アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
「熊野吉道なかへち美術館」です。中辺路という小さな町にある美術館です。空港から一時間、JRの駅からでも一時間ぐらい車で山の中に入ったところにあります。ここは山にぐるっと囲まれていて、前方に川があります。景色が季節や気候によってものすごく変化する山の中を最終的にどうとらえ、どういうものを建てるべきかと非常に迷いました。雨が降っているときには水墨画のような世界になりますし、真夏はものすごくグリーンが強い環境になっていたり変化するので、ここにつくる建築も四季の変化につられて変われるようなものにしたいと思いました。ここではランドスケープと敷地全体の計画も委託されたんですけれども、回りに空地なり自然が広がってる中で、そこだけ人工的にデザインしたとして、その先は一体どうなるのかという疑問がすごくありました。なんとか、周囲の曖味なものがそのまま続いていって、建物もどこが正面だかわからないようなものをつくることがこの場所との関係のあり方かなと思いました。
日本画の美術館なので建物の中に自然光は入れてはいけないといわれて、真ん中に四角いコンクリートで展示室をつくりました。それがそのまま見えてくると外観の印象を決めてしまうので、回りにガラスで回廊をつくっています。方向性がないように、いろんな方向に収蔵庫やオフィス、トイレ、室外機置場などがあって、コンクリートの四角い展示室とガラスのスクリーンの間にポリカーボネートでかたちをつくつています。
ガラスにもスチールパネルにも全部同じフィルムを貼りました。気候によって表情が変わるというようなことを実現できたかなと思っています。それといろんなところが出たり入ったりしていますので、どこが正面なのかよくわからないようになっています。つまり上からプランを見ると変わったかたちをしていますが、回りを歩きながら見るとつかみどころのないかたちとして建っています。陰だと暗くなるんですが、光が当たると黒いスチールパネルが反射して白っぼく見えてきます。ガラスも同じように半透明の中に透明のパターンが入っているところと透明の中に半透明が入ってる部分があり、そのときどきの状況によって表情を変えます。つまり、いくつかの試みで建築的ないわゆる構成というものを消そうと考えました。大自然の中でそれが意味をもつものとして前提にすることをさけたいと考えました。
中に入ると、自分でまったく考えていなかったのですが、ガラスが非常に柔らかいレースのカーテンみたいに見えるのが特徴的です。展示室の外の回廊は、いろんなところから入ったり出たりするような場所で、その負荷のバッファーゾーンでもあるんですが、このガラスリブに脱着可能なホワイトボードをつくり、そこで落書き大会やスナップ大会などの即席のインスタレーションや展覧会ができるように計画しました。
夜になると、ダクトスペースだったところに蛍光灯が入っていて、その真ん中の四角いコンクリートの固まりのほうが白く光りだし、全体の照明になっています。ずっと帯のようにつながっているかたちが分断されて、部分が見えてくるようになります。