アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
二、三年前集合住宅の研究に応募して、ハウジング・アンド・コミュニティー財団の協力で、集合住宅の研究をまとめました。
郊外のどこへいっても、四角い固まりがあると、「ああ、あれは集合住宅だ」と、わかってしまいます。それは悪いことではないのですが、なぜわかるのかというと、どんな場所でも、同じような論理で建てられるシステムがすでに出来上がっているのではないかと思いました。もと環境によって違ったヴォリュームでもつくれるのではないかと事務所内で話し合いました。
要するに、3LDKとか4LDKという内部のシステムだけでなく、外からも何かを取り入れたときに住まい方も変わるし、ヴォリュームも、もっと違ったものになるのではないかという研究を始めました。
外側の環境についてはいろいろな考え方があり、アプローチがあると思いますが、私たちは、建物があるところを地図上で塗りつぶしていくことにより、その密度から地域なり環境を捉えられるのではないかと仮説を立て、具体的に採用しました。
まず、住宅地です。小さな建物が空きがなく並んでいるところです。別な場所の地図をつなげても、同じ地域にも見えてしまいます。何枚もつなげても一枚の地図のようなものがつくれるところを同じ環境と考えました。
これはウォーターフロントや郊外の大きな団地の地図ですが、それもつなげていくと、さらにヴォリュームが大きくなり、空きも大きくなり、向きもどっちがどうだかまったくわからないような地図が出来上がってきます。もう一つその中間の密度の環境が考えられます。
そこで、そういう大きな環境の違いに、必ずしも同じものが建たなくてもいいのではないかと、五つのプロトタイプを提案しました。公共の集合住宅を目安にし、一ヘクタールに七十平米のものが百三十軒ほど入ることを想定しています。土地も、いろいろなポロポーションがありえますが、ある長方形の一ヘクタールの土地にそれだけの延べ床面積をつくることは共通していて、それに対して二階建て、四階建て、十階建てと考えていきます。高さが高くなるぶん建築総面積が少なくなります。二階の場合はほとんど六十パーセントぐらいの建ぺい率です。つまり、違ったものができるはずです。
ただ私たちがこだわったのは、違うヴォリュームが出来上がることと同時に、室内でも違った生活ができるはずだということです。
まず、低層庭分散化位置タイプです。二階建てのタイプは、一つの家が必ず中庭と屋上に庭を持つ集合住宅です。
次は中層蛇行配置タイプ。四階建てです。エレベーターがあるとどうしても共用廊下が必要になってくるので、システムが変わってしまいます。直階段で各戸が上がっていく場合、四階ならなんとか成立すると思います。日影をクリアするようにすると、ある長さが決まり、延べ床面積も決まっていますから、逆に奥行きが決まります。それを住戸の数で割ります。各住戸は、細長いプライベートな場とパブリックな場をもっていますが、横に二つ並んでいるタイプ、吹き抜けを突き抜けて上にいくタイプなど、いろいろなタイプの住戸を組み合せます。各住戸はオープンスペースに面した両方向にテラスをもっています。住棟のかたちを変形すれば、さまざまな敷地のかたちに対応できます。
中層ロ型配置タイプは、同じ四階建てでも、長さが長くとれますから住戸の奥行きが狭くなります。周りの庭と、中庭は意味合いが違ってくると思いますが、各住戸は両方にテラスをもっています。この場合はワンルームで、好きなように仕切って暮らすプランにしてます。
高層屈曲配置タイプです。高層になると、さらに建築面積が小さくなります。大きな公共の集合住宅には、公園など地域の人に開放する場所が求められることが多いように思います。なるたけ奥行きを薄くして、全部の部屋を南面させています。たまたまこの研究をしているときに、集合住宅の設計の仕事が具体的に始まったものですから、そこでこの案をそのまま実施設計までもっていきました。立ちはだかっていても薄くして、空いているところがあれば、圧迫感が、また変わってくると思います。
高層林立配置タイプです。先ほどの話をもっと極端にしたときに、集合住宅のヴォリューム自体が公園のオブジェとしてあるという考え方ができると思い、プランをいろいろ考えましたが、ここでは基本的に一つの住戸がそのまま何軒も上に重なったことで非常に特殊なプロポーションのヴォリュームをつくっています。ほかの用途の場合、通常、延床面積が大きな建物は一つのスペースも大きくなりますが、集合住宅の場合、トータルで一万平米でも、プランを描くと、二畳のお風呂と四畳半と六畳という具合にものすごく小さい単位を積み上げて、自然に大きくなってしまったというのが今までの集合住宅だという気がします。
実際、集合住宅の周辺の公園にいっても、あまり公園の快適さを得るのは難しいと感じます。そこで、もう少し違ったものを考えたのがこれですが、住棟間隔をプライベートなものとパブリックなものの間のバッファーゾーンのように捉え、隣棟間隔はそんなにないのですが、この壁はこちらの人に全部開放するというような、あるルールをつくっていけば、快適なものができるのではないかと考えています。
先ほど話しました具体的に進めている集合住宅です。今ちょうど工事が始まったところです。集合住宅の建て替えのプロジェクトで、全体を磯崎新さんがコーディネーションされています。女の建築家を四人選び、四人で四百三十戸つくります。ニューヨークで活動しているエリザベス・ディラーさん、イギリスで活動しているクリスティーヌ・ホーレイさん、そして日本の高橋晶子さんと私です。
磯崎さんは「マスタープランはつくらないから、勝手に内側から考えて下さい」ということで、それぞれ敷地に合うか合わないか関係なくやっていましたが、一度みんなで会い調整を行い、結局、四人でゆるやかに敷地を一周することになりました。四人でつくる建物が混じり合いながら一周するという考え方がはじめ出たのですが、それらをつなぐブリッジなりエレベータを考えると、ランニングコストから必要な数だけつくれないという問題が生じ、最終的に敷地を四等分し、それぞれが一人百戸ずつ受けもつことになりました。
道路境界線に沿って建物が出来上がっていくために、なるたけ薄くして各住戸が全部テラスをもち、そのテラスが穴になって、うしろの棟のディラーさんの建物に住む人からも壁だけでなく前の景色が見えてくるように考えました。道路からも何となく向こう側が明るく抜けて、景色が見える建物を考えました。
部屋がすべて採光面に向いています。さまざまに断面の異なるタイプの住戸を組み合わせてただの四角い集合住宅が出来上がっています。
そして、それぞれの住戸のかたちがそのまま立面のかたちになって現れてくるようになっています。奥にそれぞれベッドルームやダイニング・キッチンがあります。それぞれの住戸の異なる断面を移動する人の様子が、スクリーンのように前面に現れてくることを考えています。
いろいろな高さが要求されました。船を送るための高さ、迎える高さなどそれぞれの高さに対応させ、床を波形にウエーブさせています。ショップや公園と、ターミナルの機能がありますが、一体的な利用も、分離的な利用も可能にしています。分離して使うときは、空中を動く歩道を通り抜けて、一番先まで人が歩いていけるようになっています。メインの階を人がいる階に設定して、下にパーキング、上に車の乗り入れ場所をつくっています。
波のへこんだところに、フェリーターミナルや出入国のチェックなどの機能が入っていますが、動く歩道で高いところから高いところに渡ってしまえば、その空間はカットできます。