アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
西澤これが今日お見せする最後のプロジェクトです。金沢21世紀美術館という10月の上旬にオープンした美術館で、場所は金沢市の中心部です。斜め向かいに兼六園があり、向かいはもと県庁、左側は市役所、一方には繁華街が広がる、まさに金沢の中心地です。四面道路に近い敷地ですので、四方向から人がアクセスしてくる可能性があります。どこからアプローチしてきても迎え入れることができるように建物を丸くして、同時に入口を四カ所、スタッフ用を含めますと五カ所用意しました。搬入や駐車場は地下です。搬入も地下にすることで地上部分に巨大なシャッターとか、守衛室、ゴミ置き場などが出てきません。すべての面が市民を迎え入れることのできる、全面が表の構成としました。
妹島もともとここは小中学校、幼稚園、その前は女学校があった場所なのでいろいろな記念樹が残っていました。その時々に植えられている木ですから、歴史を伝えているものです。本来であれば庭づくりの定石にのっとって配置すればよいのでしょうが、ここでは敷地全体にばらまいて、木のギャラリーとでも呼べるようなものにしました。ひとつひとつを彫刻と思い、バランスだけ考えながら全体に散りばめていったのです。
西澤この建物は厳密にいうと美術館単体ではなくて、美術館と交流館というふたつのプログラムが合体した、ある意味で文化的な複合施設です。交流館とは、市民が主に無料で使える図書館とかキッズスタジオ、オーディトリアム、シアター、カフェ、そういったものを含むパブリックゾーンです。そして、もうひとつが美術館です。現代美術を中心としていますが、金沢の伝統的な美術なども含む幅広い展示を行う美術館が考えられています。もともとはプロポーザルコンペでした。最初に市長、市からいわれたことは、開放的な美術館をつくれないかということでした。もともと日本で美術館というのは、森の中や丘の上、公園の中というように、都市のただ中ではないケースが多く見られました。上野公園とか、都市から少し距離をおいて建てる、美術に興味のある人でないと近づいていかないような施設というイメージがあるのかなとも思います。そういった高い敷居をはずそうと、市長は敷地をあえて市の中心、市役所のすぐ隣に選びました。いろいろな人が気軽に訪れることのできる文化施設を望まれたわけです。私たちは開かれた美術館ということに共感して、それを建築的な提案に結びつけられないかと考えて、このようなプランを提案しました。
妹島もともとコンペのプロポーザルの要項だと、交流館と美術館と広場を提案するということだったのですが、ここでは交流と美術館をいっしょにしてひとつの建物としました。交流ということそのものが現代美術と関連づけて考えられますし、ふたつをいっしょにすれば、互いの相乗効果によって活気が生まれると思ったのです。一方、入場料に関していえば、美術館は有料で交流ゾーンは無料ですから、どうしてもわけなくてはなりません。そのため建物の中心部に有料のゾーンを集め、周辺部を無料の交流ゾーンとしました。交流ゾーンのはうには図書館、子どものためのワークショップを催したりする場所、オーデイトリアム、カフェ、情報ラウンジ、シアターと会議室、市民ギャラリーなどを設けています。
ギャラリー部分に関しては、いろいろなきちんとしたプロポーションをもった部屋をたくさんつくりました。キュレーターの長谷川祐子さんの、大きい展示室をつくってそれを可動間仕切りで仕切るような使い方は美術の展示に不向きである、ひとつひとつを適切なプロポーションとボリュームをもった部屋にしなければいけない、という意見に私たちも共鳴したわけです。
また、展覧会にさまざまな型式がありますから、それらにフレキシブルに対応できるよう、それぞれのギャラリーを離して配置しました。大きな展覧会の時には展示室すべてを使い、小さい展覧会のときはそれぞれを使うのです。外部からキュレーターが招かれて、独立した展覧会を複数同時にやっていくことも可能です。そのときには廊下と中庭が有料ゾーンと無料ゾーンの切替に大きな役割を果たします。四つの中庭を介して必ず無料ゾーンと有料ゾーンが向かいあいます。庭は二カ所に出入口がありますから、中庭は有料ゾーンとしても無料ゾーンとしても使うことができます。フレキシブルであること、そして開放的で、視線が抜けること、それがこの美術館の特徴です。
西澤俯瞰した写真を見ると、都市のビル群を眺めているように見えます。展示室、ひとつひとつの高さやボリュームが異なり、くつつかずにちょっとすき間を開けて置かれているので、それぞれが独立した建物のように見えるのです。展示室をくつつけずに、距離を置いて配置することで、展示室から展示室に行く時に少し外の風景が見えるとか、もしくは幾通りものいろいろな動線計画が可能になるのではないかと思ってこのようにしています。展示室の天井高は4、4.5、6、9、12メートルといろいろです。12メートルとなると大変高い。そういう大きなボリュームは、円の奥の方に置き、円盤全体はなるべく低くすることで威圧感のない、人間の身体に近い外観をつくろうと思っています。
