アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
最初は「横浜人形の家」です。一九八六年の作品です。その後、すぐ前の「山下公園再整備」が一九八九年に完成しておりますので、この二つを続けて紹介します。
人形の家は、横浜の山下公園通りというホテルや県民会館などが建っている目抜き通りのいちばん東端にあります。観光バスの駐車場として使われてきた土地で、東側はすぐに高速道路が高架で走る堀川があります。川の向こうはフランス山で大仏次郎記念館や外人墓地のある山手地区の観光地につながっていきます。
横浜市の都市計画として、山手地区と山下公園地区を歩行者ルートで結ぼうという計画があり、いろいろ検討が繰り返されていたころに、人形博物館として展示館、劇場のある。「横浜人形の家」の敷地選定をこの山下公園通りの観光バス駐車場の場所に決定しました。すでにそのときには、ペデストリアンデッキを設置し、フランス山と山下公園を結んだ遊歩道をつくるという都市計画が決定されていました。人形の家は観光バスの駐車場を残しながら、この遊歩道にも結んでやろうという計画でした。その段階で私たちに設計が依頼されました。
横浜の町並みの中でも、山下公園通りの一角ということは、都市景観の形成からも重要な位置づけになります。ですから、人形の家ということで、ただ楽しいだけの建物というわけにはいきません。しかし、単なるビルのようなものであってもつまりません。ということで、遠くからは町並みを形成するひとつの建築と見えながら、近づくと楽しいメルヘンの世界が展開するような建物にしようということで設計しました。
山下公園通りのファサードを見ますと、一階が観光バスの駐車場となっているため非常にタッパが高くなっています。地上七メートルのところにペデストリアンデッキがかかり、ここから山下公園にはポーリン橋で、フランス山のほうへはフランス橋でつながっていきます。
このペデストリアンデッキの下が、一階が背の高いバスのバスの駐車場であることから、人形の家は地上からは七階建てぐらいの高さがあることになり、スケールの大きい、大きな建物に見える表現ではなくて、可愛らしい建物に見せたいということで、スケールダウンした形のつくり方、あるいは近づいたときによりそれを補うような工夫をしようと、いろいろ挑戦してみました。
たとえば建物の妻側に細長い窓がありますが、これは法規上、消防隊の進入口として必要なものなんですが、この窓を縦に細長いものにつくることによって、建物をせいぜい三階建てぐらいに見せるという役割を担わせています。また、通りに面したアプローチの階段も七メートルも上がるわけですからかなり高いんですが、手すりの段型を大きく数少なくすることで、簡単に上がれそうな高さに見せています。
外側のタイルは五センチ角の磁器タイルが30センチのシート貼りになっていますが、そのちょうど境目のところにラスタータイルを一枚だけ目地状の模様として入れています。これによって拡大した煉瓦の一枚のように見せることでスケールダウンの視覚的な効果をねらったものです。
この建物の外壁はコンクリート打ち放しとタイルが同じ面になっております。施工上は非常に手間がかかるものですが、竹中工務店の現場の所長さんが、私たちの担当者に負けないくらい粘りのある人で、むずかしい納まりのために原寸模型までつくって、型枠の外し方やら散々研究してくれて、建築家の要求に怯まないで、どこまでできるかという挑戦の結果できたものです。
西側の壁面を構成しているカーテンウォール部分のガラスは三種類のものを使い分けています。空のほうはブルーの熱線反射ガラスで昼間は青く見えます。家型の壁部分はシルバーの熱線反射ガラスです。その他は透明ガラスです。夜になりますと、透明ガラス部分から内部の光が出てきて、中にいる人とか展示の一部とかが見えてきます。 ちょうど人形が顔を見せているように見えるという仕掛けです。
遠ざかりますと、そのような見え方はしないで、普通のガラスのファサードに見えるだけです。要するに、光の具合や見る人の位置や時間によって表情が異なるのです。
ガラス面やタイル壁のこうしたさまざまな変化というか見え隠れの効果はずっと追求しているテーマなんです。建物がいつも同じに見えているのは退屈ですから、曇ったときには一色に見えていたガラスの部分に、三角の屋根が見えたり、タイルの壁の模様が鮮明になったり見えなくなったり、いろいろ変化を求めてやっております。こうした試みのきっかけは、タイルを試作している中で同じものを全面に貼ってしまうのは面白くないんじゃないか、何か工夫できないかと考えて出てきたことです。
建物の南側はフランス橋につながります。この橋の下には非常に交通量の多い道路が走り、上には高速道路が走っております。そして、道路と建物の間の隣地には別な建物が建っており、将来、横浜市がここを買収できればいいのですが、高い建物が建つこともあり得るわけです。いまは低い建物があるだけなので、非常に見通しがいい。そこで、この面を単なるコンクリートの壁にしてはつまらないということで、コンクリートの打ち放しに透明塗料を塗った仕上げとタイルの壁面の使い分けで絵をつくっています。この側には学芸員の研究室とか収納庫とかがあり、屋外作業テラスがあるため、穴を開けるとか、情報コーナーの部分には窓をつけるとか、あるいは単なる窓の記号をつけるとかして、建物の裏側もデザインしました。
建物の西の隅に外部化した避難階段塔があります。これは下のほうで道路とペデストリアンデッキをつなぐ役割も担っております。この部分を塔状につくることで、上から編めは入りました、まわりは孔の開いた壁で囲って家の集合の要素にひとつに見せています。
また、正面階段のところに戻りますと、横の壁面は家の集合になっていて偽の家並みをつくり出しています。階段の途中やデッキレベルのところどころに人形が置かれ、入ってくる人を出迎えます。
こうした街並みの表現も、ひとつはタイルの外壁が、光や見る人の距離によってある形が見えたり消えたりすること、スケールの演出のひとつです。大きなスケールを大きなサイズで分節することで実体の大きさを小さく見せる。実際のスケールよりも小さなスケールに見せられないかという、いわばイマジネーションの世界の問題かもしれませんが、そういう工夫で、この外壁をつくっています。
ここは人形の家ですから、何か楽しいメルヘンの世界を期待をして人々がくるわけです。だんだん近づくほど建築もそれに対応させる、内部に入ればいっそう楽しい世界をつくり出していくということを表現したかったわけです。楽しくといってもディズニーランドのようにけばけばしくやるということではありませんが、そういうことがこの建物のテーマでした。
内部の階段室も、工夫しております。階段というのは法規的に寸法が決まってくるものなんですが、中央に60センチほどの隙間をつくりました。そこにも階段を通して家型の手すりをつけています。手すりというか仕切りの壁ですが、そのところどころに穴が開いていて、お互いに覗き合いながら上がり下りできるわけです。これも家の集合で、穴は窓ですから、家が集合する街の坂道を上っていくという設定で、階段にも遊びを取り入れているわけです。
この家型の壁は全部コンクリートの打ち放しでやっております。四角い穴もテーパーが全然なく角で留めになっていて、施工上はたいへんなわけです。特に型枠の外し方は非常に苦労したようです。何度も現場でトライしながらやっとできたという次第です。
先ほどの西隅の非常階段の内部もコンクリート打ち放しで、階段の下側も壇上になっていて、エッシャー風のイメージでつくっております。