アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
1999年にアルカシア(ARCASIA)というアジアの建築家が一堂に会する催しがありました。インド、フィリピン、シンガポール、マレーシア、中国、韓国、そして日本の建築家が年に一回集まって、アジアの建築家、建築界が抱えている問題を話し合おうというものです。この会議は韓国で行われたのですが、この会議の基調講演を頼まれました。
ちょうどその頃、グローバリゼーションということがしきりにいわれるようになっていました。インターネットがどんどん普及し、なおかつ技術的な面でもアメリカのひとり勝ちといった状態が確実になってきている中でのこの会議のテーマは「技術と伝統」でした。私は、グローバリゼーションに違和感を覚えており、それについて何かいいたいという気持ちが強く、講演のタイトルとして「Bold Architecture」という言葉を選びました。「Bold」は、しぶとい、頑強な、という意味ですが、そうした都市や建築をつくらなくてはいけないということを話しました。アジアのさまざまな国の人たちがどのように反応をするか、いくぶん心配もあったのですが、幸いインドの人もマレーシアの人もフィリピンの人も大変賛同してくれました。みんな気持ちの中にそうしたものがあったようです。つまりグローバリゼーションの波に対して、自分たちの文化をどのように保持していくか、あるいは自分たちの大切なものを失わずにどのように対処していくかということは、どの国にとっても大きな問題だったのです。
この講演で話した内容がこの時期の自分の作品に通底する思いだったわけですが、作品を総括する言葉としては、いくぶんわかりにくい「Bold Architecture」ではなく「Super Regionalism」としました。RegionalismにあえてSuperをつけたのは、偏狭な地域主義と取られたくなかったからです。つまり集落の形式を大切にせよとか、伝統的な様式に戻れとか、保存だとか、そういうことではなく、むしろ先端的な技術とその場所の固有性のようなものをどのようにして突き合わせるかということが重要だということです。
20世紀の初頭、地球上の人口はだいたい14億人でしたが、今は60億人。約4倍の人間が住んでいます。これだけの人間が住むためには、どうしてもテクノロジーの力が必要です。100年前と同じ形式でいいはずがありません。しかし、テクノロジーだけで解決するものでもありません。住環境は、場所性や伝統と切り離すことはできないわけですから、テクノロジーとどう付き合うがが間題です。その場所の固有性と最新の技術を組み合わせて、地球上のどこであれ、自信と誇りをもって人が生きていけるような建築をつくらなくてはいけないということです。ニューョークが世界の中心では決してないのです。北海道であれ、ロシアのどこがであれ、赤道直下のアフリカのどこかであれ、自分の立っている場所から世界を見るということをサポートする建築が必要なのです。アルカシアの基調講演で話したことは、そういった建築のあり方です。
クライアントである倫理研究所は、日常生活を正していくことを目的に活動している社団法人で、この施設はその会員が泊まり込みで研修するための施設です。
この施設では、設備面で積極的な試みをしています。そのひとつがライフラインと名づけた設備配管スペースを外壁に面した部分に設けていることです。断面を見れば一目瞭然なのですが、外壁のカーテンウォールはキャンティレバー状になっており、躯体から1,250ミリ外側に設けました。このことで躯体と外壁の間にスペースができ、ここに設備系配管のすべてを入れたのです。
また、ここは単なる配管スペースではなく、空気の流れを考えたときにも有効なスペースとなるよう工夫しています。たとえば、冬期、建物の中で暖めた空気を直接、外部に放出することはしません。講堂で使った空気はまず廊下に出します。そして廊下からライフラインヘと出して、ライフライン内の温度を極端に下げることを防ぎ、そこから最後に外部に出すのです。このように牧野富太郎記念館では分離することしかできなかったマクロの風とミクロの風を、ここでは連続したものと考えて扱うことができました。図1はこの考え方を図式化したもので、カスケード空気フローと呼んでいます。季節や一日の温度変化に応じた自然対流がつくり出されていることがわかると思います。
また、木造の仕口に関しても新しい試みを行っています。
具体的にいえば、設計のCAD化、その加工の自動化です。牧野富太郎記念館では、屋根架構の木製のジョイント部は手でつくらざるを得ませんでした。そのことが、ずっと気になっていたのです。考えてみれば、われわれが木造家屋を設計するとき、400年前につくられた継ぎ手仕口をほとんどそのまま現在も使っています。素晴らしい伝統技術を使い続けることは意義のあることですが、コンピュータや集成材など、新しい技術が出てきているのに、大工さんの腕だけに寄りかかっていていいのだろうかと感じていたのです。木と木が金物を介さないで直接力を伝え合うという継ぎ手仕口の原点を大切にしながら、新しい技術を採り入れることはできないか、と構造家の岡村仁さんと検討を進めていきました。見ていただくとわかりますが、その形状はとても複雑です。どうしてこんなに面倒なものをつくるのかと思われるかもしれませんが、コンピュータを使えばとても簡単なことなのです。CAD・CAMのデータを工作機械であるNCマシンに流せば、自動的に切り出してくれます。精度も遠度も驚異的に高いといっていいでしょう。この作業は、斎藤木材工業にお願いしました。実際につくってみますと、性能的にも非常によい結果がでました。期待値の1.5倍から2倍、場合によっては3倍ぐらいの数値が出ています。部材と部材が交わる角度が変わろうと、それを計算して加工してくれるので、有機的に変化する空間の構造体などに有効だと感じました。現場での組み立てもきわめて簡単です。大変だったのは、むしろコンクリート壁との接合です。
開口部では、ふたつの本邦初公開技術を使っています。そのひとつ熱押し型鋼は、鋼材をアルミなどと同じように押し出してつくるものです。新日鐵がもっている技術で、今まで、建物のいろいろな部材に使われてきましたが、柱に使ったのははじめてです。プレキャストコンクリートの屋根を支える柱と、木製サッシュが収まるマリオンとを一体化して設計しました。
もうひとつの新しい技術は、ペアガラスの一枚を発熱するようにしたことで、これも実験施設以外でははじめての試みです。ガラスの表面に薄い全属を蒸着して、それに徴電流を通すと100度ぐらいまで温度が上がります。ここでは、外気温が零下20度でも、ガラスは18度ぐらいまで温度が上がるように設定してありますので、ペリメーターゾーンのコールドドラフトなどを防ぐことができます。
こういった設備面での試みは、われわれと明野設備研究所の共同作業です。通常のエアコンによる冷暖房がらどうやって抜け出すかについて、お互いに知恵を出し合い検討を進めました。