アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
藤沢をやってから一年たって、「SPIRAL」という建物が青山に完成しました。この建築は青山通りに面して幅30メートル、奥行60メートルの不正形の土地に建っています。前方から20メートル奥のほうは住居地域で、高さが20メートルしか建たない。前方の部分は道路およぴ隣地からのセットバックが、外的条件として与えられていたわけです。最終的には、1階が少しずつ上がっていって、いちばん後ろをアトリウムと呼ぷトップライトを持った部分にしまして、そこがパフォーマンスとかエキジビションの場所になります。その手前にキャフェがありまして、上にストア、3、4階が劇場になって、劇場に向かってエスプラナードという、大きな階段室があります。五階がレストランで、屋上庭園を持っています。それから6、7階が美容室、8、9階がメンバーズクラブという全体構成になっております。
この建物も、青山というものの現代性を反映して、重いか軽いか、いろいろな見方があると思いますが、金属を使って、しかしイコンとしてはわりとわれわれの近代建築の歴史あるいはモダンアートの中にあった形態をフラグメント、断片として使っています。それぞれの断片は非常に見慣れた断片なんです。たとえば白の柱とか円錐あるいはキューブというように。しかし同時にこうしたどこかで見たことのある部品を使って、いままでちょっと見なかったような全体をつくろうとしています。
青山通りというのは、ご存知のように1964年、オリンピックのときに整備された道路です。そのときからの10年後、20年後と見てみますと、高層ピルがどんどん建ってきた。
この建物は、ワコールという会社が持っていますが、社長からの「何かまわりと違ったものをつくってください」というのが事の発端だったのです。よく見ますと、たいがいの建物が水平性を強調しているか垂直方向を強調しているのに対して、これはわりと螺旋状に上がっていく、上昇感覚も持っている建物ということで設計しました。サッシュの間隔にへボナチ級数を使っています。なぜそうしたかというと、上昇していく感じをできるだけ強く出したいと考えたからです。また、たとえば柱は全部見えてくるのではなくて、見えたり隠れたりするかたちで断片化を図っています。また、凹空間とか少し張り出した空間とかフリーフォームとかご一角錘とか、いろいろなかたちがその中に納まっているわけです。しかも全体としてオープンエンドな入りやすいシルエットということも、その中で考えていたと思います。
上から見てもわかりますように、シリンダーもある、ピラミッドがある。また半円球があり、キューブがあるというように、さまざまな幾何学形が使われております。
この建物は1.4メートルのグリッドでできているのですが、大事なことは外装の厚さ5ミリのアルミパネルをドライジョイントにしているということです。つまり普通だと目地のところでシールするのですが、そうするとシールが駄目になったとき、そこから水が入る。またそれぞれのアルミ板の持っているエネルギーが出てこないので、5ミリの厚みを感覚的に体験するためにもドライジョイントにしているわけです。パネルは、後ろに水が入ったときに水が処理できるようになっていますので、結局ダブルになっています。
私自身、建築はできるだけヒューマンなかたちに納めたいと考えています。フランク・ロイド・ライトの建物も比較的そうだと思うんですが、低く入って中で大きい空間に遭遇させるというのがひとつの建築のやり方だと思うんです。この場合にもわりと低く入って、中で次第に大きい空間に向かうという体験を基本にしています。中に入りますと、アトリウムに向かってキャフェがありまして、その周辺がさまざまなパフオーマンスの空間になっています。いま、このSPIRALは東京でも最もファッショナブルな場所になっています。たとえば東京コレクションなんかもここでやりますし、美術館とちがって、もう少し観客とパフォーマーが一体になったような場所になりつつあります。
一階の奥のアトリウムの壁は、ユーゴスラヴィアのシュベックという石を、磨きとバーナー仕上げで使い分けています。さきほどもいいました、あるスケールを越えたときには、スケールのヒェラルキーが大事だということで、そういうかたちでいくつかに分けて考えております。
その壁にはインスタレーションのロープ用のリングがとり付けられていますが、そういうものもデザインの要素としています。現代建築というのは装飾を拒否したのですが、そのときに装飾を拒否した分だけ、新しいディテールを持つべきだったし、また持っていたんですね。ところが、最近の傾向として、できるだけ建築を一気に効率よくつくろうというところで、そのディテール自身が簡略化されて非常に中性化してしまった。そこで大きな建築になれぱなるほど面白くなくなっているわけですね。住宅ぐらいですと、比較的、簡明な空間の構成でいいと思うんですが、大きな空間になってくると、それではもの足りないというのが非常に多いと思います。
最近よく見かけるのは、大きなホールをもつ建物なんかで、中に入るととてつもなく大きな空間があるんですね。ところが、よくよくその表層を見てみると、たとえば一つの材料で全部統一してあって、おまけに目地なんかも全部眠り目地で、それこそロビーから便所の中まで同じディテールというようなことが多い。こういうビルを見ると、何か建築というものに対して本当に愛情を持っているかどうか疑わしくなるというケースがあるわけです。別に、それでもいいといえばそうなんですが、私自身はやはりものをつくっていく立場として、そこら辺にチャレンジしてみたいと思います。
そうした例がアトリウムの天井や螺旋階段の取り扱いです。天井も屋根を構成する鉄骨、キャットウォークとかそれから照明等を合理的につくりながら、しかし全体としてインダストリアルに統合されたものをつくっていく。また、螺旋階段も、下と上と途中のご一点で支持されていて、それがわずかに壁面から少し離れているわけです。それによって円筒と螺旋のそれぞれの独立性を強調しております。
こういった意識でデザインするためには、いろいろな意味でディテールが必要になってくるわけです。3階の劇場のホワイエでは二本の独立の柱を中心に、天井を構成しています。ご承知のように、日本の高層ビルはどうしても高さが自由に取れないんですよね。そういう中で天井面にどうやったらデザインができるかということを考えました。それからホワイエ自体はちょっとアール・デコ調にしてホールの古典性を対比させています。そういういくつかの違ったシーンをつなぎ合わせて建築をつくっております。
建築というのは、統一ということも非常に重要だし、もう一方において、統一に対して異化するという行為も必要です。「SPI-RAL」は特に商業的なビルなので、できるだけ中でいろいろな経験ができるということで、あえて作為的に、同じモダニズムの流れの中で違ったピリオドのものを選んだのです。
ヘボナチ比を使っているのも、目の錯覚を利用するひとつの手法なんですが、もう一つ、屋上に上がったときにわれわれが都市の中で経験することに時間の静止ということがあります。つまり下の都会の喧そうから急に隔離されて、下を見ても人の動きとか車の動きとかがない。そういう一種のシュールリアリスティックな感覚を与えることがある。屋上庭園の庭でぜひやりたかったのは、ふだん公園とか自然で見るような木でなくて、より造形された姿をつくることです。つまりある抽象性に富んだ空間をつくろうという意図のもとにつくられています。
屋上は、最後までディテールが決められなかったところなんですが、初めから「コルビュジエに捧げる」というつもりで、白の空間をつくろうということでした。手すりとか外側の白いサッシュによって構成された白い空間の雰囲気は、いまでも残っています。