アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
今日の最後の作品になりますが、七月に完成した「熊本市営新地団地A」です。
熊本県では「くまもとアートポリス」構想を建築家の磯崎新さんをコミッショナーとして進めていますが、これは熊本県および県内の各市がなにか建物を計画する場合、なるべくコミッショナーの磯崎氏に建築家を選定してもらい、そのデザインで建てていくというものです。一九九二年の秋くらいに、それまでにはかなりの数の建物が完成しますので、その建築博覧会をする計画になっています。ただ「アートポリス」の構想そのものはまだまだ続いていくわけです。
「熊本市営新地周地A」は熊本市郊外にあり、最終的には一一〇〇戸近くなる予定のかなり大きな市営団地です。その第一期を私たちが担当しました。第二期は、残念ながら途中で亡くなられた地元の緒方理一郎さんが担当されて、いま工事が進行中です。第三期は県道に面する部分で、東京の富永譲さんが担当され、第四期はいちばん長い住棟で、福岡の西岡弘さん、最後の第五期は地元の上田憲一郎さんです。後四年ぐらいで全部完成する予定です。
第一期の敷地は、全体に西に向けて末広がりにだんだん下がっていく形状で、その周辺には二階建てくらいの住宅が広がっています。ここには、この敷地を通り抜けてバス停に行き来する人の流れがあります。北側は四メートルほどの高低差があり、そこが市境になっていることもあって、擁壁の上に敷地がのっています。ここに二七六戸の市営住宅をつくるというプログラムでした。
この「場」がもつ特性、特にこの場合は建て替え住宅ですから、元々ここに住んでいた人たちがここに再入居することもあるわけです。したがって、この場所のもっていた社会的なイメージが強く存在しています。ですから、新しくつくるものは密度が大きく異なるため、そのまま昔の雰囲気を残すことは非常にむずかしいのですが、社会的に共有されていた「場」のイメージを、その痕跡だけでもいいから残したいと考えました。私たちとしては、既存の地形や構内の通路や道路パターン、そして部分的には石垣の形状などを極力、新しい配置計画の中でも残そうとしました。また、住棟の配置された足元を見ると、オープンスペースのネットワークが地形とからみ合って適度に分節化しながら展開するという構成です。
アトリウムなどの集合住宅の作品にも共通するのですが、私は集合住宅では各住戸のプランも大事ですが、集まって住むための共有スペースがどれぐらい豊かであるか、そして楽しいものであるかといったことが、非常に大切なことだと思います。共有スペースにもいろいろあって、住戸と住戸の間で共有されるスペース、住棟と住棟の間で共有されるスペース、全部の住区と周辺地域との間で共有されるスペースと、いろいろなレベルで存在します。こうした共有スペースを大事にして設計しようというのが大きなテーマでした。と同時に二七六戸という大きな規模になりますと、これまでの小さな規模の集合住宅では避けていた同じユニットの反復がどうしても避けられなくなります。しかし、設備から一切合切を含めて坪四六万円でできているというか、しなければいけなかったという状況の下で、経済的な制約の強い中で、できるだけ反復という画一化を避け、多様性をもたせる努力もしました。豊かな共有領域の確保と多様性の二つが、新地団地を設計するに当たっての大きな課題となりました。
全体の配置は、敷地の南北にそれぞれ道路に対してエッジを構成する五階建ての長い住棟を配しています。 当初は厳しい予算の中で低層棟までできるかどうか疑心暗鬼で進めましたが、しかし、そんな中でも低層棟を導入したのは、プランの多様性だけでなく、住棟そのものの多様性という意味もありました。結果として五階建ての中層棟とその中央部分の二、三階建ての低層棟の混在という配置になっています。これはまた、周辺の二階建ての住宅のスケールを団地の中に連続させてゆくという意味もあります。低層棟と中層棟の間のスケールのギャップを埋めるために、中層棟は低層棟と同じ二、三層分の高さで奥行き一・二メートルの層状のファサードを両側に取りつけることで、全体を二、三層の親しみやすいスケールにしています。この二層、三層の部分の外壁に同じ低層棟とベージュ色を施すことによって、よりいっそう二つの異なる住棟タイプを一体化させるという効果を高めています。と同時に中層棟の両側にファサードをつけることで、これまでの日本の集合住宅の北側というのは実に味気ないファサードであったものが、非常に表情が豊かになり、建物の裏表がなくなっています。いまいったことは垂直方向のスケールに対してのスケールダウンの工夫でしたが、水平的なスケールダウンに関しては、中層棟は全長一六九メートルもありますから、相当長く延びています。その住棟のところどころに黒く塗られた建築構成要素をアトランダムに点在させることで、そこに人が佇んだときに二か所くらい黒い部分が見え、水平の距離がそこでお互いに結びつくという期待を込めてやりました。こういうスケール感が団地全体の景観を形成し、威圧感のない外部空間を構成しています。
低層棟と集会室の間の中庭に深さ一五センチのリフレクティングプールがあり、夏にはかなりの子供たちが水遊びをしていました。五階建ての住棟は二二タイプ、低層棟は一〇タイプのユニットプランがあります。なかにはメゾネットタイプも含まれております。しかし、低層棟は方位もアプローチの仕方も異なるため、六九戸全部が少しつつ違うともいえます。長い住棟の中に規則正しく二層分吹抜けの通り抜けられるゲートを配置することで、周辺の住宅地に対しても、それはど壁のような威圧感は与えないですんでいますし、風も通り抜けていきます。そのゲートはそれぞれ形や大きさが異なります。最上階では、そのメリットを生かして屋根を一部分つけています。また、あるユニットにはかなり広いテラスをつけています。つまり普通は二住戸分の間口を一住戸で占有し、その間口一杯のテラスを有しているユニットがあります。また、重身障者が入るユニットでは車椅子に対応して後ろの駐車場側から通り抜けることができるようにしてあります。また、扉も引き戸にし、山沿室も大きくしたりしています。
低層棟の中庭は一つだけ大きいのがありますが、それ以外はアトリウムと同じ一二メートル角の中庭を囲んで住棟が建っています。この大きさの五つの中庭がありますが、それぞれレベルを違えることで、全く同じではないスペースができています。どの住棟も二万向に抜けられるようになっていて、閉塞感はありません。アプローチ・スペースは画一的にならないように、なるべくバラエティをもたせるよう、ブリッジなどを活用しています。低層棟の住戸は、お年寄りの住民も比較的多く、玄関の部分が土間になっていて、そこに腰掛けたり、立ち話などもできるようになっています。