アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
次もやはり同じく複合施設です。秋田日産という日産自動車系の販売会社が中心となって、その事務所にショールーム、そしてレストラン、銀行、郵便局、整備工場、美容院、物販関係の店舗などからなる複合施設「秋田日産コンプレックス」です。
ここは秋田市の郊外で、中心地から車で約20分くらいのところにあります。さきほどの「ANGLE」が姫路の中心からやはり20分くらいですから、国道沿いの風景は同じような景観を呈しています。
敷地周辺の既存の街は、直交するグリッドをもっています。この敷地はドジョウ沼という番地ですから、少し前までは多分田圃で、かなり湿っていたところだろうと思います。ですから敷地周辺の道路は、当時のグリッド状の畦道がそのまま道路になったところだろうと思います。そこに極めて暴力的に斜めに国道が侵入してきます。敷地は国道に面していますから、国道の持つある種の暴力性というものを表現したいということがまずありました。しかし、一般の人たちが自動車を止めてからアプローチする側では、人間の歩くスケールに対応したものにしたいわけです。そして、全体は秋田日産の施設にふさわしい、自動車の動きにまつわるさまざまな言葉を拾い出し、全体を大きな一つのシステムでまとめ上げるのではなく、動きを誘発するような、動きという言葉からスペースのイメージをつくっていくという方法で設計を進めていきました。
たとえば、動きの中にリズムや反復という言葉があります。駐車場側はそれをキーワードにしています。そのほかにも衝突、加速といった言葉からくるイメージの表現もあります。一瞬という言葉では、自動車が駐車場から出ていくときに、一度建物の中に入ってから出ていくようにすることで、中庭に張った水面を通して一瞬ちらっと車が見えてから外に出ていくという仕掛けにもつながっています。上昇・下降、静止などもあります。これらの動きにまつわる言葉のイメージをあちこちに散りばめています。
人のスケールも車のスケールもどの部分も一つの表情では括れない、それぞれ違う表情をもっています。ここを訪れる人たちはいろいろなゾーンを横切っていきます。全体は回遊性がありますから、一度歩いた経路とは異なるゾーンを横切って戻ってくることもできるわけです。そういうことで、ここを訪れる人たちに空間の豊かなシークエンスを生み出しています。
ここで採用した動きにまつわるさまざまなキーワードは、具体的には設計の初期からはっきりした形であったわけではなく、ただ動きを全体で表現しようという意図だけははっきりしていました。設計途中で期間としては短い間でしたが、いろいろなスタディを事務所内部でブレーンストーミング的にやり、かなり多種多様なアイディアがこの段階で出ました。そして最終案のゾーニングにもっていきました。 反復という、非常に秩序のあるファサードが駐車場側の正面にあり、そこを中庭側に入っていくと、さまざまな金属素材と形態がごちゃごちゃと混在する衝突というゾーンがそれに続きます。両者の間に水面をもってくることで、お互いの姿を水面に映し出すことによって、さらに増幅させています。その中庭に面したショールームは外部空間として表現したいために、外光を上方から導入しています。
さらに、国道側は走り抜ける車の加速に対応するスケールと形態をもったゾーンが道路と平行に配置されています。国道側ではまた大きな壁が空中に飛んでいます。その内側に入っているレストランやさまざまな施設のアイデンティティは、その壁面を突き破って表現されています。
整備工場が国道と反対側の奥まった静かな部分にありますが、ある意味では整備工場がいちばんいい場所にあるといえます。レストランよりもいい場所にあります。整備工場というのは、普通は汚い片隅にあるものですが、逆にここでは自動車はどのようにして修理するのかといったことを、ショールームや店舗からも見えるようにしたほうが面白いのではないだろうかと考えて決めました。それは、たとえばここを小さな街とすれば、レストランの隣に整備工場がある場合もあるわけですから、こういうものを見えないところに隠すのでなく、ここでは最もいい場所に配置しています。
チラリと自動車が通過するのが見える部分は、中庭のプール越しです。このプールは、アトリウムでやったのと同じ、地面と同レベルの探さ25センチから40センチくらいの浅いプールになっています。プールの水は絶えず循環させ、溝からオーバーフローして流れる水音が内部にいても聞こえます。時々この水は全部抜き、冬だと真っ白い雪がそこに積もるとか、ショールームでのイベントなどに対応して、ダイナミックに転換できる場として設定しています。したがってそれに続くショールームも外部空間のようにイメージしました。天井などもできるだけ軽い表情をもたせたかったのですが、この辺は積雪地帯のため、屋根に制約があって、秋田という場所の風土性にも対応させなければならないわけです。秋田では、勾配屋根では氷柱の問題なども発生するため、フラットルーフのほうが積雪への対応もいいということで、ここでも雪を溜めるという考え方でフラットルーフにしました。この地域は冬が長く積雪もあり、各店舗は国道側からもアプローチできますが、そうした冬期のためもあって、内側に通路が設置されています。
プールに面した衝突を表現したゾーンは、基本的には全部金属でシルバーで表現していますが、そこに赤いエレメントをいくつか配することでスピード感を表しています。