アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
次はドンボスコ記念聖堂です。
ドンボスコ記念聖堂というのは、ドンボスコが亡くなられて100年目に施工するということで、この名前がつけられました。前庭にドンボスコ像がありますが、これは内部のイエズス像や子羊像と同じく、横尾龍彦さんというドイツ在住で活躍されている日本画出身のアーチストにつくっていただきました。
祭壇の後ろの十字架は、実はコンクリートの壁のスリットです。十字架のある壁の後ろには、クリプトつまり地下祭室があります。ここにトップライトがあって、光が入ってきます。その光が白く塗った壁に反射して、スリット状の十字架を光の十字架として浮かび上がらせるわけです。これは象徴としての光の十字架ということでつくりました。 祭壇の左右には内陣が外までのびており、ガラス越しに緑が見えます。このガラスは電動で緞帳のように上下します。上げると聖堂の内と外が一体になります。この部分は、聖堂のさらに外とは壁で仕切られておりますから、ここはいわば外の内陣です。つる草が植えられ、住む家と同じように、聖堂にも太陽、光、風、緑といった自然を取り込んでいるわけです。
聖堂の真ん中に洗礼盤があります。普通は聖堂の片隅に置かれたり、ポータブルなものであったりしますが、ここではキリスト降誕祭、復活祭といったときに洗礼の儀式が行われ、一度に大勢の方が洗礼を受けられますので、会衆全体の祝福を受けながらやろうということで、堂の中心に洗礼盤を配置しました。ここからは地下水がいつも流れ出しており、その水は土の中に戻るようになっております。元々ここにあった玉川上水の源流というイメージとのつながりをも表現しております。 祭壇の向かって右手にご聖櫃があります。カトリックではミサの最後に信者の方たちがご聖体としてのパンを口に入れていただくわけですけれど、そのパンを入れておくものです。岩田ルリさんにガラスブロックでつくっていただきました。午前中のミサのときは、朝の光がガラスを通して入り、ご聖櫃が輝く光の塔のように見えます。
聖堂は12本の柱で支えております。これは12使徒を象徴しております。天井の三角形の格子梁でスパン18メートルの空間を支えております。壁は構造とは関係がありません。内陣を囲っている外側の壁には、14枚のゴルゴダの丘までのイエスの復活をモチーフにした道行きと呼ばれているものの透かし彫りが嵌めこまれております。
外の内陣の端に告解室があります。伝統的な形式の告解室というのは、非常に狭くて暗い部屋で司祭と告解をする人が向かい合うわけですが、ここでは庭に向かって開かれたガラス窓のある明るいラウンジのような部屋にしております。気持ちのいい椅子があって、そこで心を開いていろいろな相談に乗ろうということです。子供たちが主ですから、そういうようなつくり方を試みたわけです。カトリックの第二バチカン公会議における宗教改革のひとつとして、こういうあり方も認められたということです。むしろ現代的でよろしいという神父さんたちのご同意を得て、積極的に賛同していただいてつくりました。
外の内陣のちょうど告解室の外に一本柱が立っています。これは最初はなかったのですが、現場が始まってから、祭壇の開口部から、設計図を引いていたときには気付かなかった高校生宿舎の屋根が見えすぎるということがわかり、目隠しの壁をつけるために、柱を立てその上に神の子羊という彫像を乗せて、ひとつのポイントにしました。
こういうことも、私たちが現場で建築をつくっていくということを表している例のひとつですが、一度つくってしまうとそう簡単にはつくり変えができないわけですから、現場や施工の人はたいへんなわけですが、気がついたときには改めるようにしなければ、と変更を実行するわけです。そういうことも、私たちの事務所の身体性の美学というか、建築の中に体を投じてつくっているということのひとつと思います。
聖堂の天井です。格子梁になっております。非常に格子の背が高い。太くすると厚ぼったくなってしまいます。三角形の鱗という意味もあって、ルイ・カーンなどもやっておりますが、この三角形の格子梁の深さが、パイプオルガンなどの音響の反響のために非常に効果的だということ、厚みの薄いコンクリートの視覚的効果の双方で決めました。聖堂というのは音の響きが非常に大事です。神父さんのお話しが鮮明に聞き取れないといけませんし、パイプオルガンや聖歌隊の声が響かなくてはいけません。どちらかというと音の響きを優先するべき空間なんです。神父さんのお話しは音楽的にゆっくりとしたリズムと抑揚があり、素人が話すとここでは不鮮明で聞き取れません。
柱の外側の壁は構造に関係ないといいましたが、この壁も12角形に折れ曲がっています。そのおれたところがスリットになっていて、ステンドグラスが入っています。柱の後ろから薄光が入ってきます。また、壁の天井との境目にぐるりとトップライトがありまして、そこからも自然光が入ってきます。壁はいぶし瓦の日本瓦の鱗状のもので仕上げております。魚や鱗というのはキリストの象徴なんです。その他、象徴の要素をデザイン状でいろいろ使っております。こういう多様な光の変化のある空間は写真に撮るのが非常にむずかしいんですが、実際にそこに座って目で見ていると、時間によってさまざまな空間の変化をしることになります。それがこの聖堂の特徴です。
入口を入った右手隅のとんがり屋根の下がマリア聖堂です。トップライトのついた先の尖った屋根なんですが、このコンクリートの屋根は勾配がきつく、型枠も斜めになり、上のほうで小さくなりますから、コンクリート打ちがたいへんむずかしかったんです。少しジャンカが出てしまいました。そこで一部分をはつり、下をそのままにして打ち直したために、筋が残っていますが、これは偶然の産物をデザインとして残したものです。