アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
岡山県の北部、津山市に建つ施設で、建築家の岡田新一さんがコミッショナーを務める「クリエイティブタウン岡山」と呼ばれる公共施設づくりの一環として計画されました。今から七年前ほど前の1993年、私が設計者に指名されました。
ここはもともと酪農試験場があったところで、本州では珍しいたおやかな丘がうねっているところです。1993年10月、この景観を初めて目にしたとき、ずっとここいたくなるような建築をつくりたいと思ったことを今でも覚えています。地形にあらがうのではなく、また委ねきってしまうのでもなく、この素晴らしい自然とともにあるような建築をつくりたいと考えました。
具体的には、アンジュレーションのもつ高低差を平面や外観に利用できないかということ、そしてもうひとつは、緩やかな曲線のスカイラインを描くような建築がつくれないかということです。つまり、この土地がもっているたおやかなアンジュレーションの上に、さらにもうひとつ、人工のアンジュレーションを載せて、この土地独特の景観を活かした新たな風景をつくり出したかったのです。
私がここで要求された施設は、いわゆるクワミッテルハウスというものです。これはドイツを発祥とする施設で、簡単にいうと温泉を用いた医療、健康増進施設です。プールのようなものが中心になりますが、健常者のためだけではなく、障害のある方がリハビリに使うため、車椅子のままプールに入れるような設備も備えています。レジャー施設ではなく、あくまでも医療、健康増進施設であるということを念頭に置いて計画を練る必要がありました。
グラスハウスというのは当初から与えられた名前で、私が付けた名前ではありません。
グラスハウスと聞いて、私がまず思い浮かべたのはロンドンにあるキューガーデンの温室です。私は計画を進めるに当たって1993年の年末から94年の初頭にかけて、このキューガーデンを実際に見に行きました。
そこで感じたことは、ガラスの建築で大事なことは、建物を通して向こう側が透けて見えるということ、つまり透過性だということを認識しました。ところがこのキューガーデン、用途が温室ですから内部で頻繁に水を使います。すると内外の温度差によってはたちまち結露するのです。結露するとどうしても透明ではなくなり、魅力が半滅してしまいます。ですからガラスの建築をつくる場合、この結露をいかになくすかということが何よりも重要な課題となるわけです。以後、このことは技術的な課題として常に私の頭を悩ませ続けました。
もう一点、透明性を確保する上で重要なことは、架構をいかに細く見せるかということです。いかにガラスが透明でもそのなかの架構が無骨で、その向こうに見えるはずの風景を遮ってしまっては元も子もありません。この設計では佐々木睦朗さんとともに構造設計を考え、繊細な架構を実現しました。
当初はH型鋼を構造フレームに考えていましたが、私の考えで鋼管のフランジとウェブを組み合わせて用いています。ここで重要となるのが、鋼管を用いたことです。構造材としてのみならず、送風ダクトとして設備的にも役立てようという試みです。鋼管の中に地下から乾燥空気を送り込み、鋼管に空いた小さい穴から直接ガラス面に吹くことによって、冬場の結露をなくすことができました。この方法は結露防止のみならず融雪にも効果があり、冬の暖房はこれと床暖房とが墓本となります。
また、ガラスの透明性を常に保つためにはメンテナンスが大切です。そのため内外ともにメンテナンスブリッジを設けましたが、この建物のガラス面は、場所場所でその曲率が変わります。事務所の担当者が数学に強くて、その曲率を全部手計算で出してから構造設計に落とし込んだのです。緩やかな曲線がこの建物の特徴ですから仕方がないのですが、曲面がすべて同じ曲率でできているわけではないために清掃するシステムが単純にはいきません。そのため、可動する先端の部分だけが、自由に伸びていくような仕掛けをつくって、曲率が変化するガラス面にスムーズに対応するようにしました。
内部のメンテナンスプリッジは張弦梁を用いたとても細いもので、一見するとどこにブリッジがあるのかわからないようになっています。電動で動いて、内部を周回メンテナンスができるようになっています。
一方、夏場は結露の心配はほとんどありませんが、室温が高くなり過ぎる恐れがあります。これに対しては、十分、白然換気が行えるよう考慮しました。熱だまりを設け、そこから外へ熱気を排出するという方法です。その熱だまりがジャンボトップのような曲面でふくらんでいるのです。
この建物は、北半分を占めるドライゾーンと、南半分を占めるウェットゾーンに分けることができます。
北側のドライゾーンには、基壇状に重なるコンクリートのマッスが設けられており、そこには事務室やレストランなどの諸機能が入っています。この基檀上のマッスは、近くにある津山城趾からイメージしてデザインしたものです。ここで四角いオフィスビルみたいなものをつくっても仕方がありません。もともとこの地に存在していたような形態を使いたい、それは何かと考えたときに津かんだのが津山城趾です。
南側のウェットゾーンには遊泳プールやフィットネスプールが、それぞれいくつかのレベルに設けられています。ロッカールームを出ると、まず中間のレベルに出ます。そこから各自が目的にそって、それぞれのプールに移動します。遊泳プールから屋外プールには泳いだまま直接在けるようになっています。この屋外プールからは、景色が180度見渡せるように手摺りの位置なども調整しました。泳ぎながらであれば、手摺りが見えない状態で、周囲のランドスケープを享受できるのです。また、一般の競技用プールの水面の周固にはドレインがあって水と地面とが仕切られでしまいますが、ここではドレインがどこにあるかわからないように境目をなくし、人工の渚をつくりました
ウエットゾーンの完端には、熱気浴、簡単にいいますとサウナがあります。低温のものと高温のもの、そしてミストサウナの三種類です。また足湯といって、足先だけを暖める施設も設けられています。心臓から離れたところから暖める、あるいは冷やすという目的で使うもので、特にお年寄りや、小さいお子さん、心臓の弱い方がサウナを利用するときには必要なものです。またサウナから出た後、体を冷やす際、人間というのは足首から冷えていくために、そのままでは足先だけが極端に冷たくなってしまうことがあります。そうならずに体を徐々に冷やすことが、この足湯の目的です。
プールに必要なさまざまな機能は、なかなか建築作品として成立しにくいものです。ウオータースライダーなども普通につくるとオモチャみたいになってしまいますので、外側を全部真っ自、内側を真っ黒にしました。
監視台もありきたりなものでは面白くありませんから、全体をガラスで覆ってしまいました。床もガラスで、真下を見ることができます。視線が周囲に行き渡りやすく、死角が少ないわけですから、デザインのみならず機能としても優秀な監視台といえるのではないでしょうか。障害者の方が、ロッカーから直接プールのゾーンに来ることができるよう外周にはウッドデッキのスロープをまわしました。障害をもった人のための施設としては、このほかに昇降式のプールがあります。これはゼロからニメートルまで深さを調節できるプールで、車椅子を使ったままの状態でプールの床が下がっていくものです。後天的な障害の人はそうでもないのですが、先天的に障害のある方は、健常者には考えられないくらい水に対する恐怖心があるといわれています。そういった水に対する恐怖心をできるだけ除くことをも目的としています。
また、このプールの脇に設けられたインストラクターのための通路は、水面よりもレベルを下げてあります。レベルを下げることで視線を低くし、プールの中の人と同じ視線のレベルで話ができるようにしてあるのです。この施設は昼間もさることながら、夜もロマンティックですので、ぜひ夜も利用してください。しかも寒いときがいいんです。暖かい温泉プールを泳ぎながら屋外に出たときの気分は最高です。恋人同士でも楽しめるのではないかと考えております。