アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
次は、最近竣工したもので新潟の「塩沢町立今泉博物館」です。
非常に広い敷地に建っていますので、単純な切妻を変形させた形をとっております。細長い部分がエントランスロビーで、大きく中庭を取り囲んでいるところが展示室、もう片方の円形に突き出たところがレストランという単純な配置です。
建物の背後には魚野川があり、川と建物の間に国道が走り川の対岸には関越自動車道が走っています。この辺は新潟でも特に豪雪地帯で、二階辺りまで積雪があるところです。ですから、その地方の雪国のボキャブラリーを素直に借用しています。
たとえば、次の写真は新潟の北のほうにある。いま国宝になっている大きな住宅です。たまたま私の母方の実家の本家になりますので、子供のときによくいきました。ここに見られるものは、ただ懐かしいだけでなく、自分の記憶の原形でもありますので、それをいろいろなところで自分なりに解釈して借用しております。この博物館では、その大きな切妻屋根の形をそのまま組み直して使っております。
半円を描き、アーチ壁で区切られた展示室をつぎつぎに巡っていくわけですが、いままでお話ししてきましたように、ここでも光を受けるものを意図してつくっています。材料はできるだけ単純であたり前なローコストなもののほうが面白いといつも思っておりますので、ここでもそうした材料ということで、鉄骨の小屋根を露出させ、そこに、上から落ちてきた光を受けて効果的になるようにと計画しました。
以上のようなことで、壁の上に空間をのせるということが、いろんな空間をつくるのにたいへん面白いので、さらにいくつかのプロジェクトをそのテーマを発展させてやっております。
たとえば、新潟の味方村の記念館では、コンクリートの壁の上に木造の屋根をのせております。そして、その木造湖やの一部が望楼となって屋根の上に突き出ています。また、次は「新潟県立ふるさと村博物館」ですが、非常に大きなものです。大きな屋根の上にいろいろな展示室の形が、そのまま屋根を突き抜けてできているというものです。どちらも目下工事中ですので、そのうちお目にかけられると思います。
最後は指名コンペで選ばれたもので、目下基本計画中の「埼玉県立芸術劇場」です。
これまでやってきたいくつかのボキャブラリーを、新しいプログラムの中で組み直すといういいチャンスが与えられましたので、やっているところです。音楽用のコンサートホールと、古典劇場、実験劇場、それからフィルム用の劇場などから構成されます。さらにたくさんの練習場もあります。そういったものを組み合わせた非常に大きな劇場複合施設です。ここでは、それら全体をつなぐ大きな円形の中庭をつくっております。この中庭は屋根はなくて半透明の壁だけです。半透明の壁を何でつくるかというのが、目下の技術的なテーマのひとつです。従来のようにガラスブロックでやれば簡単なんですが、もう少し光が当たると陰ができるような、たとえば障子のようなものがいいと思って、いま考案中です。それに、いろんなファサードが顔を出すというのも特徴です。
この劇場の特色のひとつは練習場がたくさんあって、それを市民が使うということです。したがって、普通は建物の裏まわりに配置される楽屋とか練習場とか舞台装置をつくるスペースといったものをすべて裏に、つまり、それらが面する側も表としてデザインしております。その間に大きなガラス屋根のかかった道をつくり、市民のアマチュアの人たちが練習にくるときのゾーンとしています。そういうことで、いま基本設計をまとめたところです。
建築で考えなくてはいけないこと、つまり現代的な技術、新しい社会的な要求というものは、伝統的なものの意味を問い直す非常に面白いチャンスですから、それを特にこの芸術劇場では一歩進めようと思ってやっているところです。予定では三年後に完成しますから、そのときにまた見ていただければと思います。
最初少し大袈裟な話しをしすぎたような気がいたしておりますが、設計を通して考えてきたことを具体的にお話しさせていただきました。建築がすばらしい仕事であるということは、仕事を重ねれば重ねるほどますます強くわかってきます。しかしまた一方、こんなに不遜な仕事も少ないように思います。というのは、人間の貴い伝統を自分なりに解釈し、神の造った自然に勝手に手を加える仕事だからです。常に最大に自分の力を尽くし、心を尽くし、そしてその上で、謙虚に心を開いて、自分を超えた秩序に祈ることがなければ、本当の建築は造れないと、この頃ますます強く感じています。
今日はこの辺で終わらせていただきます。どうもご静聴ありがとうございました。