アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
今度は、自然地形の中でのリアルな「土」とのコミットメントのダイアローグの一例をご紹介します。これも実現しなかった計画です。
馬の産地として有名な北海道の浦河で、五年ぐらい前にダムの景観計画に参加していました。僕が土木の橋梁のコンペティションに参加したり、土木と建築の中間的な仕事をするようになったものですから、その一環として、本来は土木のコンサルタントがするような仕事を頼まれることもあったのです。
計画されている浦河ダムの堤体のすぐわきに、パーキングのための広場が取られていて、そこに二段ののり面が出来上がっていました。その時点で、ダムの管理棟をどこに計画したらいいか判断してほしいといわれました。
土木コンサルタントがそれまでにまとめたレポートを見ると、ダム周辺に五、六カ所候補地を挙げて全部○×方式で評価をしていました。最後に候補地が二カ所に絞られたのですが、それから先の決め手がないということで、建築の専門家にも聞いてみようということになったのでしょう。
毎日、ダムをチェックする必要があるので、堤体のすぐ近くに管理棟を計画したほうが便利なのですが、のり面があるために上流湖水を見渡すことができません。一方、上のほうの敷地は、上流の湖水がよく見渡せます。湖にはボート遊びにくる人も大勢いますから、安全管理の意味からも見通しがついたほうがいい。
しかし、ダム本体や駐車場から遠くなって行き来が面倒です。どちらも一長一短の部分があって、なかなか決めかねていたわけです。
そこで僕は、分類学的な発想の中に見落とされているところこそ、その回答があるのではないかと、次のような提案をしました。上でも下でもなく、のり面を暖い勾配で切り、中間に建築物をつくるということです。アプローチも近くなり、上流湖水も見渡しやすくなります。
それをさらにデザイン的に突っ込んでつくってみました。土木のそういった計画に初めて参加し、土地に対してもう少し建築がコミットしていいのではないかと感じたからです。硬直化した制度の中、どんな建物が建つのかとは無関係に、どんな建物であっても建てやすいように、あるいは売りやすくするため機械的に造成工事が進んでいくことに対して、もう少し現実の土に対して発言をすることが必要ではないか、建築の発想の中にすでにそれを組み入れていくことが必要ではないかと思いました。
少し抽象的な話になりますが、図形性をもったものとそうでない地の部分、フィギュアとグラウンド、そういう一つの構成として、われわれはものをとらえますが、ここではそういったフィギュアとしての図形と、何となしに軟らかく削り取られるべきグラウンドが、だんだん近づいていく造形的な状況を想定して実験してみました。その中にいろんな風景が隠されているということを提案してみたかったわけです。
エレガントな例えでないかもしれませんが、鍋のなかにトウモロコシやニンジンなどの具をいっぱい入れ、そこに水を注いだその時点では、固体と液体の二つに分かれていますが、煮込んでいくと、水というさらさらした液体はドロドロしたミディアムになるし、もた固体のトウモロコシなどは逆に液状化していきます。これは概念のレベルの話ですけれども、ドンドン煮込んでいくうちに両者が近づいてくる、そういった造形。これは完全に頭の中のイメージの話ですが、そういったものを造形的に実験できないか、ということがこれなんです。どちらかというとオブジェクティブなものの中でそれを実験しようとしているものもあるし、グラウンド、地面といったものの中で十軒しようとしたものもあります。