アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
まず、「台中メトロポリタン・オペラハウス(正式名称は〈台中国立歌劇院〉、2016年竣工予定)」をご紹介します。2005年の暮れに国際コンペティションがあり、最後までザハ・ハディド(1950〜2016年)と競い、われわれが設計者に選ばれました。そこから10年ほど経ちますが、建築をつくるのにこんなにも苦労するのか、というぐらい苦労に苦労を重ね、現在ようやく建築がほぼでき上がりつつあります。2016年9月末に杮落としの予定です。設計している頃には、周辺には何も建っていなかったのですが、いつの間にかマンションに囲まれてしまいました。敷地は台中市のやや北方、新興開発地の公園です。緑の公園が建築の内側にまで連続するようなイメージを実現したいと考えました。言い換えると、人間の身体のような建築です。なぜなら、人はみな、自然から独立した身体を持っていながら自然と繋がっています。目や鼻や口や耳といった器官を通じ、空気を採り入れたり、食べ物を採り入れたり、水を飲んだり……自然と結ばれることによって人間は生きていられるのです。そういった人間の身体のような、独立しているようだが、実は自然と接続している建築があり得るか、と考えたのがこのプロジェクトの始まりであり、ある意味苦難の始まりでもあったわけです(笑)。
そこで、まず初めに人間の器官にあたるようなチューブを、どのようにつくろうかということを考えました。正方形の二枚の板を、市松状に上下でずらしながら伸びる布で繋げたプリミティブな模型をつくりました。この二枚の板の間には、二種類の空間ができます。その空間はそれぞれ横にも縦にも繋がっているので、それをさらに二段重ねにすると、ふたつの空間がどこまでもずっと繋がっていくような構成ができました。この構成を構造体として、プログラムに合わせて中の空間を大きくしたり小さくしたりしながら、2,014席のグランドシアター、800席のプレイハウス、200席のブラックボックスという3つの劇場と、オフィスや店舗、展示スペースなどを備えた複合施設を入れ込みました。内部空間はどこも洞窟のようで、内から外を見ると、古代の人間が洞窟の中から現代都市を見ているような気分になり、おもしろい体験ができます。こういった風景が随所に見られます。
連続する曲面の構造体は、トラスウォール工法という旭ビルウォールが開発したシステムで施工されました。システマティックに施工するため、曲げた鉄筋を溶接して二次曲線を描くトラスをつくり、その鉄筋トラスを20センチ間隔で縦方向に並べさらに横方向に繋ぎ、三次元曲面を再現しました。そうやってできたトラスウォールのユニットをまた鉄筋で繋ぎ、その両サイドに強くて粗い網と細かくて弱い網を重ねたダブルの網を張って型枠とし、コンクリートを打設します。その後、コンクリートが完全に固まりきらないうちに両側のダブルの網をはがし、そこをモルタルでならして吹き付けの仕上げを行い、完成となります。単純作業と言えばそうなのですが、気の遠くなるほど同じことの繰り返しで、すべてかたちの異なるものをつくっていかなければならないたいへんな現場でした。最初の頃は、これから何年かければ完成するのか……と不安になるくらい、工事がはかどりませんでした。このプロジェクトの施工は、台湾の必ずしも大手とは言えないゼネコンが引き受けてくれたのですが、工事を進める中でだんだん要領をつかんでくれ、最後の方は、とてもきれいに施工できるようになりました。
グランドシアターという大劇場は、足元がいちばん濃い赤色で、上の方へ行くに従って、淡い赤に変わっていくグラデーションとなっています。壁面には音響のために、凹凸をつけたアルミの鋳物のパネルを張っています。また、2014年11月には、このグランドシアター限定で、一カ月間だけ一般公開を行いました。本当のことを言うと、まだ工事途中で危険なので、私たちとしてはやってほしくなかったのですが、市の要請で強引にオープンさせられることになりました。何事もなく一般公開を終えることができましたが、日本では絶対できないと思います。
プレイハウスという中劇場は、海の底のような群青色から淡い青色に変わっていくグラデーションとしています。ここでは、向井山朋子さんというオランダ在住の日本人ピアニストの方にインスタレーションをやっていただく予定で、私はその舞台美術をデザインすることになっています。おそらく、2016年の9月末から10月初め頃にかけてお手伝いする予定で、このプログラムが杮落としになるのだと思います。
二階の劇場ホワイエの大きな曲面の壁面には、本当は台湾の有名なアーティストに壁画を描いてもらう計画になっていたのですが、キャンセルとなってしまいました。新たに別のアーティストに依頼することを検討しているようですが、現状では真っ白なままとなっています。
地下のブラックボックスという小劇場は、ステージの奥が開放でき、外部のサンクンガーデン状の野外劇場と接続し、まさしく内と外が連続しています。屋上はテラスとなっていて、壁面には緑が這い上がっていく予定です。屋上でも小さなコンサートなどが開催できると思います。
敷地である公園は既に開放されていて、毎日たくさんの人でにぎわっています。特に夜がすごいです。外壁に大きな映像を投影し、コンサートやパフォーマンスが毎夜のように行われ、数千から一万人ぐらいの人が集まっているようです。またメインアプローチに面して噴水のある池を設けているのですが、みなさん躊躇することなく池の中へ入るので、プールのようになっています。日本だったら絶対、池の中に入ることは許されないと思いますが、こちらの方々はおおらかでよいですね。
私はこの「台中メトロポリタン・オペラハウス」の設計を通して、約10年間ずっと、どうすれば建築の内と外を繋げることができるのかを考えながら、それを空間のコンセプトとして実践してきました。実際には、なかなか思うようには繋がっていかないのですが、かつての人間が洞窟に住んでいた時の自然に対する畏怖のような、現代建築とはおよそ縁遠いエネルギーを感じていただけたらと思っています。