アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
最後は伊東豊雄さんとの作品「せんだいメディアテーク」です。コンペが始まったときに伊東さんからスケッチが送られてきました。最初そのスケッチを見たとき、とにかく驚きました。無重力状態の感じで、数枚のシングルラインの床と、そしてふにやふにやと海草のようなものが何本か描かれていました。夢の中を漂うようなイメージスケッチだっただけに、逆に非常にインパクトが強くて、ひどく衝撃を受けました。一日しっかり考え、これでいけるぞ、と思うところまでこぎつけました。もちろんスケッチにあるような構造物は現実にはないわけで、現実にはそれなりの合理性をもった構造的着想が必要なんですが、当初の伊東さんのイメージは大体実現できたと思ってます。チューブとひたすら薄いフラットな床と外周のスクリーン、その三つの要素だけでこの建築を構成しました。
実施設計の段階で、大小合わせて十三本のチューブと床で構成することを考えました。透けているチューブをイメージしています。これはみなさん、雑誌などでご覧になっていると思います。伊東さんの事務所で非常に正確な模型がつくられました。われわれ構造のほうでどういうことを考えたかと申しますと、四隅の大きな八メートルぐらいの直径のラチス状に組んだシェル状のチューブと、それから細いチューブと二種類用意して配置しました。四隅のチューブが主として地震に対して大きく抵抗します。細いチューブで鉛直を支えます。ちなみに平面が五十メートル四方ありますので、大きなスパンのところは二十メートルを超すような部分も出ていますが、スラブはサンドイッチ板で四十センチです。そのサンドイッチ板も、中は設備的に有効に利用しようと考えています。大きいチューブにはエレベータないしは階段などが入っていて、小さいものには光も含めて設備的なものを入れます。建築と構造と設備の一体化を狙っています。
次に床の構造のコンセプトですが、フラットスラプに穴が開いています。支点の応力状態に合わせてどういうふうに組んでいけばいいかですが、集力部をなるべく守りながら、いらないところは抜いていきます。そういう意味で、合理的で効率のいいサンドイッチ板を構成しています。基本的なグリッドは一メートル間隔で、標準的な部分は上下の鉄板が六ミリぐらいです。デスクゾーンと呼んでいるところは少し厚いものを使っています。
この銅板サンドイッチ構造は、十三本のチューブで単純支持された五十メートル四方の周辺のデスクゾーン、X方向にチュープをつなぐ柱列ゾーン、そしてそれらをY方向につなぐ柱間ゾーンです。応力に応じて床を考えてあるわけです。
少し専門的になりますが、こういったラチス空間構造の場合、耐震をコントロールしないといろいろ問題があって、この建物は地下一階が駐車場だったので、ここにローラー機構を設けて、地下一階がかなり揺れてもいいと考えました。大きな地震が来たときには、ハシゴ状の貫梁と称してるところに塑性ヒンジをどんどん発生させて、それによる履歴減衰を期待しながら逆に上の地震力を軽滅していこうということです。この建物で本当に大事なのは地上階ですから、地上階はまったく無傷であるようになっており、駐車場にヒンジがたくさんできたとしても、ある程度の残留変形は残りますが、ストッパーが入っているので止まるようになっていて、ジャッキで容易に補修できます。
伊東さんはコンピュータグラフィックを見て満足してくださいましたが、要するに太った人や痩せている人がふらふら揺れて地震に耐えるといった感じです。
溶接や加工、鉄骨製作上の難度が高いということで、設計の段階で川崎重工に入ってもらってモックアップをして、問題があるかなどを検証しました。
大きなチューブのうちの一つですが、直径が八メートルから九メートルぐらいで、高さが七・五メートル近くありますけれども、それを工場で一度仮組みをします。そこで精度をきちっと合わせて、その状態のものを現場に持ち込んでいます。
以上が今日のテーマで、スチールをどう使うかによって実現する空間の例を見ていただきました。