アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
実際に完成した建物の最後になりますが、次は「京都国立近代美術館新館」です。これはすでに皆さんもご存じなので、あまりお話しする必要はないと思いますが、条坊制の都市の中で、われわれなりのコラージュをつくってみました。初期のスケッチの中で、すでに真ん中に吹抜け空間があって、周縁にガラスの塔があって、その中に階段が含まれております。その周辺が展示空間というシンプルな、どっちかというとフォーマルな構成を持っております。
模型は、プロポーションを決めていくのには非常に重要な役割を占めています。今回もいろいろなレベルで模型をつくっております。周縁のそれぞれがシンメトリーな要素を持ったものなんで、美術館もそれなりの強い対称性を持ったものにしたいということがありました。
20分の1、10分の1でつくった模型では、いろいろサッシュの構成とか石のスケール、あるいはディテールの検討を行います。階段室は大事なところは大体20分の1、10分の1で模型を何回もつくり、プロポーション的にも大体いいんじやないかということで決定していきます。しかし材料はメーカーあるいはファブリケーターの方と一緒に少しずつ知識を蓄積し、徐々に決定していきます。
石の壁の最後のところのモールディングは、スタイロフォームを使って検討しました。これは水切りにもなって、石壁の保護の役目を果たしていると同時に、上のアルミとこちらの石との間の見切りになっています。
サッシュの断面はフルスケールのこれもスタイロフオームでつくりました。こういうものをいくつもつくって、押出し材の断面を決定していくわけです。結局こういうところに、物質感みたいなものが最後に出てくると思います。
ですからこの建物の場合は、石も工業化社会の石という感じで使われているのですが、それとガラスというものとが2つ併置されて、建築の性格を決定しています。これだけ見ていますときわめてインダストリアルなんですね。しかし石というものは逆にまたさまざまな歴史のイメージを喚起させるところがあって、したがってこの建物はどこかで石であるがゆえの重厚さと、金属のサッシュとガラス面の持っている透明性の両方を共存させているという気がします。平安神宮の日本一大きな赤い鳥居の前の建物であることも意識しました。
疎水の方から見た石の面は1.5メートルのグリッドで切られております。3メートルでひとつのパネルになっておりますが、パネル同士の目地幅と石の目地とがほとんど同じであって、全体としてはわりとグラフィックに面構成ができて、ガラスとの対比が全体の性格を決定していると思います。
なお、底辺の石は少し外向きに傾けて、壁面全体にそそり立つという感じを強調しようという手法を使っております。
物質系のぶつかり合いなどということになってきますと、いまいった石の持っている部分とサッシュの部分をどういうふうに調停するか、実際のディテール上はかなり間題のところなんです。こういうところを全部オープンジョイントできちっとやっていくということは、現場の方で大変な作業があったわけです。それとメーカーの方の協力、それから現場で石を据えつけたりサッシュを組み上げる方にも大変な苦労がありました。
と同時に、アルマイト成分の多いアルミを利用し、一見ステンレスのブラスト仕上げのように見えるサッシュを使っています。普通ですと、アルミを軽く使うというときには軽く見えるような色とか断面を使いますが、もう少し石と対応できるような重厚な感じにつくりたいときにはこのようにサッシュをつくるというように、私としては状況に応じて、できればひとつの材料についてもさまざまな使い方、表現の仕方を蓄積していきたいと思っています。
こういうようなところに今回のテーマがかなり集約されて出ているというふうに考えていただいていいと思います。
中の吹抜け空間では大理石を使い、外の花崗岩とは違った石をまた表現しています。同時に、石の表面には薄く3角形とか丸が出てくるのですが、大きな面の中からもうひとつ別の図象を浮かぴ上がらせようという意図がありました。
吹抜の階段の簓部分のディテールでは2つの異なる石を使って、それぞれの段差をはっきり出しています。ずらずらっと、ただ普通に眠り目地で石を積んでしまわずに、できるだけ構成主義的といいますか、構成要素を出すとともに、何かそこからのメッセージを期待したいのです。そういう考え方に徹すると、また別ないろいろな材料の使い方が出てくると思います。
コーナーの階段はかなり構成主義的な階段で、上がっていくたぴに微妙にデザインが変わっていきますので、もし京都近代美術館へ行かれたときにはぜひゆっくり、上がっても降りてもどっちでもいいのですが、この階段を見ていただければいいと思います。