アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
宮脇もう1つ、ビデオでも出てきた「いちご」の本ですが、大傑作ですね。感激して見せてもらいました。絵がうまいのはもちろんですが、ちょっとさきはどのいちごの話を皆さんにもう1度して下さい。つまり、新宮さんは立体造形作家ではなくて、地球と話を、地球の上にあるいろんなモノと話をしている人なんです。そんな中でジンベエザメと話をしたり、クモと話をしたり、いちごと話をしたりして、一生懸命地球上の生物の存在を探ろうとしているように思うんです。私たち建築家もまた、建物をつくることが商売ではなくて、建築をつくるという行為によって、人間の生活や地球上の私たちを考えるということをしようとしているんであって、僕はさきはど随筆家なんて冗談にいいましたけれど、随筆家というのは、建築家というと、建築のモノをつくる人と思われることが随分あるんです。そうじゃなくて、その間にこぼれている部分を随筆という文章で拾ってやっているという意味です。新宮さんの彫刻も、彫刻というモノでない、その間や周囲に落っこちている地球の表面のなにかを表現しようとしているんだろうと思います。その力余って「いちご」の本などが出てくるんだろうと思いますが、違いますか。
新宮「いちご」の本は1975年に出版しています。しかし、いまの宮脇さんの質問は答えるのがむずかしい質問です。
この本を書こうと思ったきっかけは、あるとき私のアトリエの前に雪が降って、その雪の中にたいへん元気のいい緑が見えていたんですね。それで、近所のお百姓さんに「これ、なんですか」と聞いたら、大阪の人ですから「いちごでんがな」「雪割りいちごですか」「いやいや、これがいちごでんがな」といわれて、こんな雪の中で、これから暖かくなるまで、こうして露地物というのは育っていくんだ、と感激したんです。白い雪と赤い実を結びつけて、すごいことだなと思う反面、1つには、人間はパクパクいちごを食べるし、ショートケーキの上にのっていたり、デザートになってしまっているでしょ。こんな立派な自然の恩恵を得て育っていくものを、そんなことも知らずにパクパク食べるほど皆んな偉いのか、という皮肉な気持ちも少しはあったんです。それで、いちごを徹底的に描いてやろうということでこの本をつくりました。
宮脇皆さん、気がつかれましたか。「赤い実の真ん中には太陽の届かない白い冷たい世界がある」。あの黄色いところは種でしたっけ。
新宮そうです。
宮脇いちごって本当にこうなっているの。
新宮噛んでご覧なさい、そうなってます。(笑)
宮脇いちごってあれは実じゃないんですよね。
新宮花托です。花の後ろにある部分が肥大化したものです。果物というより花でしょうか。バラ科ですから、葉も完全にバラです。バラ科の花托が肥大する癖のあるものを交配してできたもので、百数十年の歴史しかないものです。
宮脇知らなかったな。
パッとめくると、その次がまたすごいんです。「いちごには果てしない風景がある」。その次がもっとすごくて「フラネット、惑星ブルベリー」となってお話は終わるんです。いちごが緑の葉っぱから次第に茎を延ばしていきながら、やがて雪の中に潜っていって、真っ白い実がなって青くなって赤くなって、最後に惑星になって出てくる。その辺まで話を延ばしていく辺りが、本当に新宮さんらしくて、私は大好きなんです。こうした本は「いちご」の他に「くも」ゃ「じんべえざめ」があって、変なものばっかりですね。なにか理由がありますか。
新宮もちろん、それぞれには理由があります。「くも」は「いちご」がたいへん評判がよかったものですから、思いがけずという感じです。
クモは昆虫だと思っている人が多いんですが、昆虫じゃないんですよ。八本の脚があるでしょ。だから昆虫じゃなく節足動物なんです。クモに近い動物はダニやカニです。
地球上に100万種類ぐらいの生物がいる中の約30,000種類がクモ科に属し、そのうちの約1000種が日本に棲息しています。面積の小ささからいえば多いほうです。その中でも巣を張るのは約半数で、残りの半数はただ這いずりまわっているだけです。
