アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
これは、私がすべてのデザインをしたわけではないので、デザインに関しては逃げたいところもあるのですが、監修という立場で加わりました。この空間の中で私がプレゼンテーションしたのは、主にインテリアで、廊下を広げようとしました。
オフィスの空間自身から廊下に出してもいい機能があるのではないか、と提案しました。ここは研究所ですから、それぞれのブースはハイパーティションで囲われています。それは個人の研究活動を守るためには重要です。社会学者のマイケル・ポランニーは「見えない情報という暗黙知」について述べています。オフィスには、実際の情報の中で暗黙知といわれる部分が五十パーセント以上あるということです。電話、電子メール、送られてきたファクスなど、こういった見える情報でオフィスは動いていますが、それ以外に暗黙知といわれる見えない情報がある。ある人が横で電話をしているのを聞いてしまったとか、誰かが打ち合わせをしている横を通ったとか、給湯室にいって誰かと誰かが話していたことなど、そういった情報のよって活動が支えられている部分があります。ハイパーティションになり、電子メール化していくと、そうした暗黙知の部分がどんどん圧縮されていってなくなってしまい、情報の流通がうまくいかなくなる可能性があるのではないかということで、暗黙知に関するようなものだけを廊下に並べて出しました。
打ち合わせのテーブルや給湯のコーナーなどを部屋の外に出しました。廊下はもともと交通空間ですから、そこを歩くわけです。ここでは「暗黙知」の部分を廊下に出すことによって、情報と交通を少し接近させることができるのではないかと考えたわけです。茶わんが並んでいる風景のガラスの向こうに研究室が存在することが同時に起こります。
一方、垂直動線である階段も、ガラスで囲うことによってオフィス空間の中を通過させています。研究室がどうしても何層かに分かれてしまいますので、そのオフィスや研究室の領域を通過していくことで、そこで見られる「暗黙知」の交換が行われればいいのではないかと考えました。
RDセンターの近くに建つ寮です。先ほどのは空間同士のプロトコル、接続方法のようなものを変えていった例ですが、ここでも寮生同士の情報のプロトコルを、空間からどのように刺激をしていくか考えました。
最上階はラウンジや食堂で、真ん中の二層に寮室があります。階段室を中心に全体の空間がつながっていて、エントランスホールの吹き抜けに立つと、誰がどこにいるか一目瞭然で把握ができるような空間構成になっています。
さらに、寮室と廊下との間仕切りをガラスブロックで半透明化することによって、そこに人がいるかいないかなど多少様子が感じられる。つまり見えない「暗黙知」というような空間のつくり方です。どういう方法論を取ったかというと、普通、壁際のガラスブロックの壁に水回りをべったりつけてしまうところを、引き離すことによって、薄い空間をつくっているわけです。とはいえ、寝室がありますから、出入り用のドアとは別に、部屋の中にさらにドアをインストールし、そのドアを閉めていればプライバシーが守られ、接続方法が自由にコントロールできるようになっています。
学生同士、また学生と教員のコミュニケーションというか、プロトコルは授業時間外に行われます。国際化といわれていますが、真の国際化は授業中ではなく授業時間以外、オフ・デューティーの空間で行われます。英語のインフォーマルとインフォメーションということばは同一語源であるといわれていますが、フォームをインする、型を壊すということは情報を流通させることで、インフォメーションは親しくなければ流れないということだと思います。日本語でも同じで、情報という字は情けに報いると書くわけで、そういうインフォーマルな関係をつくり出さないと本当の情報は流れません。
そういったインフォーマルなインフォメーションをどこでキャッチするかというと、廊下だと思います。廊下がホールをどんどん突っ切る、内部の空間を外部の空間がどんどん突っ切る、半外部の空間を突っ切る、つまり「暗黙知」、見えない情報を交換する場になればいい、というもののつくり方です。内部空間に対して入り込んでいくことを実現させています。