アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
「羽根木の森」の敷地には森のようにたくさん木があり、お施主さんに「木を一本も切らずに建てます」と約束しました。整然と木が植わっていないので、木を避けるように柱を立てると、社も梁もすべてがアトランダムになり、構造体が高くなるので、なんとか整然としたグリットを当てはめられないかと考えました。正方形とか長方形のグリッドを試した結果、一辺四メートルの正三角形のグリットを用いると、木や根を切らずに済むことがわかりました。正方形や長方形のグリットの柱には四本の梁や地中梁が集まります。しかし、枝や根があるからといってそのうちの二本の梁を取ってしまうと、柱が自立しません。ところが三角形ですと一点に六本の梁が集まっているので、そのうち三本まで取っても柱は自立するのです。このように三角形にすることによって、梁の位置の選択の余地が増え、木をまったく切らずに構造グリッドを入れることが可能になったわけです。
この集合住宅には、トリプレックスという三層構成の住宅が11軒入っています。夏は葉がうっそうとして屋根をほとんど覆ってしまうので、涼しくなるという効果もあります。もともとここは近隣の人たちが愛する森だったので、一階にはあまり部屋を入れず、なるべくピロティとするほか、エントランスを透明にしたり、部屋にミラーガラスや鏡を貼ったりすることで、部屋の存在感をなくし森の感覚を残すようにしました。
最近、ベニヤを構造に使うことに興味をもっていて、ベニヤを網代に編む構造の開発を進めています。秋田県大館市の今井病院附属託児所では、網代に編んだ集成ベニヤ材を圧縮材としてトンネル状のアーチをつくることを考えました。しかし、圧縮材に使うということは、当然、厚みが余計に必要で、綱代状に編むことは困難です。そんな折、大館名物の曲げわっぱが目につき、網代構造ではなく曲げわっぱ構造になりました。ただ、ベニヤをただ曲面にしても、風があると簡単に撓んでしまいますし、積雪の問題もありますから、45度の勾配屋根をトンネルアーチの上に載せてあります。
屋根とアーチの間にはラチス材を立体的に入れ、全体の剛性を高めているほか、ダブルスキンとなりますので断熱性能も高まりました。曲わっぱの穴の部分にはガラスを入れ、屋根には半透明のFRP折板と不透明のスチール折板を使いました。
2000年、ドイツのハノーバーで開催された万博の日本館を設計しました。コンサルタントをフライ・オットーさんにお願いし、ドイツの紙管メーカーと実験を重ね、開発を始めました。高速道路を利用して、20メートルの再上紙の紙管を運び込み、それをプラットホーム状の仮設の上に平らに敷いて、それを四本の垂直プロップを手で回しながら曲面シェルを形づくり、毎日GPSで形を調整する施工方法を採りました。
博覧会のパビリオンの最大の問題点は環境問題です。せっかくつくっても六カ月で壊してしまいますから、大量の産業廃棄物を出すことになります。そこで再生紙の紙管は、解体後メーカーに引き取ってもらいリサイクルしてもらいました。また、基礎のコンクリートはリサイクルしにくい材料ですから、木で箱をつくり、中にリユース可能な砂を詰めて基礎にしています。膜材についても、塩化ビニールは焼却の際ダイオキシンを発生しますから、日本の企業と協力して防水性能と不燃性能がドイツの基準に合う紙の膜を開発しました。
ジョイントに関しては木ではなく布を用いています。岐阜でつくった「紙のドーム」では木のジョイントを用いましたが、木のジョイントは紙管に比べ高価なので、ここでは布のテープをジョイントとして使いました。平らな状態から上げていくと少しずつ紙管と紙管の角度が開き自然にテンションがかかりますし三次元方向に紙管がねじれる複雑な動きを布のテープは許容してくれます。
それからオットーさんの提案で、工事とメンテナンス用に使える梯子状の木のアーチ(ラダー)とこれに直交する木のフレーム(ラフター)を組み合わせ、紙管のグリッドシェルに剛性をもたせることにしました。しかし、ドイツの役所は、どれだけ実験や計算で確認しても、前例のないことは許したがらず、ラダーの断面が必要な大きさの四倍にさせられてしまいました。そのためこの構造は、正直なところ紙の構造というより紙と木のハイブリット構造です。その後、ニューョークの近代美術館で、その中庭を覆う「紙のアーチ」を建設する機会がありました。この時は規模的にはハノーバーよりずいぶん小さいものの、ニューヨークにはドイツのような意地悪な役人がいないので、ハノーバーでやりたかった理想通りの紙の構造ができました。