アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
そこで「エクストラ・メモリーズ」というタイトルをつけて、甲府のプロジェクトでいろいろな仕掛けを考えました。ウォルター・ベンヤミンの「パッサージュ」という有名な論文があります。この中で彼が非常にわかりやすくいっていることの一つに「街を歩き、坂道を登っていくと、次第に自分の記憶を遡り、こどもの頃のイメージが甦り、いろいろな情景が見えてくる」といっています。都市の中を歩く、ということは、そういうことがあるわけで、都市の空間はそういう都市でなくてはいけないと思います。
そこで、このプロジェクトでも記憶の問題に関わって設計してみたいと考えました。しかし、記憶といってもこの敷地はぶどう畑というだけで、都市の歴史を積み重ねてきたものではないわけですから、どこかで切断されてしまう。ぶどう畑であったという風景にすぎないわけです。したがって、物理的にその場所ということでなく、ある個人がここを訪れたときに、その個人が持っている記憶を呼び起こせるような、なにか仕掛けをしようと考えたわけです。具体的な仕掛けらしきものを人が歩くスペースに散りばめました。
「スーパーダイヤル」「ジェット」など、同じようなレベルでいろいろ設定しています。ジェット(噴出)にはアイロニカルな意味合いがあって、このミニ都市では非常に硬度な経済活動が行われるため、近代経済の暴走性を象徴しています。
「アクセルレイテッド・エギジスタンス」というタイトルをつけた仕掛けもあります。これは、加速された存在という意味ですが、近代社会では加速が特徴でしたが、現代では加速は必ずしも存在しない。そこで近代社会の加速は進歩や未来につながっていたわけですが、実はこのミニ都市の中には、本社ビルにかなりの数の工場を含んでいる。工場の持つ近代経済の一つの特徴、つまり需要さえあればどこまでも生産を続けるという、現代社会においては疑問視されている近代の特徴である暴走するシステムをグラフィックに表現しています。
「ハイパーレイン」というタイトルのものは、暴走する近代のシステムと、近代の均質性との関係を表現してみたものです。「トーキング・プロジェクション」「ダンシング・バイトラック」などというのもあります。そして最後が「ロートレアモン・ガーデン」です。いろいろ理屈をこね回してきましたが、最後にこのミニ都市が目指すのは、ロートレアモンの庭園である、と決めたわけです。最後にエイヤッと決めるときにワーッと飛躍するのがいつも僕の事務所の特徴なんです。それまで、近代がどうだとかいっていたのが、一挙にロートレアモンに行き着くわけです。ロートレアモンというのは、シュールリアリズムの詩人で、非常に難解な詩を残している人です。それを頭に描きながら、といっても具体的な形や形態があるわけでなく、非常に漠然としたイメージですが、そこを目指して、皆んながそれぞれ設計を進めたというわけです。
これらの11枚のアクリルに描いたイメージを重ねて一度に見ると、さきほどのデュシャンの「大ガラス」の一部に「七人の独裁者たち」というのがありますが、それと僕らのコンセプト・モデルがどこかで似ているようにも思います。