アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
次は静岡県伊東市につくった、小さな冬の避寒のための別荘「伊東の家」です。
これは敷地70坪ほどの傾斜地に建つ別荘です。敷地は東と北が道路に接する角地で、南には隣家があります。西はかなりの急斜面ですので、隣家はじゃまにならず眼下に見える南伊東の市街の向こうに山並みが見えます。
全体の配置は、建物を敷地中央に置き、東の道路に面して門を配置し、門から玄関の間に短いながらもアプローチを確保しています。
建物の構成は東の道路から入ったレベルを一階として主要な部屋を納め、二階には予備の和室、地階は基礎を兼ねた鉄筋コンクリート造として、浴室などを納めています。小規模な建物を三層にしていますので、建物はこじんまりとしたものです。平面的にも単純な形をしています。
これに屋根の架け方で変化をつくり出して、この別荘に建築としての形態的な特徴を与えることを考えました。建築を引き立ててくれる庭園も今回はありませんので、建築だけで少し自己主張をしようというわけです。
屋根をできるだけ細かく分割して架けてみようという考えでスタートしましたが、小さな家ですので、屋根の数にも限界がありますから、出窓の庇もその数のうちに加えて、幾重にも重なる屋根のイメージを追求しました。そして、その中心になるのは、この家の空間的な芯ともいえる、一、二階の八畳の上に高々と架けたクロスする急勾配の入母屋風の屋根です。この屋根を支えるように他の屋根の架けられています。普通、水平方向に展開する数寄屋とは若干異なる形態です。
さきほどの北山山荘は丸太を多用し、屋根にもむくりをつけて、やわらかい表現をしている部分もありましたが、この「伊東の家」は、それに比べるとずっと硬い感じのデザインです。 その上、屋根もこういう形ですので、全体的にはかなり鋭角的な印象を与える建築だと思います。そこで、門のデザインはこれと対照的なものを試みることにしました。門扉の上に片持ちのスラブを差し掛けて、薄いかまぼこ型に銅板を葺いて、建築の形とは異質な形態を建築と重ね合わせています。異質な要素の混合による面白さを意図したものです。
次に、この家の内部空間ですが、ここでも北山山荘に近いレイアウトを採用しています。まず、玄関前室ですが、これは北山山荘の土庇に相当する空間と考えてよいと思います。一応、建具はありますが、当然素通しの格子戸です。この前室と、中心になる八畳の座敷は背中合わせになっていますが、座敷にいたるには、ここから玄関、取り次ぎ、畳廊下、板の間、という具合にぐるりと家を半周することになります。これは途中の空間的な変化を体験してもらうための配置であると同時に、八畳の座敷と外部空間との間に、一つの空間を介在させたかったからです。直接外部に接する部屋ばかりでは、内部空間の質が単調になると考えたからです。
西側の板の間は、眺望が開けていますから、この景色が庭の代わりです。南の畳廊下の外は、わずかな余地しかありませんが、目隠しの垣根をして数本の竹を植えただけですが、結構効果的なスペースになりました。
二階には二つの和室があります。一つはクロスした入母屋風の屋根の下の八畳です。屋根の形を写した天井と、ひうち梁によって、この家の中では異質な空間になっています。そして、外観で屋根の数を稼ぐためにつくったような出窓が、もう一つの三畳の和室を性格づけるものとなっています。
スライドはこれで終わりです。ご静聴ありがとうございました。