私がこの本で描いたのは円網を張るクモなんです。
宮脇円じゃない巣を張るクモもいるんですか。
新宮いろいろあります。
宮脇「くも」の本には星座が出ていましたが、クモは星座を見ながら巣を張ったりするんですか。
新宮クモは非常に宇宙的な生物で、星座を見ているかもしれないんです。オニグモとか毎日巣を張り換えるクモがいるんです。だれも破らなくても、朝になったら巣を1度たたんでしまい、夕方になると、その日の風向きや湿度に合わせて確立の高い巣の張り方をするんです。
宮脇昨日はあっちで収穫が悪かったから、今日はこっちで張ってみようってやるんですか。
新宮そうはいかないんです。横糸は1本残していますから、方向とか形を変えるんでしょうね。別に私が特別クモを好きだから本にまとめたわけじゃなくて、クモを見ていると、天才的な建築家だなと関心するんです。空間に明日の食料まで獲得できる巣という見事な造形をするわけですから、ものすごい空間のセンスがあるんだと思います。クモは逆さになってジッとしているでしょう。円網はそこから下に向かって広がっていきます。これは野球のキャッチャーが下を向いている恰好と同じなんです。それにくもはほとんど目が見えていないんです。くもが放射状に縦糸を引くのは、獲物がどの程度の大きなモノか元気がいいかをバイブレーションで知るためなんです。くもは生きているものしか食べません。非常に清潔な生き物なんです。
宮脇やっぱり、クモが好きみたいですね。(笑)
新宮デザイン的にもきれいだし、いちごはポピュラーですね。しかし、クモはおそらく大抵の人に嫌われていると思うんです。だから、クモ好きを増やそうという気持ちはありました。
宮脇「いちご」の後が「くも」で、その後が「じんべえざめ」ですか。
新宮そうです。10数年前にジンベエザメを初めて沖縄の水族館で見て、魚の中でいちばん大きい種類なのに、どうしてもっと注目されないのかと不思議に思っていたわけです。大きいのは18メートルくらいになりますから、いちばん大きいんです。
宮脇クジラは哺乳類だもんね。これはずっと昔から生き延びているものですか。
新宮サメですから、ある意味では昔からはとんど進化していない種類の生き物です。プランクトンだけで生きています。私たち人間が水中で暮らしていないから、そんなすばらしい仲間をよく知らないというのはいけないんじゃないか、なんとか紹介したいと思って本にまとめたんです。そうしたら、ちょうど同じ時期に大阪の「海遊館」に巨大水槽ができて、4.5メートルくらいの比較的小型のジンベエザメを飼育することになって、それでたいへんポピュラーになりました。そんな時期に本が出版されたので、なにか初めからねらっていたように考えられるんですが、偶然です。
宮脇やはり、「いちご」にしても「くも」にしても「じんべえざめ」にしても、なんとなく正統でない、果物と花の間とか、昆虫と爬虫類と魚の間みたいなところを追っているのは、絵画と彫刻と技術の真ん中を潜っている新宮さんの作品あるいは作風と関係がありそうですね。
新宮美術界のジンベエザメでありたいと思います。(笑)
宮脇そういう意味でこの本を見ていると、本当にやっぱり新宮さんは立体造形作家ではないんですよ。「じんべえざめ」の売上げはWWFですか、地球を守ろうという基金に捧げてますね。
新宮それも、いまは流行になっていますのでいやなんですが、WWFというのはそういう運動の中ではいちばん古くて権威のある組織です。
宮脇新宮さんの地球という環境をもっと大事にしたいという気持ちの表れですね。皆んな、同じように感じていてもなかなか行動に移せない人が多いのにね。
新宮「じんべえざめ」の本を書く中でいろいろ調べると、こんな性質のいいヤツはいないということがわかります。だから、そんないいヤツからお金をもらうという感じになるのはいやだなという気がして、寄付先を探したんです。
宮脇あなたは、本当にいい人ですね。(笑)
その人となりが、ああいう作品を生み出すんですね。