アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
七月にオープンした秋田の大館市のドームです。ドーム空間はほかの建築にもまして独自の世界を築く空間です。もともとドームは家という意味です。外の世界に対して自立した別の宇宙をここに形成することがドームの意味ですから、これまでつくられてきたドームは、外に対して非常に閉ざされた表情をしていました。私はなんとかこれを自然に対してもあるいは社会に対しても、もう少し開くことができないだろうかと考えました。コンペティションの段階から竹中工務店と一緒にチームを組んでやりました。
全体の配置について説明しておきます。本体に対してメインのエントランスがあり、向こう側は雨水調整池を兼ねた池があります。そして反対側に駐車場があります。ドーム本体は県のプロジェクトですけれども、付属した尾っぽのような部分は大館市がつくったパークセンターという建物で、レストラン、集会・宴会をやるようなスペースや、ショップが入っています。ここで出てきた土を盛り上げて緩いマウンドをつくっています。ここにはもとからきれいな林があります。サッカーコートが一面ありますが、われわれはこの保存林を全部残しておきたかったんですけれども、市長の強い要請で練習コートができました。大館の中心地からたいへん近いところですが、田んぼもまだたくさん残っている新興の住宅街にあります。
十和田湖があり、青森と秋田の県境に近いところに大館市がありますが、日本海から能代川が遡った谷あいです。夏も冬も季節風が一定方向から谷に沿って吹きます。それが、このドームのかたちを決める大きな手掛かりになりました。
最も初期のスケッチは、車のデザインと同じで、できるだけ風が渦を巻かないように考えています。とくに冬の強い季節風に対して、雪を伴った風が渦を巻かないようにということが、とっかかりになります。ドームの中では野球をすることが主となりますから、野球の飛球線に対してできるだけ合理的なかたちをつくるということから、真円でなく、ぎりぎりのスペースでつくっています。東京ドームや福岡ドームのような大きなドームとは違います。
ストラクチャーは、竹中工務店が以前から研究をされていた地元の秋田杉を使って集成材でつくりました。美しい秋田杉を使ってなんとかドームをつくろうということでコンペティションがスタートしたわけです。四千立米以上の杉を使っています。
卵を二つに割ったようなかたちのドームです。フィールドは人工芝です。内外の境界を隔てて、外の自然の草を植えたマウンドがあり、保存林へとつながっています。散策するような道路が中にありますが、中にいても一連の自然の風景が感じられるように、また外を歩いていてもそのことが感じられるように、自然の上にぽっかり浮かんでいるようなドームをつくりたいと考えたわけです。したがって、長手方向の一番長いスパンが178メートル、短軸方向が157メートルありますが、5メートルから10メートル上がったところにコンクリートのリングをつくり、その上部に木溝造が取り付けられているストラクチャーになってます。
構造設計は、竹中工務店の設計部内で行われました。基本的な考え方は、コンクリートのテンションリングの上に、長手方向は上下二段のアーチ、そして短軸方向にはその中間を直行軸によってアーチがつくられ、それらの間をスチールの部材で結んで立体トラスをつくっていく構造になっています。
たいへんな寒冷地であったわけですが、なんとかして膜でつくりたいと思いました。最大の理由は、昼間、自然光だけでスポーツができるということです。もう一つは、タ方以降、特に雪が降ったときに、内部から照らし出された光によって、ドームが明るく浮かび上がる、柔らかな光の空間をここに実現したかったからです。
200メートル近いスパンの空間ですから、周辺の住宅地の風景からは遊離したものをつくらざるを得ません。しかし、人工物ではあるけれどもなにか新しい自然を感じさせるような、そんな流動的な空間をつくりたいと思いました。
私自身は卵型にしたことによって、周辺からの見え方も角度によって変わりますからおもしろくてよかったと思っていますが、これを施工するのは、たいへん難しいことでした。長軸方向の軸を中心にしますと、左右二つしか同じ角度の場所はありません。すべて角度が違った状態で、コンクリートと取り合わせなければいけません。すべてのジョイントが三次元的になっていくわけです。六メートルの集成材をジョイントさせながらトラスができているわけですが、非常に精度よくできています。感激するぐらい施工がよくできています。
私たちが模型でもつくれないようなものを見事につくられました。たぶん真円形の十倍ぐらい難しかっただろうと思います。テントを張ることもまた、非常に難しかったと思います。特に端部のほうになってくると、ほとんど部材が寝た状態で水平に近くなって降りてきますから、それに対してテントを皺なく張っていくのが難しい。ピシッと布を張るために凹凸をつけていくのですが、凹凸のまま降りていくと軽い感じが出ないので、端部ですべてそれが平面的に解消されていくことにわれわれがこだわったため、非常に施工が難しいことになりました。
大館のドームが出来上がって間もない頃に、ソウルでドームの指名コンペティションが行われ、それも竹中工務店と組んで参加しましたが、残念ながらわれわれの案は採用されませんでした。これは2002年のワールドカップのためにソウル市がつくろうとしているドームです。韓国の民間グループがつくる野球を主にしたドームで、ワールドカップのときだけはサッカーに対応しようということです。期間が限られていたことと、大館のドームと違い、都市空間の真ん中でつくられるので、今回は真円でやろうとしました。スケールとしては直径240メートルで、東京ドームクラスの五万人収容できるドームです。
透明なドームをつくりたいと思いました。例えば、東京ドームにいってつまらないと思うのは三歩出るとまったく別の世界になってしまうことです。中にあれだけ熱気がこもっていても外は音も聞こえないし、気配すら感じない。大きな壁に囲まれて、まさしく完結した空間を築いています。そうではなくて、ある程度昔をシャットしなければならないが、中の熱気が外にまで伝わるようなドームを考えたいと思いました。そして、夜、野球が行われているようなときに、都市空間のシンポル性、祝祭性を高めるような空間をなんとかうまく演出できないだろうかと思いました。
模型をどうつくるかについても頭を悩ませ、天才的なQumaデザインワークスの坂野正明さんにいろんな知恵を出してもらいながらつくりました。
全部壁でなく、地上までトラスが降りていくような感じです。名古屋ドームと同じようなシングルのレイヤーで、350のスチールパイプの上下にテンションのワイヤーを張って強度を高めます。佐々木睦朗さんと竹中工務店のエンジニアが協同して、構造のスタディをしました。上のテンションワイヤーのレベルにペアガラスを張ります。そして下のテンションワイヤーのところにテフロンの膜を張ります。大きな特徴は、半分ずれると完壁に閉まる扉がありますが、それと同じようなことを細いストライプでやろうとしていることです。電子制御されていて、最大開口率五○パーセントまで自由にずらすことができます。そのシャッターを全面的にガラスの内部もしくはガラスの下に取り付けようという提案でした。
通常、昼間野球をするときに、ドームの内部が均質に明るくなるようにすることができます。夏など一番太陽が強い角度で差し込んでくるようなところは、開口率を落として、その少し周辺をグラデーションで明るくします。すると、このフィールド全体に均質な光がいきわたるというシミュレーションをしてみました。もちろん、全面的に遮光することもできます。パンテオンのようなドームの状態をつくり出すことも、もちろんできます。それから透明度を最大限に上げると、うっすら空が見えるような状態もつくることができます。
福岡ドームのように物理的に動くのではなく、電子的に動く。それが次世代のドームではないかと提案しました。われわれとしてはかなり建築的にはおもしろい提案だと思ったんですが、敗れて残念でした。