アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
大きなアクリルの窓は1枚4000キロくらいあります。幅は約14メートです。床はコンクリート打放しです。この建物を請け負れた高橋組さんというのは地元のつき合いで一生懸命仕事を取っちゃったんですけれども、ふたをあけてみたら今までゲートボール場で3階建までしかやったことがなかった。そんな建物屋がこんなものを請け負うというのは、いきなり宇宙ロケットを設計するくらい大変なことなんですよ。下請け業者さんに川崎重工が入ったりして、下請け業者さんのほうがはるかに大きいというおそろしい状態になっちゃいました。ただ、ものすごく一生懸命やってくれました。ある時、高橋組さんから電話がありまして、「実はですね。失敗しちゃいまして、コンクリートの床にコールテン鋼をこぼしてしまいまして染みになっちゃいました。養生を失敗しました」と。へぇって見にいったらすごく綺麗な大理石のようなパターンがついていました。恩を売っておかなくてはいけないなと「ひどいな。でも、我慢しておきますよ」とほくそ笑んで帰ったんですけれども、でき上がったらみんなに「手塚さん、この床はどうやったのですか」と聞かれるのですね。「コンクリートにコールテン鋼を混ぜて水をかけていくとこういう効果が出ます」と話したらみんな信じちゃいました。ただこのコンペの審査員の妹島和世さんだけは、違うとわかっていたようです。この間、大学にギゴン&ゴヤーというスイスの建築家の方が「僕も銅の粉をまぜて建物に緑青のパターンを発生させてパターンをつくったことがあるんだよ」といっていました。「同じだね」なんて調子を合わせていたんですけれども、これも怪我の功名ですね。二度とできません。
アクリルのすごいところは本当に透明なところです。色が変わらないです。普通は厚いガラスを使うと緑色になってしまいます。いろいろな金属物質を含んでいるからどうしても色が変わるんです。ところがアクリルは全然変わらない。透明度がすごく高い。天気がよいと全然見えなくなっちゃいます。これは大成功だと思っていたら、ある時キュレーターの方から「鳥とか虫がぶつかってどんどん死んじゃうんです」と連絡をいただきました。自然科学館なのに困ったな。その次の会合で謝ったら「手塚さん。それがですね、自然保護区域ではリサーチしようと思っても動物を捕獲してはいけないというのが問題なんです。しかし、この建物はどんどんサンプルを増やしてくれてるんですよ」といわれました。どんどん剥製が増えている。この建物はサンプルを増やしてくれるということで褒めていただいたのですが、嬉しいような悲しいような感じでした。
ここの屋上にはもともと人を上げるつもりはありませんでした。そうしたら、北川フラムさんが面白がって「上げろ、上げろ」っていうんです。メンテナンス用の階段でみんな上がるものですから、階段がぐらぐらしてちょっと危ないと思うのですけれど、みんなそのまま喜んで上がっていきます。ここには宇宙から落ちてくる宇宙線をキャッチして信号に変えるという装置がついています。逢坂卓郎さんというアーティストの作品なのですが、その信号を建物の中に落として発光ダイオードで見せています。塔の途中には窓があって、いろんな高さで自然を観察することができる、そういう施設になっています。実際には塔に上がること自体がひとつの目的になってしまっている部分もありまして、どうせならお賽銭箱を置こうかという話になっています。
みんな、このあたりの豪雪に対して建物が耐えられるとは信じなかったんですね。地元の人も「だいたい東京の人たちがつくった建物は雪の季節になると潰れちゃうんだよね。どうせこれも危ないから」といわれていて。アクリルの窓も大丈夫だという話をしたのですけれども、全然信じてもらえませんでした。最後には「怖いです」って。地元の人にとって雪はネガティブな見方しかされていなかったけれども、北川さんのアートプロジェクトトリエンナーレを通してプライドをもつようになったんですね。雪も財産だということに気づきはじめたんです。このへんの雪は、スキー場にもならないのですよ。リフトをつくってスキー場にしようと思ったら、雪に埋まってリフトが動かない。掘り出さないとリフトが動かない。こんど逆に、夏になるとリフトの高さが地面から10メートル以上離れてしまう。怖くて誰も乗れないっていう場所なんです。雪をそのまま見るっていうのもあるんだな。雪っていうのは水族館と一緒で中にいろんな生物がいたりするんです。そういうことに気がつくようになってきました。
今、この建物は会員だけじゃなくて、3,000人の町の人たちを巻き込んだ「里山学会」を中心にして国際会議なども開かれるようになりました。地元参加型が上手くいっている建物として展開していっています。