、水・電気・ガスといった都市的なインフラもまったくない中で自活しています。しかし、風力発電のためのプロペラやパラボラアンテナがあり、まったくインフラのない世界でありながら、世界の情報とリアルタイムでリンクしているということにビックリしました。なんと大相撲の生中継を観ていましたから。古い生活なのか新しい生活なのかまるで分からない。われわれは毎日世界の情報に絶え間なく触れているわけですが、電気もガスもなく、時にはマイナス何十度となってしまうようなところで自分たち家族だけで暮らしていけるかというと、とてもじゃないけどできません。彼らはその両方を手にしていて、そういう意味では人類で初めての生活パターンと言えます。

ゲル内部は丸いワンルーム空間となっていて、寝室もなければ子ども部屋もなく、何の仕切りもありません。中央には調理器としても使用するストーブが置いてあります。このゲルにひと家族が暮らすわけですが、それ以外にも、たまたま訪れた友人や旅人、われわれのような無縁の人たちとも、一緒に雑魚寝してしまうという、プライバシーのまったくない家です。最初はなぜこのようなワンルームが成立するのかと疑問に思いましたが、実はモンゴルには、馬に乗った旅人が草原でゲルを通りがかった際、たまたまその家が夕飯の支度をしていたら、その旅人は必ず馬から下りて夕飯に加わらなければならない、という習わしがあるのです。この果てしなく広い大草原で、滅多にない巡り合わせで出会ったのだから、みすみす通り過ぎるのは水臭い。夕食に加わり、お酒を勧められて飲んで酩酊するとそこの家主は喜びます。家に泊まってもらって、この機会にいろいろな話を聞きたいのです。つまり、外部の人間の来訪は人口密度が非常に小さい世界での貴重な情報源なので、できるだけ長くいてほしいということなのですね。

モンゴルのゲルの内部。

モンゴルのゲルの内部。

そして、なぜゲルにプライバシーがないかというと、きっとゲルの周りに無限大のプライバシーがあるからでしょう。この家の息子さんも毎日何十頭もの羊を引き連れて放牧にいくけれども、多分一日中誰とも会うことがない。でも家に帰ってきたら家族と会えるし、たまさか訪れている旅人とも出会う。そういう意味で、このゲルは人が出会うための場所を意味していると考えられます。

翻って、われわれの都市部の住居を考えてみますと、外を歩いていてもそんなに知り合いと出くわすようなことはありません。そう考えると、外部にプライバシーがあるように見えますが、家に帰ってもまた個室に分かれていますから、出会いの場が非常に少なくなくなっているように感じます。

古谷氏によるモンゴルの民族衣装のスケッチ。

古谷氏によるモンゴルの民族衣装のスケッチ。(作:古谷氏)

モンゴルの歴史博物館に、モンゴル中の民族のいろいろな衣装が展示されていました。だいたいが仕組みは同じで、デールという上着を着て、その下に着るものが夏と冬で変わります。夏は下にTシャツ一枚くらいで、冬はデールの内側に毛皮を貼ったり、セーターを着たりします。夏の日中はそれなりに暑く、冬は厳寒の凍てつく気候ですが、そうやって上手に衣替えをして生活しています。これはわれわれも同じですね。しかし、それを家にまでやっているところがモンゴルのすごいところなのです。夏のゲルは、本当に薄着であばら骨が浮いているような感じになり、外周のコットンの下はほとんど何もなく、女性の丈の短いTシャツのように、下から空気が入って抜けていくような非常に風通しのよい装いとなっています。それが冬になると、フェルトを三重に巻き、扉にまで綿布を着せ、衣服でやっていることを家でも行っているのです。おかげで、真冬でも家の中では夏と同じような生活ができます。これはすごいことなのではないかと思いました。もちろん周りの環境は厳しいですが、衣服も家も季節に応じて厚着、薄着をして、見事アジャストさせている。気候に合わせて家を調整するということは、今日の建築ではなくなってしまった考え方だと思います。本当にこれを学びたいと思います。

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