アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
五年ほど前に竣工しました。非常に小さな住宅「PLATFORM I・II」のあとに手がけたもので、こういう規模は初めての建物でした。熊本のアートポリスの民間第一号の建物で、小さな指名コンペから実現に至りました。クライアントからの要望は、「寮とはいえ、会社の女子新入社員が一年間共同で住む家であり、かつその共同生活が会社の研修でもある建物」ということでした。私は、寮・研修所・住宅のどれを参考にしたらよいのか混乱しながらも考え、ひとつの用途に限定されない建物、つまり寮であり、研修所であり、住宅であるという案を提案しました。具体的に、コンペ当初の案とは少し違いますが、会社の担当者と女子社員と打ち合わせを繰り返し、比較検討しながら出来上がっていきました。
寮を参考にしたとき、例えばスポーツ室や音楽鑑賞室を足し算していくやり方などもありました。しかし、ここで私が考えようとしたことは、八十人いっしょに住まわなければいけないときにどういう住み方があるかということで、大きな軌跡のスペースをつくり、その中で住む人各々が自由に距離を計りあいながら暮らせるあり方はないのか、考えました。会社のルールで、社員になる以上、一年間共同生活をしなければならないとき、いっしょにクラスけれども離れたいと思ったら距離をとれるようなものを考えていきました。
ベッドルームが一階の東と西にあります。ベッドルームに挟まれた空間が、内部でありながら半外部空間、つまり、外のようなイメージでつくられています。「みんなのリビングルーム」と呼んでいるアーケードのようなこの空間は、クライアントと私の共通した認識でつくっていきました。基本的に大空間のワンルームです。
みんながいるリビングルームから離れるための空間配置にも気をつけました。できるだけ人と距離をとろうと思えばとれる関係は、逆にいえば、いろんな機能ができるだけ分散されていること。和室、シャワー室やお風呂、ミーティングスペースなどを、一方にまとめることもできたのですが、お風呂にいく人と和室に行く人とミーティングにいく人が、みんな一方に集まってしまうことになります。 それをできるだけ散らしていけば、離れた関係で暮らすことができます。どこかに集中しないことにより、この敷地全体が非常に均質な感じになりました。
この建物には廊下がありません。できるだけそれぞれの人が自分の家として好きなようにルートを組み立てられるようなものをつくりました。いっしょに住む快適性と同時に一人でも生活をできるという空間の中にあって接点になるのではないかと考えたのです。
建ぺい率をマイナスした分の庭をとったかたちに出来上がっていますが、二階は小さい単位になっていますので、外から見ると小さなブロックの集合といった感じです。住宅街の中で一つだけ大きなヴォリュームを示してしまう建物ではなく、分布の仕方が連続しあっているといえると思います。
ファサードには、リビングルームの半外部空間の断面が現れています。昼間、ここの住人が会社にいっている間、パンチング越しに風を入れておいたらいいと思いました。若い女の人たちが住むので、カーテンウォールから中を見られた場合、いろんなところが見えては困ります。外から見えるのは吹き抜けのところですが、出来上がって周りを見渡して、中が見えてしまうところに、半透明のフィルムを貼りました。
リビングスペースの床から立ち上がる五本のタワーが、全体の横力に対して利く柱にもなっていて、そこに設備が集中しています。
リビングスペースを外部のようにつくりたいと考えたのは、女子寮とはいえ外に対して閉じた感じを避けたいこと、もう一つは、つくり終わったときに、全部が完全にコントロールされていて、ある空間が完結するよりは、コントロールできないもの、例えば光や通る車の様子などが、中にどんどん入り込んでくるほうが、おおらかなスペースができるのではないかと思ったからです。そういうわけで、ここに使われている材料はほとんど外部で使える材料です。外から見ると中はほとんど見えないけれども、内側からは車が通ったり、自転車が通ったりする様子がダイレクトにスペースに関わってくる。雲の流れや陽の状態の変化が、そのままこのスペースを白からグレーに変えるのが微妙に感じられる、そういうスペースです。