アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
以上のような考え方を、実際の住宅の設計に生かしてやってみたのが、これからお見せする作品群になります。
まず、「馬込沢の家」という住宅です。非常に単純な住宅です。コンクリートの箱がひとつ、ちょっと地中に埋め込まれてありまして、その上に軽い鉄骨のヴォールト屋根がかかっています。前面道路に面した外には、エキスパンドメタルを使っております。ですから雨が降れば、内側の玄関ホールにも雨は入ります。まるで現場小屋のような家です。隣りの住人が、この建物を見て「いつ本建築ができるんですか」と質問したという話が残っています(笑)。住み始めてからも、近所の人に「いつ完成するんですか」といわれたそうです。
まず、エントランスホールのところに設けられた、パンチングメタルでつくられた扉を開けて玄関ホールに入ります。そしてそこで上へ行くか、すぐ脇の扉を開けて下階の部屋へ入っていくかするわけです。この住宅は、さきほど最初のほうでいいましたディンクと呼ばれる、共稼ぎで子供のない若いカップルが住んでおりますので、大変ファッショナブルで気楽に暮らしているようです。
コンクリートで囲われて、ちょっと地下に潜ったような下階のスペースというのはいってみれば楽屋のようなもので、いまのところはキッチンがそこにありますので、ダイニング兼用のリビングスペースとして使われております。壁・床・天井ともにコンクリート打ち放しのままです。
私自身は、コンクリートという材料にそれほどの執着があるわけではなく、寒ければお金ができれば仕上げをすればいいと思っています。床もたとえばカーペットが敷かれようが、木のフローリングが張られようが、私としてはまったく構わないと思っています。この住宅は、ある意味では七○パーセントぐらいの仕上げでクライアントに渡したと思っておりますので、そのあとはクランアントがここに自分なりのステージをつくっていけばいいわけです。そんな気持ちでクライアントが家を仕上げていってくれれば、むしろ大変おもしろいことだろうと思います。
なかなか人のいる写真というのは撮影しにくいんですが、建物を見せるには、本当は人の入った写真にしたいものですね。これは、この住宅でなにかパーティがあったときの写真です。寝室であろうとどこであろうと、上も下も全部使ってパーティをやっています。東南アジアには、舟の上で生活している人たちがいます。香港でもバンコックでもよく見かけます。いわゆる水上生活者と呼ばれる人たちです。彼らの家というのは、小さな舟で、そこにブリキ仮一枚で覆いがつくられているだけの、ごく簡単なものです。それでもちゃんとその内側には、時計がかけられていたり、台所セットが置かれていたり、カレンダーがかかっていたりして、もっともプリミティブな形での生活というのが見えている。もう一度、その辺を原点として家というものを考え直してみると、結構おもしろいと思うんです。ちょうどN0MADの構想を練っているときに、鈴木博之さんや橋本文隆さんなんかと一緒に香港に行ったんですが、そのとき本当にすばらしい屋台に出くわしました。なにがすばらしかったかといえば、その屋台に漂う空気がすばらしかったというような感じなんですが、本当によかった。それから、タイのチェンマイの街を歩きまわったときにも、何軒もの小さなすばらしい家に出会いました。それらの小住宅はまるでベンチューリの家を見ているようでした。きれいなんです。
最小限の覆いを、ファッショナブルに、いかにしてかけられるかということをいつも考えております。
六○年代の建築家が競い合ってつくったシェル構造を、いまの時代にもう一度、日常的なスケールとして、まるで籠でも編むように上部を覆うものとして使えないだろうかと考えて、広島のほうで建てる住宅のプロジェクトでやってみました。大流行のハイテクというようなことは、僕らにはあまり関係ないんです。もっと身近にあるテクノロジーを組み合わせながら、布のような覆いに織り上げていくことがねらいです。この広島のプロジェクトは、一○○年ぐらいたっている立派な庄屋がありまして、その主屋の裏に古い倉が四つ並んでいる。その倉を取り壊したり、一部残せるものは残したりしながら、いまいったような、私流のシェル状の屋根をかけようとした計画だったんですが、その家の娘さんが急に結婚してしまったという事情などがあって、プロジェクトは中断したままになっております。