アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合

東西アスファルト事業協同組合講演録より 私の建築手法

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大谷 弘明 - 組織で設計する
第四章:エンジニアと意匠設計とのせめぎあい
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2022 東西アスファルト事業協同組合講演会

組織で設計する

大谷 弘明hiroaki otani


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第四章:エンジニアと意匠設計とのせめぎあい

ここからは意匠設計と構造や環境、設備エンジニアとの間で、どのようなせめぎあいが日々行われているのかをお話しします。「愛媛県歴史文化博物館」(1994年)も陶器さんと協働した建物です。長さ100メートルの木造屋根を架けたエントランスホールが特徴です。阪神淡路大震災の直後に仕事をした「加古川ウェルネスパーク」(1997年)は、設備エンジニアの大高一博さんと一緒に空調計画を進めました。Z形のPC版をロビーの屋根として並べ、北側からの間接採光としました。空調はデリベントファンという、トンネルの中にある筒型の整流ファンを小型にした設備を設置し、吹き出し口が目立たないようにデザインしています。PC版には片勾配がついていて縦樋がなく、板の端から雨水が流れるような設計です。木造屋根のホールでは、ディスプレイスメント空調という空気を低風速で吹き出し、冷たい空気を下に溜める置換式の空調により直天井を実現しています。「愛媛県美術館」(1998年)は、展示室のすべての壁、床、屋根をPC版としPC鋼線で緊張して連結させる構造です。展示室を柱3本のみで1階エントランスの上に設置するという難易度の高い設計でしたが、陶器さんが解決してくれました。工期が2年しかなく、鉄筋コンクリートの乾かし期間が十分に取れなかったため、それを逆手にとってあらかじめ工場でつくられたピースを現地で組み立てることで短工期を実現しました。
「宮内庁正倉院事務所」(2008年)は構造エンジニアの加登美喜子さんとの協働でした。宝物の修復を手がける2,000平方メートルの平屋の事務所で、敷地の南東方向に東大寺の大仏殿があります。風景の中に静かに佇み、開放感のある壁面と重厚感のある屋根が特徴の建物です。直径200ミリメートルほどの鉄骨柱で支えたPC版の屋根を載せました。内部はこのプロジェクトも直天井としました。風景に溶け込む地味な見た目とは裏腹に、関係者の思い入れが細部に至るまでぎっしりと詰まっています。

「愛媛県美術館」のPC構造体の分解パース

「愛媛県美術館」のPC構造体の分解パース

「エントランスロビー」の写真

エントランスロビー

「「愛媛県歴史文化博物館」北東側全景」の写真

「愛媛県歴史文化博物館」北東側全景

「南側に張り出したピロティ」の写真

南側に張り出したピロティ

「エントランスホール」の写真

エントランスホール。屋根は調弦梁と3ヒンジアーチによって構成されている

「エントランスホール詳細」の図

エントランスホール詳細

「加古川ウェルネスパーク」の外観

「加古川ウェルネスパーク」の外観

「2階ウェルネスロビー内観」の写真

2階ウェルネスロビー内観

「大屋根詳細」の図

大屋根詳細

「PC版ルーバー屋根詳細」の図

PC版ルーバー屋根詳細

「ウェルネスセンター棟断面」の図

ウェルネスセンター棟断面

——岡田 「宮内庁正倉院事務所」は私も担当したのでよく覚えています。この時、大谷さんは「風景を変えずにつくろう」とおっしゃっていましたね。そして長く使い続けることができるようにとPC(ここではPCaPC=プレキャスト・プレストレストコンクリート構造)を採用した。同時期のほかのプロジェクトでもPCをよく採用されていたと記憶しています。当時は、工学的なアプローチからPCを選んでおられたと思っていたのですが、意匠のコンセプトとも通じる部分があったのですね。

そうですね。特に「宮内庁正倉院事務所」は東大寺という歴史的な敷地に建っているので、100年は使い続けてもらえる建築にしたいと思いました。そのためには素材を無垢で仕上げるのが一番です。PCはそれを可能にします。レクチャーの冒頭でご説明した「三井住友銀行大阪本店ビル」の近くに日建設計のオフィスがあり、社会のレガシーとなるまで使われ続ける建築の大切さを日々まぢかに見て過ごしていたことも、こうした長く使える建築を設計することが社会のためになる、という強い信念に至った背景です。

「「宮内庁正倉院事務所」矩計」の図

「宮内庁正倉院事務所」矩計

「PC版の屋根架構」の写真

PC版の屋根架構


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