アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
できるだけ自然の素材ということで、いちばん苦労したのは板です。自然の素材ですから土は何とかなります。ガラスも手吹きのガラスにしようと、ドイツのステンドグラス用のガラスを使っています。最後までどうしていいかわからなかったのが板です。板は、機械で製材するわけです。機械ですと真っ平らになって、板本来の味がなかなかでません。それを何とかやめようと、考えが擬り固まっているというか、イデオロギッシュになってしまいました。たとえばコンセントプレートなんかも全部鍛冶屋に叩いてもらったんですね。結局、板も製材するのをやめようとしたんですが、たいへんな騒ぎになりました。
ぼくらが子供の頃、屋根用の板は割っていたんです。というわけで職人さんを探したら、 戦前まで板を割っていた人がいて、その人に聞いたら、二メートルでも三メートルでも自由な長さに割れるというので、割ってもらうことにしたんです。
職人さんが割るのは、いたって簡単です。太い材は横と、小口のほうからナタを入れるんです。するとヒビ割れが入りますから、そこに鉄のクサビを入れるんです。クサビをさらに入れるとこれがポロッと抜けるわけですが、ヒビが走る、そのヒビの先にクサビを入れては割っていくんです。ヒビが右に入ったり左に入ったりしますが、それはクサビでちょつとずつ調整するんですね。その後、四、五センチくらいまでの厚さにして、それ以降はナタで板の切れ目をこじ開けるようにして薄い板に剥いでいきます。 最後は一センチの板を五ミリ単位に割っていくんですが、裂け目がちゃんと一センチの真ん中を走っていきます。簡単なもんだなぁと思って、やらせていただいたら、ぼくらには絶対できないですね。原理はわかったんで、年をとったら、やってみようかと思っています。
戦前に板割りをやっていたという職人さんは、もう八十歳くらいのおじいさんで、その後ずっと板金屋さんをしていたんですが、子どもに譲って、もう引退していました。その方が昔の道具を持って来てくださったんです。腰が曲がっておられて、とても板を割る体力がないということでしたが、それでもお願いしたら、もう自分の最後の仕事だといってくださって、午前中は点滴を打って、午後になって板を割る、ということをやっていただきました。残念なことに、職人さんはその後すぐ亡くなられました。しかしご本人は上棟式のときに来られて、自分の割り板の技術が残せるということで、ほんとうに喜んでおられました。ぼくにとってはそれが救いです。
そうやって割っていただいた板を張りました。張り終わったときは、やっぱりうれしかったですね。製材した板にはない自然の木が持っている味わいといいますか、手割りの板にはそれが出てるんです。これは本当に上手くいったと思います。節があったりすると、要するに木の内部の年輪の乱れがそのまま表面に出てきて、そこにちょうど軒の影が落ちたりして、美しいものです。