アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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藤本 壮介 - Between Nature and Architecture
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2023 東西アスファルト事業協同組合講演会

Between Nature and Architecture

藤本 壮介SOUSUKE FUJIMOTO


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太宰府天満宮 仮殿

ダイレクトに自然を持ち込んだのが「太宰府天満宮 仮殿(2023年)」のプロジェクトです。太宰府天満宮は菅原道真公を祀る1100年以上の歴史がある神社です。御本殿は430年ほどの歴史がある建物で、これを124年ぶりに大規模改修をすることになりました。漆の塗り替えと屋根の葺き替えをすると約3年間かかります。その間正面に御本殿の写真がプリントアウトされた仮囲いだけというのは道真公にも御参拝の方にも申し訳ないと、太宰府天満宮の宮司さんは考えたそうです。宮司さんは若い方ですが、以前から境内全体で現代アートを展開するなど先進的な考えをお持ちで、1100年以上の歴史を受け継いでいる一家に生まれながら同時に最先端のものをやっている方です。彼は「その時々でいちばん最先端のことにチャレンジすることで初めて伝統は守られる」とおっしゃっていて、今回の御本殿の改修の期間は手前に仮殿をつくろう、しかもそれを最先端の現代建築にしようということで、依頼をいただきました。1100年以上の歴史がある中で3年間とはいえ何をつくればいいんだろうと、ありがたいけれどもプレッシャーを感じました。ヒントになったのは、鬱蒼とした緑が生い茂る山に囲まれて、樹齢1000年以上のクスノキがあちこちに立っているという環境です。日本の伝統建築の本質は何かと考えた時に挙げられるのは、大きな屋根です。もうひとつはそれが自然の素材で葺かれていることです。水を吸ったり、気温によっては朝靄の中で湯気を出していたり、まるで生きているような大きな屋根が日本の建築、特に神社の建築の本質だと思います。大きな屋根を現代建築に翻訳する時に、現代的な素材をさまざま思い浮かべましたが、敵うものが思い当たりませんでした。生きているかのような大きなボリューム感を表現するには、森をそのまま浮かべてしまったらよいのではないか、あるいはそれぐらいしないと釣り合わないのではないか。そして、周囲には山と森があるので、森が浮いているという一種過激な最先端の現代建築であっても風景に調和するのではないか。さらに、生きている大屋根という意味でも、伝統と繋がることができるのではないかと考えました。太宰府天満宮は、鳥居や太鼓橋を抜けていく御本殿までのアプローチも美しいですが、仮殿は最後の楼門という門から緑が一面に広がっているような感動的な風景をつくり出しています。門をくぐって初めて、目の前に浮かんだそれが屋根の森だと分かります。

そのため屋根はかなり前に傾斜を付けています。陸屋根に木を植えると下から見た時に軒の天井が見えるだけで、緑がそのまま屋根になっている感じがしません。そのため30度近く傾けることによって、下草も含めて全部屋根として見えてくるようにしています。さらに言うと、伝統建築も屋根が傾いています。深く傾斜した大きな屋根で、低い軒を持つ伝統建築のような建物を現代的につくることができるのではないかと考えました。さらに楼門は軒先が反り上がっています。現代建築では軒先はフラットになることが多いですが、今回はフラットな軒先は合わないと思いました。そこで屋根は半円形とし、薄いお椀のように中心にいくに従って厚くなるようにしています。いちばん厚いところは1メートル以上の深さがあり、背の高い樹木を配置しています。そうすることで屋根の上は平らな面で、左右の軒は繊細に切れ上がった造形がつくられます。また、軒裏の反っている面に木製のルーバーを入れることで、内部から見た時に伝統建築の垂木と同じような反りのある天井面をつくることができています。伝統建築をリスペクトしながら、それをただコピーするのではなく、現代的な方法でそのスピリットを実現できないだろうかと考えました。

「太宰府天満宮 仮殿」南側全景。屋根には5m以上の木々が植えられている

「太宰府天満宮 仮殿」南側全景
屋根には5m以上の木々が植えられている

楼門越しに見る

楼門越しに見る

南側俯瞰

南側俯瞰

南西外観

南西外観

屋根近景。奥に四天王山が見える

屋根近景
奥に四天王山が見える

断面

断面

断面詳細

断面詳細

屋根の下には、斎場という祈願や神事を行う空間があります。ここにMame Kurogouchiさんがつくったテキスタイルがあります。宮司さんが、伝統的な織物ではなく、現代的な御帳と几帳を依頼してつくられたものです。仮殿の屋根の下はあえてほぼ黒の暗い色にしました。軒下が深く暗くなっていると、その中にMameさんの繊細でさまざまな色が混ざり合った美しい御帳と几帳や伝統的な装飾品が浮かび上がり、周りの山やクスノキ、建物の朱色、檜皮の色さえも鮮やかに引き立たせながら、すべてが繋がって見えてきます。建物単体としては非常に過激な現代建築ですが、この場所に置かれると、正面に見える美しいファブリックと緑に囲まれた環境を際立たせながらも、周りの景色に同化するようにつくっています。最先端の前衛と歴史のある伝統の融合を試みています。

斎場の御帳と几帳

斎場の御帳と几帳

斎場。御帳に向かうほど暗くなるように湾曲面を形成

斎場
御帳に向かうほど暗くなるように湾曲面を形成

屋根の上に植えている木は、境内にも植えられているクスノキをメインにしています。太宰府天満宮は梅が有名なので、梅も植えています。その他、サクラやモミジも交えて、下草も季節によって移り変わるようにしています。3年後にはこの建物は解体してしまいますが、樹木は境内に移植する予定です。特にクスノキは長生きですので、建物がなくなった3年後もおそらく1000年後まで生き続けます。1000年前から1000年後までを視野に入れた壮大なプロジェクトに最後はなっていきました。

今回はダイレクトに緑を持ち込んだプロジェクトになりました。自然と建築の関係は多種多様で、時にはダイレクトにグリーンを使うことが1000年の伝統とこの先の1000年を繋ぐ一瞬をつくり出すことにもなると思っています。


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