妹島建物には四つほど中庭があります。直径113メートル弱の平屋ですので、中庭をつくらないと奥にはどうしても光が届きません。人工照明で照らされて明るくきれいということよりも、自然に外の照度が入り込んでいて、全体が外とつながっているような明るさになっています。外から中へ自然につながっているような、外か中かの違いを意識せずにすむような明るさで満たされた建物にしたいと思いました。内部をちょっと移動しただけで目に映る光景が変わります。プランが円形ですので、外部が遠くに見えたり近くに見えたりします。展示室に人を誘い込むようなものをつくろうとしました。
西澤全体が美術館ゾーンと交流ゾーンに分かれていて、交流ゾーンが円の外周部にあります。交流ゾーンの中でも一番大きく空いたスペースは、主に美術館のホワイエとして使われます。左にいくと喫茶店があり、右にいくとオーディトリウムがあります。
妹島ホワイエの左側には100人が入ることのできるレクチヤーホールがあります。アーティストのプレゼンテーションとか、来館者のレクチヤーのためにつくりました。
西澤また、ここには美術文化関係の本を主に集めたアートライブラリーがあります。隣には図書ラウンジを設け、市民が無料で使えるようにしました。光庭3と市民ギャラリーの間にある休憩コーナーは、無料ゾーンの中でもいちばん円の中心近くにあります。ここの市民ギャラリー側の壁には壁画が描かれていますが、あくまでも無料ゾーンです。この壁画は、マイケル・リンという台湾出身のアーティストが金沢ゆかりの技術を用いて描いたものです。
妹島美術館ゾーンと交流ゾーンとわかれていると申し上げましたが、アーティストが作品を展示するために選んだ場所が交流の場所であれば、そこがギャラリーとしても使われ、展示作品そのものが交流や休憩のために使われることになります。展覧会の企画のためにアーティストがくると、最初にどの部屋、あるいはどの場所を使いたいかを打ち合わせします。その希望する空間をつなげて展覧会をつくっていくのです。
西澤通路によっては、美術館ゾーンと交流ゾーンを仕切るためのアクリルの大きな框戸が入っているところがあります。展覧会によってはそれを開け放し、通路ではなくエントランスとして、そこから入っていくということも可能な計画にしています。庭の向こうにある美術館ゾーンで美術作品を見たり楽しんだりする人を、庭で休んでいる人が眺めることも可能で、中庭や通路を使って、美術館ゾーンと交流ゾーンがお互い何か感じ合えるような空間の構成を考えています。
開館展に際しては、市役所側に開放されている交流ゾーンの一部のホワイエにもアーティストが作品を展示しています。
妹島昼間はだいたい自然光に満ちた場所なのですが、夜になると中庭と外が真っ暗になり、中と外のコントラストが強くなります。
展示室には、高さが4メートルから12メートルまでと、その部屋ごとにいろんなプロポーションがあります。トップライトがついていますが、ルーバーがありますので、アーティストの希望によって光の状態を調節することができます。
西澤ガラス天井とトップライトの間に照明と可動ルーバーが入っていて、暗転された空間、人工照明だけの空間、屋外に近い直射日光の空間などいろいろな状況がつくれるようなシステムになっています。
展示室のいくつかは、美術館ゾーンに置かれずに交流ゾーンに投げ出されています。そのうちのひとつがジェームス・タレルのスカイスペースという作品なのですが、これは無料の交流ゾーンに置かれることで誰でもが無料でいつでも体験できるようになっています。いくつかの展示は永久的展示、コミッションワークといって、建物と、永久に合体するような状態で展示されています。
妹島光庭1にあるスイミングプールもコミッションワークのひとつで、透明なガラスの上に10数センチだけ水を張ったプールです。ギャラリーからガラスの下に入って行くことができ、下から見ると上の人とか空がゆらゆら揺れて見えますし、庭のほうから見るとあたかも水の中を人が動いているように見えます。
西澤これは、キッズスタジオという子どもの工作室の写真です。開館展に際しては、アーティストがここにきて、子どもといっしょに作品をつくりました。外観は開放的な美術館ということで低層部分をガラスでつくつています。全体をゆるやかにカーブしている透明ガラスで囲み、つなげていっています。
妹島私たちとしては、自然に人が集まってくるような美術館にしたいと思い、このような建物にしました。集まった人たちがいっしょに活動することもあるし、各自がそれぞれ好きな時間を過ごすこともできる公共空間をつくりたいと思っておりました。