アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
「みんなの森 ぎふメディアコスモス」は、2015年の7月後半にオープンしました。プログラムは「せんだいメディアテーク」とよく似ています。ちょうど東日本大震災の1カ月前にコンペティションの最終審査があり、その時に提出したA3サイズのプレゼンテーションボード1枚で示した提案が、ほとんど実現しています。
敷地は岐阜市の中心市街地で、近くには長良川が流れ、織田信長の居城のある金華山がそびえています。JR岐阜駅にもほど近く、元もとは、岐阜県立医科大学のあった広大な土地です。隣には旧岐阜県庁舎があり、この場所から岐阜の街は広がっていったとされています。この由緒ある旧岐阜県庁舎の建物は、移転のため、現在ではファサードのみ保存されています。また、近々岐阜市庁舎が「みんなの森 ぎふメディアコスモス」の南側へ移転してくる予定です。少し高い建物となるようです。われわれの敷地は広かったのと、周辺の住宅街に配慮して、できるだけ大きな平面として2層に抑え、建物のボリュームを抑えようと考えました。
コンペティションの要項には、敷地西側に240メートルにわたるプロムナードを設けることが定められていたので、ランドスケープデザイナーの石川幹子さんと一緒にデザインを提案しました。西側だけでなく敷地全体に樹木を植える計画とし、南側にも幅45メートルの広場を設けています。西側のプロムナードのせせらぎの水は、地下水を汲み上げて建物で空調に使用した後の水を利用しており、そこから地下へ戻すというサーキュレーションを採用しています。このプロムナードは建物より早くオープンしていたので、小さなコンサートやキオスクのような売店が出たり、にぎわっています。
この建築の基本的な考え方は、「大きな家と小さな家」をつくろうというものです。これは、今回のコンペティションより前から考えていました。モダニズム建築では1枚の壁によって内外を切り分け、内部をできるだけ自然から切り離し、そこに人工環境をつくると考えられてきました。しかも、省エネ化を図るために、できるだけ壁の断熱性能を上げ、ソーラーパネルを付けてエネルギーをつくり出して……という方向に進むケースが多いのですが、私はそれにずっと疑問を持っていました。日本の昔の家のように、もっと内と外を連続させた方が、日本のような環境では楽しいし、省エネにも繋がるのではないかと考えています。しかし、これがなかなか実現できない。すぐ暖まらないとだめだとか、すぐ冷えないとだめだとか、内と外がはっきり切れていないと管理しにくいとか。そんな中で、これくらいならできるだろうとトライしてみたのが、「大きな家と小さな家」というコンセプトです。「大きな家」の中に、「小さな家」があって、「小さな家」の中は完璧に空調されているのですが、「大きな家」の中は少し緩い。つまり、分け方を2段階にすれば、内と外が連続する環境というものがつくれるだろうと思ったわけです。
そこから、いろいろなスタディを重ねました。構造を兼ねた小さな小屋が大きな空間の中に並ぶ案も考えました。ただ、こんな閉じられた小屋に入って本を読みたいとは思わないですよね。また、いざ入ろうとした時に、先に他の人がいたら入りにくいでしょう。どうすれば、「大きな家」の中に快適でかつ閉鎖的にならずに「小さな家」をつくることができるか、さまざまな検討をしました。スケッチや模型によって検討を重ねた結果、提出締め切りの1カ月前くらいに、グローブというテントのような大きな傘(当時はクラゲと呼んでいた)を天井から吊り下げることを思い付きました。その時はまだフラットルーフだったのですが、それが吊られていると、その下には外とは雰囲気の異なる場所ができ、かつ、周りとは繋がっていられる空間がつくれるのではないかと考えました。
それから、アラップの構造エンジニアの金田充弘さんと相談し、構造的な合理性と空気の循環という面から考え、天井は木造でシェル形状とすることにしました。さらに、アラップの設備エンジニアである荻原廣高さんにも加わっていただき、われわれと構造、設備のエンジニアが一体となって一緒に考えることができました。今はシミュレーションによって空気や熱の流れ、光の回り方など、解析ができますから、設備的な問題である空気や光の流れを、どんなふうにデザインに取り込んでいけるかということについて、検討しやすい環境が整ってきています。
このプロジェクトでは、豊富な地下水を利用した床輻射冷房とデシカント空調との組み合わせで、冷気や暖気をゆっくりと自然の力で動かしています。夏は高いところから暖かい空気を排出し、冬はグローブ内に留めて循環させます。その他ではソーラーパネルで発電したり、気候のよい時には外気を取り入れたり、そういうことを含めて、消費エネルギーを従来の建物の2分の1に減らすことができました。
