アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
ポルトガルの山中、スペインの北部との国境です。人里はなれた山の中で、雨の中で撮られた古い一枚の写真を頼りに、とにかくこの山中に目指す建物があるはずだと、タクシーに乗って、半日がかりで探しました。荒れた山の、草原の丘の真ん中に、大きな石がごろんとあるだけみたいですけど、よく見るとふたつの石の間に屋根が架かっているんです。コンクリートのスラブがあり、壁があって、不定形な窓が三つくらい開いていて、ちゃんと住宅になっています。煙突もドアもある。
これを見たときは本当にびっくりしました。ぼくは今まで見た中でこれにいちばん感動しました。どういうところに感動したかというと、人工物と自然のつくったものとがどちらも排他的な主張をせず、お互いに引き立てあって、いい調和を保っている。エネルギーというような問題ではなく、視覚的にいい状態というのが、ぼくにとって興味深いことだということがわかりました。
用途としてはよくわかりません。もともとは夏の間に放牧をする人がこういうところに住んでいたようですが、今は芸術家かだれかが、水を運んできて、別荘代わりに使っているようです。
次は比較的有名なギリシャの「メテオラ修道院」です。修道院ですから、天に近いところで修道するんですね。春先に行ったんですが、雪が降って感動的な風景でした。 ただ、さっきの家よりは、やっぱり自然が強過ぎる。
それに建物はただ岩の上にのっているだけで、一体感がないんです。全部で三十いくつあったのですが、だいぶ崩れて十いくつしか残っていません。昔はとにかく人が近付けないように全部、滑車で吊り上げて、下界から切り離された生活をしていたそうですが、今はたいへんですから、下から通路をつくっています。
日本でいちばん好きな例は、「大久保石材店」です。ここに大谷石の家があります。今のご当主のおじいさんが何を思ったか、家をつくりたいといって少しずつ自分で岩を切り出して、中までずーっと穴をあけていったんですね。大谷石の一木一石彫りというか、何となくぼくはこれが好きで、仙人が鶴に乗って飛んでいるような感じです。室内は床から壁から天井まで、岩と一体化したシームレスというか継ぎ目のない建物です。もちろんディテールはゼロです。七十八年経つんですが雨が漏らない。地殻運動で安定しているかたちのものですから、百年や二百年でどうこうっていうものではないんです。
敷地は、ぼくが育った七十戸くらいの村なんですが、深山があって、里山があって、畑があって、ちょうどこのあたりの地域を茅野市が選んだんです。史料館は、江戸時代の記録に従って展示してあるんですが、猪と鹿の生首があります。これは地元で捕れたものでなくてはならないので、近所の猟師が一年かけて捕って下さったものですが、鹿を三十五頭捕って、それを春先に、神社の前に積み上げて、一日かけて地域全員の人が集まって、神人共食といいますか、神さまといっしょに食べて飲んで過ごしたという、そういう行事の記録が殆っています。