アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
私たちの事務所の仕事は、決して恵まれた条件のものばかりではありません。逆に条件が悪いというか、大組織設計事務所ではやらないような、複雑で込み入った条件のものをたのまれるというケースが多いのです。敷地の形状が非常にイレギュラーであったり、オーナーの要求が次々と変わるといったような仕事がずいぶんあります。
「新宿ワシントンホテル」は、8年ほど前に完成しておりますが、あれは計画が決まるまで10年近くかかっております。オーナーの夢はそのときどきにいろいろと変わります。そういう変化にも粘り強くつき合っていくという覚悟がないと、仕事につながってはいきません。時系列の中で揺れ動く気持ちに一緒になっていくという覚悟ですね。そこにも私たちの仕事の役割があるんだと考えて仕事をしてきております。これもまた身体性の美学につながると考えるのです。
身体性という言葉は私がいい出したことではなくて、市川浩さんとか中村雄一郎さんといった現在第一線の知的分野の方々が身体化ということをいっておられますし、演劇のほうからの影響で、言葉に語られない身体の表現から多様な意味を読みとっていくということに着目されているといったこともあるようです。
言葉というのは、どうしても論理とか明晰な概念ということで、頭が止まってしまいがちです。文化や、人と人との刺激や共感、あるいは問題の提起といったことは身体の中から出てくるのではないかということで、私たちは建築を身体性の美学としてとらえたいと思うのです。
武者利光という方が、こうした考えを科学的に分析しておられます。「ゆらぎの研究」です。音楽でも、自分の身体から出てきたもので作曲されたものは非常にきもちがいい。 しかし頭だけでつくられた音楽は聞いていてイライラするというようなことを、5分の1という固有のゆらぎということに着目され、科学の分野でいろいろ実証されているものです。
たいへん面白い研究ですから、皆さんもお読みになるといいと思います。
そういうことで、心も知能も感性もすべて含めた身体で建築に取り組んでいくことが大事だろうと思うわけです。ひとつひとつの仕事をやりながら、この考えを共通のものとしてやってきましたし、これからもやっていきたいと思っております。そういう前提でスライドを見ていただきたいと思います。