アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
進行中の仕事、計画中の仕事をふたつほどご説明します。まず、神奈川県の御殿場にある団体の研修所です。まだ工事中ですが、「牧野記念館」でできなかったことを実際に始めているのでお話ししたいと思います。
この建物でしようとしたことは「海の博物館」の収蔵庫でしたような自然対流、要するに内部気流をどのようにコントロールするかということです。それから、マイナス20度くらいになる極寒冷地なので暖房が必要ですが、暖房のエアーをできるだけ再利用していって最後に吐き出すまでに三段階くらいのプロセスをとっています。
新しい技術として発熱ガラスを使っています。どのようなものかというと、ガラスにある全属の処埋をしていて、透明なガラスですけれど、電気を通すと、80度から90度の熱をもたせることができます。ここでは、そこまではしませんが、ガラス面をいつも18度くらいに保てるような技術を使っています。こういうかたちで使うのはたぶん世界で初めてだと思います。ガラスのエレベーションのところは発熱ガラスを使っていますから、外がマイナス20度でもガラス表面はいつも十八度くらいになっていて、結露とコールドドラフトが起きないようにしています。
ロビーの暖房は、私が強く主張して、講義室の余熱を使う以外にほとんど空調しなくてもいい、むしろ火鉢、きわめて現代的な火鉢をつくりましょうということで進んでいます。どんなものかというと、昔、寒いと火鉢に手をかざしたように、それと同じような発熱体がロビーに点在すればいいのではないかと思ったのです。実はそこには照明があって、冬の寒いときは電気がちょっと点いて、それはガラスの固まりですけれども、それにみんなが手をかざすわけです。世間話をしながら、寒い人たちはその発熱体に寄ってきます。それで用を足そうというような挑戦をしています。
もうひとつのほうが今日の本題に近いと思います。場所は山形県の寒河江です。緑化フェアという緑の方博のような催しをするので、そこにパビリオンを建てることになりました。私はこの部分に温室を提案しました。
建物は総ガラス張りで、構造はスチールです。ご存じの方も多いと思いますが、日本の最高気温は確か四十数度だったと思いますけれど、山形県で記録されています。山形県は寒いところだという印象がありますが、六月から七月にかけてフェーン現象が起きると、とんでもない署さになります。
東京大学農学部の堀繁教授といっしょに仕事をしていますが、堀さんが昔の潮入庭園の話から、ここに潮入の池をつくろうと提案しました。潮入というのは、水位がちょっと上がると水面が極端に広がって地形が変わるすごく浅い池です。夏場、暑くなったら、少し水を入れると水面が大きくなります。大きくなった水面でクーリングをする。署い時期が週ぎたら、、水を抜いてしまえば歩道になる。そうした変化をひとつの環境として、いわゆる省エネルギ−に使っていこうとしています。
問題は、建物はガラスですから、この中の空気環境をどうしようかということです。もともと植物関係の施設に温室はつきものですが、そこで展示をしたいとか、オープングのときは会場にもしたいとか、冬場は集会所的にも使いたいなど、温室でありながらそういうオーダーが出てきて、やっぱりただの温室ではだめだということになりました。
温室なので、もうただ暑くてたまらないということになったらどうしよう、というのが心配としてありました。なおかつ、この内部空間をエアコンディションしようとしたら膨大なエネルギーが必要です。それで、あるコンサルタントに空気のシミュレーションをしたいと頼みました。
さきほど「牧野記念館」でご説明した風洞実験は建物の外部応力を主に測定する技術です。実験をするのにすごくお金がかかります。数千万円という全額です。そんなことはとてもできないのでコンピュータで内部気流のシミュレーションができないかとお願いをしました。それでもモデルをつくるのにだいたい二週間くらいかかりました。
そういうシミュレーションがもっとスピーディにできるようになってくると、この空気状態だったら構造や全体の形態を少しこうしようとか、こういうふうにすればエネルギーがもっと滅らせるとか、建築計画に空気シミュレーションが使えるようになってくると思います。ただ、まだ一方向なんです。さきほどの「牧野記念館」の風の実験にしてもあれだけの大規模な実験ですから後戻りができません。全体の形を変えようと思うと、また実験費用がかかってきます。
もうひとつ申し上げておきたいのは、外の気流と内部を対応させつつどうなってくるかを考えているということです。今までわれわれがしてきたのは、建築のインテリア空間をパッケージとして考え、その中でエアーをコントロールすることです。例えば、台風の外部応力に関しては構造の力として考えていました。風が吹いてきて、どのくらい建物に応力がかかるかというのは構造の話です。バッケージで切っておいて、中は中で設備の話として空気のことを考えているわけです。ところがコンピュータのシミュレーションの速度がもうちょっと上がってくると、構造と設備の境界を超えることができるのではないかと思います。
実はこのシミュレーションはその境界を超え始めています。閉じたパッケージの中ではなく、外部環境との応答関係で考えています。ここに気流があったらここでどうなるか、そういうようなシミュレーションはこれまで昔無でした。
さらにいうと、私が本当にしたいことは、例えば、敷地内のある位置に林をつくると、構造的な負荷が半分くらいになるとか、この場所にケヤキを植えると、ここの熱負荷がすごく減るとか、周辺部のつくり方でいかにして建物のエネルギーロスを少なくできるかということです。そうやって建物が組み立ってくると面白い。むしろそうあるべきだと思っています。今は、建物を建てると、建てたことに対するうしろめたさから、周りに何となく木を植えましょうとか、ゴルフ場みたいな芝生にしたらいいんじやないかとか、そんな状況です。しかし、本当は建物の外構や造園は、負荷エネルギーのほうから考えていくともっとまともになるのではないでしょうか。それから、ある地域の風景を考えた上でもエネルギーの観点から、外構とか造園、それから建築がつくられていくと、ひとつのオーダーのようなものができていくと思います。
われわれは農村風景とか町屋をきれいだと思います。ですが、それはよく考えると、江戸時代の人たちが閉鎖社会の中で、エネルギーロスが最も少ないかたちであみ出した、ひとつのテクノロジーです。藁茸きにしても、農家の木組にしても、屋敷森にしても、里山のつくりかたにしても、そうすることによってその場所のエネルギーロス、要するに消費を最低限にとどめて、みんなが快適に暮らせるというひとつのテクノロジーなのです。われわれは今コンピュータというものを手にしつつあります。今度はそれを使って新しい世紀のオーダーをみつける方向にもっていかなくはいけないのではないかと思っています。