アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
「北上川運河交流館」も建築が消えていましたけれど、これもある意味で建築が消えているといえるのではないかと思います。写真を見ても、僕がつくったのはどれかちょっとわからないんじやないでしょうか。茅葺きの集落の中に、同じ茅葺きの建物を挿入しました。
敷地は新潟の高柳という大豪雪地帯にあります。豪雪とそれからお米が美味しいことで有名なところです。その高柳の茅葺きの環状集落、環状集落というのは、真ん中の田圃が大きな円形をしていて、その円形を囲うようにして茅葺きが建っているというものなのですが、その一角に町の交流センター兼ビジターセンターをつくりたいというのが、この依頼の内容でした。出来上がってみると、きわめて自然に出てきたように見えますけれど、できるまでは迂余曲折があったのです。
茅葺きにするかどうかで、まず最初に迷いました。やはり近代建築を勉強してきていると茅葺きをつくることに抵抗があって、最初はガラスのボックスのようなものをつくろうかなと思ったんですね。しかし周りの景観を考えると茅葺きしかないだろうと決断して、芽葺きの案をもって現地にプレゼンテーションにいきました。
茅葺きで大歓迎されると思いきや、近隣の方に説明をしたら、正反対の反応でした。茅葺きに住んだことがないから茅葺きがいいなんて簡単にいえるんだ、これだから都会の人は困ると、たいへん怒られました。茅葺きはメンテナンスもたいへんで、あとあとお全もかかって、茅葺きを守れというやつがいるからひどい目に遭っていると、みなさんたいへんな剣幕で、僕はどうして茅葺きがこんなに嫌われているんだろうと今ひとつ理解できないまま、ビックリしてその日は帰りました。その後、茅葺きの保存をしている人たちや、茅葺き反対の人たちと何回もミーティングを重ねて、最終的には茅葺きでいこう、ここはやっばり芽葺きを守る場所だということになったんです。景観とか自然には唯一の正解がないのだということで、とても勉強になりました。
建物はたいへんかわいらしいですが、そのかわいらしさの印象は、ひとつには水田を建物のすぐ近くまでもってきていることにあると思います。建物が田圃の中に浮かんでいるようなデザインであり、それがこの建物のランドスケープの特徴です。また、建物のシルエットは平凡な伝統的なものですけれども、その建物を構成しているもの、たとえば素材であるとか建物と地面の接する部分のデザインなどは、伝統的なものを超えたことをしていると思います。
茅葺きの下は和紙を貼っています。柱や壁に当たる部分を全部和紙でくるんでいるわけです。建物の床も壁も和紙を貼っている。半透明な繭の中にいるような建築をつくりたかったのです。そういうことをやるきっかけになったのは、地元に日本でも有数な和紙職人の小林康生さんという方がいたことです。「久保田」というお酒のラベルを全部漉いている方ですけれども、その小林さんの和紙を何としても使いたかった。この場所でつくられる和紙という宝をできる限り使おうと考えた。和紙に耐久性をもたせなければならないので柿渋とコンニャクを塗っています。柿渋とコンニャクを塗ると和紙がものすごく強くなります。戦争中に使用された風船爆弾は、和紙にコンニャクを塗ってつくった風船に爆弾をつけて太平洋に飛ばしたものだったそうで、その技術を応用したわけです。
夜は建物全体が繭のようにふわあっと発光します。こういう建物ではアルミサッシュを使ってしまうと、茅葺きのよさが死んでしまうので、アルミサッシュをなるべく使わないで建築をつくりたいと思い、そのために和紙で中と外を区切ることを徹底しています。この建物の場合は豪雪地域なので、雪の季節には建具の外側に落し板と呼ばれる壁がつくようになっています。落し板をつけて防御することができるので、その中は和紙で建物をくるむことができたわけです。