内部についてご説明したいと思います。90×80メートルの大きな平面に、1階には、東西南北に通り抜けられる広場的な空間を設け、中央にはガラス張りの15万冊の蔵書のある書架がシンボルのように設置されています。東側には閉じた展示室とギャラリースペース、外にまで広げて使うことのできるオープンなギャラリースペース、そして、約200席のホールがあります。西側には、プロムナードに面して市民活動交流センターがあります。ここには、スタッフの人が20人くらい常駐していて、市民からの相談事を受けています。可動畳や印刷・工作工房、ちょっとしたダンスや会議ができる大小さまざまなスタジオなども設けられています。
メインエントランスから入って正面にあるエスカレーターを上がっていくと、2階には全部で11個のグローブが吊られたオープンな開架閲覧スペースが広がります。グローブには、メインの垂直動線の上に架かるグローブ、受付とレファレンスのグローブ、ごろごろと寝転がって本を読んだり、お母さんと一緒に読み聞かせができる子ども用のグローブ(児童のグローブ、親子のグローブ)、その他には、リラックスして本を読めるようなグローブや、きちっとテーブルに座って本を読むグローブなど、さまざまなスタイルで本を読める場所を用意しました。グローブの大きさは、直径がいちばん小さいもので8メートル。それから、10メートル、12メートル、14メートルの、全部で4種類のサイズがあります。また、「台湾大学社会科学部棟」と同じように、スパイラルを描くように配置された書架がグローブの周りに置かれていて、初めてきた人は、どこどこのグローブにあなたの探している本がありますよと教えられ、そのグローブを1周するとどこに本があるか分かるようになっています。
グローブはサインも兼ねており、デザイナーの原研哉さんとテキスタイルデザイナーの安東陽子さんが、たいへん苦労してつくってくださいました。ポリエステルを三軸織という立体的な編み方で編むことで緩やかな曲面をつくり出し、その上部を半透明の素材で覆い付箋のように糊のついたパーツを張り合わせてパターンをつくっています。このグローブはトップライトに合わせて設けられており、グローブの周辺からやわらかい自然光が落ちます。また、トップライトは可動で、そこから暖まった空気を逃がすことができます。
また、2階の開架閲覧エリアには、西側のプロムナードに面して3メートルの奥行のテラスを設けています。これは、西日の遮蔽を期待すると共に、気候のよい時期にはプロムナードの緑と向かい合って本を読むことができます。南側と東側にも、大きなテラスがあります。「せんだいメディアテーク」に比べると、かなり内と外との関係をつくることができました。
このプロジェクトでいちばん私が嬉しかったのは、普通の冷房よりは設定温度が高めであるにもかかわらず、デシカント空調によって除湿しているため、さわやかな空気の流れを感じることができ、心地よい空間となっていることです。室内の温度が外気温とそんなに違わず、内部にいても、外にいるような感覚なのです。この建築で、初めてそういった空間が実現できました。ぜひ機会があれば体験していただけたらと思います。
周辺の山並みと調和する波打つ形状の屋根は、地元のヒノキ材を使って組みました。これも、アラップの金田さんが提案してくださり、大断面の集成材ではなく、幅120ミリメートル、厚さ20ミリメートルの薄い断面を持つヒノキ材を、三方向に互い違いに重ね合わせてレイヤーをつくり、曲面の屋根を構成しています。いちばん低いところがいちばん曲げモーメントが大きくなるので、木材を20層重ね合わせて40センチの厚さの屋根としています。上の方へ行くとその半分くらいの厚さとなります。この屋根の施工には、全国から百何十人という大工さんが集められ、2014年の夏の厳しい暑さの中、頑張ってつくってくださいました。
設計時に問題となったのは、こんなに本がたくさんある空間に対して、木造の屋根を架けてよいのかという点でした。かなり綿密に確認の準備をしていたのですが、いちばん最後の大臣認定の段階で、国土交通省からストップがかかってしまいました。一時は白紙に戻りかねないような状況にまで陥りました。そこで、解決策として提案したのは、書架をコンクリートでつくるということでした。書架の構造部分をプレキャストコンクリート、棚板は鉄板の上に木を重ねてつくりました。つまり、本は燃えてもこの書棚の中の範囲でしか燃え広がらないのです。実証実験を行い、ようやく木造屋根を認めてもらうことができました。とは言え、家具やグローブのテキスタイルはすべて不燃加工をしなければいけませんでした。ソファなどには、通常クッションを入れますが、耐火のことを考えると入れられないので、人工の籐を使い、少し固いですが気持ちのよいソファができました。家具は藤江和子さんのデザインです。
また、岐阜出身であるアーティストの日比野克彦さんが、彼がリーダーとなって、今回この「みんなの森 ぎふメディアコスモス」を、どのように使っていくのか、岐阜の若い人たちと一緒になって毎週のようにワークショップをやってくださいました。そのおかげもあって、「せんだいメディアテーク」の時に比べるとずいぶんスムーズにプロジェクトを離陸させることができました。
今では週末は1日6〜7000人ほどの方が利用してくださっています。