アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
この集合住宅は二年前に出来上がったものですが、計画を始めたのは八年ほど前になります。それまで、かなり短期間でつくることを要求された建物が多かったのですが、この集合住宅には比較的長い時間をかけることができました。
この計画は、老朽化した県営住宅の建て替えです。延床約35平方メートルの住宅が200戸建っていたところに、約70平方メートルの住宅を430戸建てるという、高密度化が図られました。コーディネーターの磯崎新さんのもと、高橋晶子さん、クリスティン・ホーリィさん、エリザベス・ディラーさん、そして私の四人の女性建築家が指名され、分担して計画を始めました。四人で最初に会って敷地を見て唯一決めたことは、中庭をつくろうということだけです。あとはそれぞれ別の考え方でつくっています。ただ、ひとつの敷地なので、視線をもう少し通すようにしたいから壁を短くしなさいとか、日影視制がかかってくるので、高さを下げてというような、全体の調整は磯崎アトリエでやって下さいました。
このプロジェクトではいろいろなことを考えさせられました。とくに私の中で判断がつかなかったことは、107戸の住宅をどのように組み合わせるかということです。私はプランに興味があって、ある実現したいプランに向かってすべての計画が収束していくようなつくり方をする傾向があります。住宅でも美術館でも多くの施設はそのような方法でまとまっていくのですが、集合住宅の場合、ひとつの住戸のプランに対してはこのような方法が使えても、それを107戸組み合わせるとなると、何の理由もなしに決めざるを得ないのです。このことに対しとても不安に思いながら、しかし、そうしたつくり方もあるのかなと思いながらつくっていった建物です。
私は集合住宅の設計がはじめてで、かつ一万平方メートル強というスケールもはじめてでした。その状況で考えたことのひとつは、大きな塊が都市に対して及ぼす影響をもう少しコントロールしたいということです。つまり集合住宅というのは図面を書いていると実感するのですが、小さなお風呂や三畳ぐらいのキッチンが集まって全体になると、とんでもない大さなスケールのものが出来上がってきます。住宅が集合するわけですから当然スケールも大さくなるわけですが、そのことにもう少し積極的に関与できないかと考えました。具体的には、大きくなったという結果が自然に出てくるようなことを避け、できるだけ薄いヴォリュームをつくろうと考えました。それともうひとつは、高層の住宅で地面から離れた生活であっても、屋外の生活を毎日の生活の中に取り入れられないかということです。そのため、この建物の住戸のひとつひとつにテラスを設けました。これが外観に表れる穴です。
どういう生活像を目指してつくられたのですか、という質問を竣工直後によく受けたのですが、新しい生活像だとが理想的な生活像のイメージがあったわけではありません。それよりも多様な生活が可能であればそれでいいと思っていました。もちろん公営の集合住宅ですから、法的な制限はあります。しかし、これからの住宅は血縁のある入が集まって住むだけではないでしょうし、多様な生活を受け入れることができる住宅がいいと思っています。
具体的には、部屋がいろいろなつながり方をして、徴妙に生活の仕方が変わるというようなものを考えました。昼の部屋、ベッドルーム、ダイニングキッチン、テラスはどれも同じ大きさで、ただ住戸によって部屋と部屋とのつながり方が達っているのです。ある住戸では吹抜けのダイニングキッチンの横にテラスがあって、ダイニングキッチンから上にあがると和室とベッドルームがひとつずつありますが、ある住戸ではダイニングキッチンの横にベッドルームがあって、その上の和室がテラスと繁がっているというように、配列の違った住戸が並んでいるのです。
表の外観からはひとつひとつの家がわかるようになっていますが、裏側は逆に同じものが並んでいるだけなので、どこの家が誰の家だかわかりません。ある種の匿名性をもっています。共用廊下と住戸が隣り合っている、つまりある意味でプライバシーは常に脅かされている状態なのですが、この匿名性により物埋的な距離以上に、感覚的な距難感、つまりプライバシーが確保できたのではないかと思っています。
それと、もうひとつのテーマであるテラスは、みなさん木を植えるなど、いろいろな使い方をしています。住戸がパプリックな部分と玄関でしかつながっていないような集合住宅でないものをと思い、このようなものをつくりました。もっとも多いタイプのテラスは、ダイニングキッチンの横についているものです。ここには洗潅機置き場とコンクリート製のベンチのようなテープルのようなものを置きました。住民からは洗濯機置き場は住戸の中に置いてほしいという意見も出たのですが、多少強引にテラスに設けました。一年の半分ぐらいは気持ちのいい気候なわけですから。なるべく生活と屋外の接点をつくろうとしました。テラスに洗濯機置さ場を設けた分、内部を広く使うことができます。またテラスに防水パンを大きくつくって子供が足を洗ったりできるようにもしました。
外壁にステンレスの鏡面のパネルが飛び出ているのですが、これは住戸と住戸の区画です。ほとんどの住戸と住戸はテラスによって区画されているのですが、そういかないところはこの鏡面パネルを区画パネルにしています。その結果、ただの白い四角い箱に夕焼けや青空が部分的に映り込むことになりました。建築が周囲から孤立して建っているのではなく、時間や季節によって徴妙に違う表情を見せながら建っているようにできたらなと思っておりました。