アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
最後にようやく熊本の話ですが、航空写真を見ていただければわかるように、野原みたいなところでつくっています。
大学の構内の木を使いたかったので校長先生に聞いたら、構内の木を切っていいといわれました。校長先生といっしょに木を切ったんですけれども、その木を使おうとしたら、中にスが入っていて、ほんとうに残念でした。やはり九州の木は台風の影響で中に変なスが入るんです。それでも使いましたが、とにかくこのように地元で切った大事な木はかならず使うことにしています。
それから九州では、探せばスギとヒノキとベイマツ以外にも使いたい木が結構あります。アカマツも熊本にあります。これは燻蒸乾燥して玄関に使いました。
丸太の表面を曲面カンナで削るんです。ぼくがいちばん好きな仕上げですが、木の幹のデコボコしたところを均さず、そのまま生かして曲面カンナで削ります。写真はぼくが実際に削っているところですが、ぼくはかならずこういう特殊な仕上げをするときには自分でやってみます。この仕事は熊本県のアートポリスの仕事ですから、地元の三人とぼくとで全部削りました。
銅板を外壁に張って水切りにしようということで、実験しているところです。水切りの影が壁に上手く落ちるときれいに見えるので、できるだけ毛深く表現するために水切り板を外壁より出っ張らして使ったわけです。
次は雨樋をつくっているところです。ぼくは雨樋を自分の手づくりでつくることにしています。丸太をタテ半分に割って、間をチェーンソーで筋をつけて削ります。先端の仕上げはグラインダーで削ります。ノミで削ってもいいです。長さは四メートルくらいです。一日あればできます。
出来上がった木製樋にキシラデコールを塗るとかなり耐久性があり、五年に一回くらい塗ればおそらく永久にもつはずです。熊本では全部で十本くらい雨樋があって、それをすべて設計者側が手づくりしました。こういうことを実際にしてみるのは、ある意味では設計より面白いです。
熊本では貝灰も使ってみました。貝を焼けば漆喰ができるのです。今、日本で貝灰を焼いてるのは有明海しかありません。貝灰は、石から焼いた石灰より柔らかみがあって、それがいいのです。
これは建物が出来上がった全景ですが、大学と学生寮の間に築山をつくって、その間を通って行くようにしています。大きな建物で、中庭が四つあります。中庭の経は百メートルくらいです。
次は玄関側から見たところです。向こうが校舎です。そして目隠しの築山です。
回廊の壁の漆喰は貝灰と山の土を混ぜてつくりました。
食堂のインテリアです。アカマツの木を林立させて、林のようにしたかったのです。上の梁を全部隠して、柱だけしか見せていません。これがなかなかよい効果を出していると思います。
床は熊本産のクリ材です。自然素材をできるだけ建築に生かすつもりで使っています。
この建物でも、施工業者にしてもらえないようなさまざまな作業を自分たちでしました。
中央の中庭に日時計をつくりました。自分たちでそこに色を塗っているところです。こんなふうに日時計のこのあたりを塗ったわけです。
建物が仕上がった後、引き渡して、大学も始まったんですが、壁の仕上げにどうしても気に入らないところがありました。
これまでの経験で、土にハイフレックスを入れて塗る技術を知っていましたから、自分たちで塗り直しているところです。ここでも手伝ってくれる人が大勢来てくれました。とにかく作業してみたいという人が結構大勢いるんです。ぼくが声をかけると相当の人数が来てくれます。それで、みんなでつくっているところです。
左官さんが仕上げてくれたところは、白いところが多過ぎたものですから、どうも気に入りませんでした。ほかと同じようにしたほうがいいと思いましたので、左官さんが塗ってくれた本来の白いところに、上から土を塗りました。わりとよくできたと思います。ほかにも自分たちでいろいろと直しました。でも、その気になれば、白分たちで結構いろんなことができます。
熊本の経験の中でぼくがいちばん大きく学んだことは、建設業に素人が参加することができるのではないかということです。本格的に仕事としてするのは困るんですけれども、例えば二泊三日や一泊二日で参加する、それは本来の建設がもっていたように、みんなでワアッとやる面白さです。それを回復するのは建築にとっても、あるいは建築と社会にとっても大事ではないかということを熊本で考えました。