アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
西澤アメリカ・オハイオ州のトレドという小さなまちにあるトレド美術館の別館を建てるという計画です。トレド美術館は、地元で有名な美術館で、とりわけガラスアート、ガラス工芸のコレクションで有名なところです。私たちが計画している別館も、メインとしてはガラス工芸を中心とした展示のための小さなパビリオンのような建物です。
妹島メインの美術館の隣にゲーリーが建物をつくつているのですが、それがひつとめの増築で、12〜3年前にできました。ですので、現在、私たちがつくっているのがふたつめの増築になります。
ここには樹齢150年の美しい木が立ち並んでいまして、そのうしろに住宅街が広がっています。この木を残しながら、かつ、まわりの住宅街に対してなるべく影響がないように、木の下に平屋で建物をつくろうということになりました。
西澤このまち自体には、同じガラスでもアートではなくガラス製品やガラス建材をつくる工場がいくつもあって、ガラスを安く提供してもらえるというような条件もあり、私たちはガラスを多く使う計画をしています。
これはスタディ初期の模型写真です。ひとつひとつの部屋がガラスによってくるりと一筆書きで囲まれることでつくられるというアイディアです。ひとつひとつが風船のようなものですね。各部屋がおのおの別々にガラス壁をもつわけです。ですので、壁全体としては、二重レイヤーのようになります。普通アメリカだと壁厚が、たとえば数十センチと厚く、中は詰まっていますが、この建物の場合、ガラスとガラスの間は空洞となっていて、空調のバッファーゾーンとして使っています。といいますのも、いくつかの部屋はガラスを熟によって加工するため温度が高くなります。それぞれの部屋が異なる温湿度条件を要求するといるというようなプログラムでしたので、ダブルスキンにすることで中を空調の調整ゾーンとしているわけです。
妹島この建物の機能は大きくわけると三つくらいあります。ガラスをつくるための工房、ガラスを展示するギャラリー、それに関するレクチヤーとかパーティーができるマルチパーパスのホールがそれですが、その三つの活動それぞれが互いに見えるようにしたいという希望がありました。そのためにどのあたりに何があったらいいかというのを打ち合わせして、それをガラスでくるんでいきました。
どのような機能をどこに配置するかについては何度も検討を重ねました。ホットショップというのはガラスを吹くための窯があるところなのですが、おもしろいので美術館にきた人にも見せたい。さらには美術館の前を通る人にも見せたいという要望があったり、メインミュージアムからのエントランス、パーキングからのエントランスのふたつをつなげるようにしたいという希望もありました。また、ギャラリーや工房をパーティーにきた人に見せたいというようなこともあって、何とかそういったことを満たすよう機能や動線をつなぎ合わせてカーブガラスでくるんでいきました。それぞれの部屋がカーブガラスでつくられて、それが独立してあって、当然ほかの機能と壁をシェアしていませんから独立性は高まりますが、一方で視線が抜けて、互いの状況を楽しめるようになっています。
普通、動くときに見る方向と動く方向とは同じことが多いと思います。つまり視線が抜けていく方向に向かって歩くのが一般的なのですが、ここでは見る方と引っ張られていく方向とが違っています。その関係がおもしろい建物です。
ガラスとガラスの間は、バッファーゾーンとして設備空間として使っでいますが、メンテナンスをしなければなりませんので、最低85センチぐらい空けて、その中を歩けるようにしています。
西澤カーブして一筆書きのように部屋をくるむので、普通の直線の壁で囲まれた部屋より独立性が高いように思います。ただ独立していても、周辺が水平的に広がっていますので、開放的といいますか、外の緑が何となく感じれとれるような、どこまでもつづくように感じられるスペースをつくろうと考えています。
妹島視線の問題に関していえば、正面にコレクションのギャラリーがあって、その先に庭があって、その向こうに不透明なボリュームがあるのですが、それらが正面にすべて並ぶのではなく、視線が斜めに抜けていくという感じになっています。不透明の壁にした場合は、基本的にこの部屋にとって展開的にみていちばんいい場所に開口部をつくつていますが、その場合にも隣の部屋には何も影響のないようなつくりかたを積極的にしようとしています。
現在は工事が始まっていますが、一年はど前につくったモックアップでライティングなどの確認を進めています。透明度の高いガラスによってかなり先まで透けて見えるように考えていますが、同時に何層にも重なって映り込みが起こるので、透明のボリュームなのか不透明のボリュームなのかわからないような建築ができればいいなと思っています。中を動くとそれにともなって映り方がかわるので、風景が自分にずっとついて動くというような体験ができるはずです。
西澤モックアップというのは原寸大の模型という意味です。実際の材料、つまり床をコンクリートにし壁をガラスにして限りなく本物に近いものを別の敷地につくつているわけです。それでライティングとか光の入り方とか熟負荷を確認しています。この秋、地下工事が終わりまして、地上の床がつくられ始めました。
妹島来年の夏くらいに完成の予定です。