アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
この住宅は外の世界から隔絶された別の世界を持っています。特徴的なことは、屋根がこの中庭のある一点に向かってすべて集まっていることです。屋根勾配がその点に向かって、降りています。さらに開口部が少ないことが組み合わされて、何か地下へ降りていくような印象があります。設計の当初は、中央にエントランスがあり、大きな開口がありました。中庭に向かってたくさんの開口がありました。最初はそういうU字型でスタートしたわけですが、なぜこんなプランになったかというと、クライアントが高層アパートからここへ移るにあたって、二つの条件を提示したからです。一つは地上に移るんだったら、できるだけ土を意識できるような家にしたいということ。もう一つは、家族がお互いに見透かせるような関係をつくりたいということでした。マンションのプランを想像するとわかると思いますが、たいがい味もそっけもないプランで出来上がっています。そんなことから、庭を介して家族相互が顔を見合わせることができるような、一種のコートハウスのようなものをつくりたい、ということからスタートしたわけです。当初は、そのとおりにたくさんの開口があったのですが、ある時点から一気に閉鎖的な住宅になっていきました
エントランスが左に移って、軸線が内部ではなくなりました。周遊するという考え方が強まってきた頃からです。チューブという意識が強くなってきたのです。そのチューブは外からの光をコントロールすればするほど、内部の光は印象的になっていきます。象徴的な光を取り込むことができます。
そのことと、地下の迷宮のような空間のイメージが募っていきました。それは私のイメージでもあると同時に、住まい手たちのイメージでもありました。それと、閉じて女性三人で生きていきたいという気持ちとが組み合わされ、相乗されて、このような空間ができたのだと思います。
地下の迷宮的な空間になりはじめると、次々にいろんなことが呼ぴ起こされていきます。例えば、大きな円弧に対して小さな円弧をつくる。あるいは天井と壁の間も、左官工事によって小さなアールがつくられる。そのようにしてエッジがはっきりしない、どこまでも柔らかい光だけでつながっていくような空間のイメージが、どんどん拡幅されていったわけです。小さな円弧やスカイライトといったものが次々と呼ぴ起こされてくるようなかたちで、このチユーブの空間が出来上がっていきました。また当初は、真っ白にしようとはだれも思っていなかったわけですが、すべて白一色でつくってしまおうということも、光をどうやって美しく採り入れたらよいかということから考えました。 カーブをつくることによって、明るいダイニングの空間に対して、少し陰りのある空間ができますから空間のリズムができていきます。明るいダイニングのスペースからベットルームヘ至る間に、細長い通路がありますが、そこにはまったく光が届きません。スカイライトが置かれたところに光が落ちてきます。そういうリズムの繰り返しで周遊する空間が出来上がってきました。
夜になると床のライトによって壁に家具の影、人の影が映し出されます。現場に入ってから左官工事の足場が、夜に床からの光によって壁に映し出されるのを見て、そんなことをやろうと思い立ちました。 中庭も設計の時点では芝を植えようという話で進んでいたのですが、あるときから黒い土が美しく印象的に感じられるようになり、このままにしておこうということになりました。中の純白な空間と、打ち放しの壁に黒い土というコントラストが、私にとっては印象深かった。しかし、鳥が種を運んできたり、種が風に舞ってきて、いつしか雑草の庭になってきました。この中で動物を飼ったり、草花を植えたりもしましたが、家具を持ち出して食事をしたりすることはありませんでした。おそらく、そういう中庭ではなかったんだろうと思います。