アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
西澤妹島と共同でやっているものに話を戻しますが、スペインのバレンシアという都市に建つ、バレンシア近現代美術館の拡張計画です。
妹島バレンシアの旧市街地は歩いても2〜30分で端から端までいけるサイズの小さな都市です。この美術館は旧市街地の端に建っており、その向こうは新市街地です。
クライアントから求められたことは、延床2万平方メートルほどの美術館を3万平方メートルくらいにしたいということです。また、既存の建物は竣工後十数年しか経ってないので当然まだ壊したくないということでした。また、ギャラリーを増設することはもちろんのこと、パブリックな場所を大きくとりたい、倉庫などのバック機能を充実させたい、などという要求もありました。さらに、現在はエントランスホールが新市街地側にしかないのですが、旧市街の方からも入ってこれるようにして、ふたつの方向に開いたものとしたいということもありました。また、現在の美術館を設計した建築家がプラザを提案しているのですが、あまりうまく使えていないので、それを有効に活用したい、さらには屋上を考え直したいなど、さまざまな要求から始まった仕事です。
西澤そこで、穴の開いた薄い金属のパネルで建物全体を覆うということを考えました。正確にいえば、建物というよりも上空や周囲の空間にまで及んでいて、とても大きな皮膜面によって敷地全体を囲うというアイディアです。それによって前庭と後庭、かつ既存の建物の屋上を連続的につなげ、公共空間として開放するというような計画です。
妹島暑い時期も、それから短いとはいえ冬の寒い時期もありますが、基本的には青空がきれいで気候のよいところですから、半屋外のパブリック空間をつくれないかなということが出発点でした。
囲いの高さは約33メートル。旧市街に建つ建物の高さは16.5メートル前後ですから、その倍の高さのものをつくることになります。これをマッシプなものでつくってしまうと威圧的なものになってしまうので、もともとの建物が透けて見えるような透明感のある囲いをつくろうとしています。基本的には大きなその囲いの中にもうひとつ建物を増設して、オーディトリウムやオフィスを入れ、さらにサポートのための機能を全部地下に入れるようにして、既存の建物にギャラリーを集中させました。
西澤半透明の皮膜、私たちはこれをスキンと呼んでいるのですが、そのスキンは厚さ100ミリ程度の薄いパネルです。材料はまだ最終的に決まっていないのですが、穴の空いたスチールパネルを想定しています。太陽光をカットしながらも、風が抜ける、木陰のようなスペースをつくろうとしています。
妹島このスキンというのはこれ自体で自立するパネルですので、構造の佐々木睦朗さんのチームと、また、このスキンは環境をコントロールするための装置でもあるのでアラップのアリスターさんのチームと三者で組んで計画を進めています。基本的には穴の空いたパネルなのですが、太陽光をどのくらい入れてどのくらいシャットアウトするか、風をどのように通すかによって、穴の大きさとかそのピッチ、開口率、またスキン自体125ミリの厚みがあので角度も考えなくてはなりません。そのため部分的には穴のないところもあります。中はギャラリーですから設備でコントロールされていますが、それ以外はバレンシアという場所だからこそできる、気持ちのよい半屋外空間にしたかったのです。夏だったら日陰で涼しいと感じるし、冬だったら風がコントロールされて少しだけ寒さが柔らかくなる場所をつくり、そこをパブリックな場所にするのです。この美術館は彫刻のコレクションが充実しているので、この半屋外空間がスカルプチュア・ガーデンとしても使われることになります。
西澤入ったところの天井高は30メートル以上あり、その外に都市が見えます。穴が開いていますので向こう側が少し透けて見えますが、方向によっては角度の関係で外は見えなくなります。
妹島光を完全にシャットアウトしたいところは穴を小さくしたり、日中、屋根に水玉模様の影ができず、光はぼんやり入るように穴の角度を調節しました。
西澤半屋外ですから、屋外の雰囲気がありつつも外とは全然違う空間があり、それが薄い皮膜の向こうとこっちで並んでいるというようなものをつくろうとしています。屋上はレストランと彫刻広場です。また、屋上に上ると街全体が見渡せるというようなことも考えています。
妹島もう二年前くらいになるのですが、10分の1のモックアップをつくって、本当に環境がコントロールできるかという実験をしました。夏の本当に暑い日に7度ほど内外で気温差がありました。中に入ると涼しく、風もコントロールされているのでとても快適です。実現に向けて来年の春くらいから工事が始まります。