アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
いまお話ししましたように、床、壁、天井の意味を構造的にもう一度とらえ直して再構成しますと、いろいろ新しい意味や形を持った空間ができます。これは単純に彫刻的な形の遊戯ということでなく、建築の意味をもう一度とらえ直す、ひとつのチャンスになるんだと思います。
一九八九年の横浜博覧会の施設「YESホール」です。3,000人収容の野外劇場です。
ここでは、いままで以上に徹底して壁と壁、屋根、床を完全に独立させています。100メートル × 70メートルの大きな屋根を二本のマストで吊っています。壁は屋根に触れないで自由に立っています。その内側に地面から盛り上がるように観覧席があります。YESホールの建設途中の写真はまるで今流行の「脱構成主義」のプロジェクトのように見えます。丹下さんが大阪の万博のお祭り広場の大屋根でやられたリフトアップに比べればたいへん簡単なものではありますが、地面上で組立て、引っ張り上げました。
普通は床をつくって壁をつくってそれから屋根をかけるわけですが、ここでは順序が逆で、まず屋根をつくって壁をつくり、最後に床をつくっています。この建物は本来の条件は野外劇場なんですが、そうでありながら、現代のさまざまなパフォーマンスができるような施設にしたいということで、空間を囲むシステムが必要になり、こういう形が生まれました。
実際にこの空間に入ると、本当に内部の空間が屋根を押し上げ、空に向かって押しているように感じられました。風でばたつかないように、振れ止め用に一二本のワイヤーロープでひっぱていますが、視覚的には空に飛んでいくのを必死に引き止めているみたいで、いまにも羽ばたいて飛んでいってしまいそうです。それは空間の感覚としては非常に新しい発見でした。
内部は床がずうっと続いていますが、壁に触れません。そして壁は壁で天井とは縁を切っています。それぞれが皆んな自立して空間を囲んでいるというのが、この建物の最大の特質です。
夜間は壁のパンチングメタルを通して内部の光が見え、光のかたまりのようです。天井を照らす反射光が外から見え、昼間とは別な形で建物が浮いているように見えます。これもまた新しい造形の試みになりました。