アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
これまでは住居についての話しでしたが、ここからは雑居ビルの設計において、「場」に関して、私がどのように考えて取り組んでいるかという話しです。
雑居ビルというビルディングタイプそのものは、非常に日本的なものだと思います。たとえばアメリカでも小さな建物の1階に店舗が入り、2階以上がオフィスあるいは住居という例はありますが、日本のように、1階が店舗で2階がオフィス、3階が各種学校で4階が歯医者、5階が住居などという建物はアメリカにはありません。本来ならば通りに対して横に並ぶべきものが垂直に積み上げられているわけです。これはもちろん、日本の土地の狭さや過密さといった都市の状況を反映して出てきている特徴といえます。ところが、そういうビルディングタイプに対応した独自の建物の表情がないという気が、いつもしていました。中身がそれぞれ違うのにも係わらず、表面は全体を同じパッケージで包んでしまう。 中身がそれぞれ違うのにも係わらず、表面は全体を同じパッケージで包んでしまう。すると内側にある機能は外に自分たちのアイデンティティを出したいたsめに、看板や窓にペったりと内側からコマーシャルな文字を貼るというような解決法になってしまっています。
ここで紹介するいくつかの作品は、アーバン・バナキュラー、いわゆる都市のバナキュラーな建物という視点でつくっていこうと、そういう姿勢で、やってみたプロジェクトです。
たとえば日本の建物に特有の、斜線制限などもかかってきますから、建物の形態も自ずと決められてきます。しかし、周辺の環境とは関係なくただ建つのでなく、日本の場合は周辺に多種多様なノイズが入り交じっているので、そこに建つ建物も周辺と同じノイズをもったほうがいいように思います。ですからそのように考えて設計しております。
これは東五反田に建つ「GAハウス」という雑居ビルです。住宅、オフィス、荷捌き場といった全くそれぞれ関係のない機能が積み重なっています。周辺環境もさまざまな異なる機能の建物が混在した典型的な日本の都市の中にあります。ですから、周辺環境のもっているノイズをとり入れ、アーバン・バナキュラーという視点を前面に出しました。
次は姫路に建つ「ANGLE」という複合施設です。
この作品は、私たちの「アトリウム」をクライアントの社長が気に入って、設計を私たちに依頼されたものです。敷地は、姫路市の郊外の工場が点在する地域にあり、前面には国道2号線が走り、後ろにはクライアントの食品工場があるという立地です。国道に面しては大型のパチンコ店やドライブイン・レストラン、自動車のショールームなどが圧倒的な迫力で並んでいます。クライアントは食品会社でパンやうどんや和洋菓子を製造している会社です。こういう会社にありがちな、工場は事業の発展とともに秩序もなく増築を繰り返し、後ろに建つ施設はかなり乱雑な構成になっています。しかし、食品会社ですから、ここを自動車で通り過ぎる人たちに少しでもいいイメージを与えたい、そして後ろの施設を隠すという役割もありました。用途としては、レストラン、事務所、和洋菓子やパンの工場や売り場、そして工場見学にくる人たちのためのオリエンテーションや近隣の人たちにパンやお菓子のつくり方をデモンストレーソョンするための部屋、上階にはいままで同社が世界各地から集めた食品に関する蔵書を収容し、閲覧する図書室があります。
クライアントがアトリウムを気に入っていることはわかっていましたが、敷地を実際に見に行ってみて、アトリウムのような建物のあり方はここではあり得ないと思いました。周辺を工場に囲まれていますから、工場建築のもっているボキャブラリーや周辺地域のもつボキャブラリーを活用して展開したほうがいいだろうと考えました。しかし、施設の中身は商業建築であり事務所建築であり、ちょっとしたコミュニティ施設でもあるわけです。それを工場建築そのもののボキャブラリーで直接的にやってしまうと不都合が生じると考え、工場建築というボキャブラリーをS造で表現し、そこにRC造を組み合わせて使うことで、このプロジェクトは進められました。地面から立ち上がる部分はRC造で自立しています。このRC造は、その場の行動を誘発する要素になっています。そこに独立したS造の覆いをかけていき、ガラスのスクリーンで壁面を覆っていきます。場の領域を規定していくという役割をS造にもたせました。そして、工場建築のもっているノンフィクショナルな要素と、RC造のもつフィクショナルな表情の2つのギャップによって、飲食部分は飲食部分らしくといった、商業建築らし「構成を全体でとっています。
結果として、いくつかの建物の集合となり、中庭ができました。中庭からはそれぞれの内部の様子がわかるわけです。昼間でも内部はある程度透過して見えますが、夜になるとガラスの反射もなくなって内側のRC造のヴォリュームがぐっと前面に出てきます。
私は、この作品の少し前に「FOREST」という商業建築を軽井沢でつくっていますが、この場合は冬期が長く、工期が短いなどの技術的な理由でS造を使ってRC造との混構造にしています。しかし、この「ANGLE」の場合は、デザイン的な理由でS造を採用しました。これまでは、私自身の生理的な好みからも面の多いRC造の壁構造のはうが空間の感じをつかみやすいとか、集合住宅の作品が多いということもあって、専らRC造の壁構造が多かったんです。ですからS造でやることに少し不安もあったんですが、S造のもっている線材的な要素を展開するようにしました。特に内側は工場建築という表現の下での、S造の覆いを考えていますから、当然のこととして天井のふところもなく、補強のプレースが出てくるとか、空調も室内にいろいろな形で露出してきたりしています。照明器具やスピーカーなども天井から直接吊っているために「線」の要素が非常に多くなります。インテリアに入ったときに蜘蛛の巣の中に入ったような感じが出せるといいなと考えました。
国道沿いに5本の黄色いシンボルタワーが立っていますが、これは特別な機能があるわけではなく、単なる広告塔です。しかし、これも周辺の工場に付属する煙突の要素を広告塔という形に増幅して使っています。