アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
Lの後にiという建物をつくりました。Lとは異なり小さな敷地で、延床面債も80平方メートル程度しかありません。この住宅では、外断熱に挑戦してみました。コンクリートの外側に断熱材であるスタイロフォームを張っています。実際、スタイロフォーム以外の断熱材は防水性能に劣りますので、外断熱に使用するのは難しいように思います。ただ、スタイロフォームは紫外線に弱いので、紫外線をカットするために木を張りました。木と木の間は防水をしていませんので、躯体防水です。このように設計を進めていく中で、屋根と壁の区別って何だろうという疑問が、ぶと頭に浮かびました。すべての面に断熱性能と防水牲能があれば、屋根と壁の区別はいらないのではないかということです。
この地域には、屋根は不燃材でつくらなければいけないという決まりがあり、このため屋根に木は使えません。ただ法律をよく読みますと、コンクリート建築の場合、パラペットを軒とみなす、ということが書いてあります。当然、軒より下は屋根ではありませんから、パラペットより下も屋根ではない。という理由で、ほとんど壁で覆われている住宅が完成したのです。僕らは頭の中で、屋根と壁とを無意識のうちに区別してしまっていますが、現実的にはあまり関係ありません。外断熱の試みが、知らず知らずのうちに考え方やデザインに対して影響をもたらしたことに興味を覚えました。
Lという住宅では、もともとそこにあった構造体を改装したように、という具合に、時間という概念が入っています。ただ、最初の構造体だって自分でつくっているのですから、結局は自分ひとりですべてを演出していることにほかなりません。すると、そこにはどうしてもいやらしい感じが出てきてしまいます。そのいやらしさを消すためにはどうしたらいいか、ということを考えた結果、何かがあってそれを改装して、という時間の幅を縮めていって0にできないだろうかと考えるに至ったのです。
内部に吹抜けがありますが、吹抜けは、そこに吹抜けをつくろうとしてつくったものではありません。壁があり中に床があり、それらがくっつく場合もあるし、くっつかない場合もある。場合によっては隙間が空く、その隙間のことを吹抜けと呼んでいるわけです。小さい家ですから、ひとつひとつの壁面はそれほど大きくはありませんが、それをいろいろに感じることができるようにするというのは重要なことで、こういった壁面の扱いを検討した結果のひとつが、吹抜けなのです。
窓は景色とか光の問題から位置が決まっています。しかし、中にはいるとその窓は外で想像していた以上にさまざまな見え方をすることがわかります。窓ばかりの家にも見えますし、壁が多い内部の一部に穴が開いているようにも見えます。僕たちが考える大きさ小ささというのは、実は相対的なものです。機能的にどうしても必要な大きさというものはありますが、設計を頼まれた場合、特に敷地がさほど広くない場合、大きくしたいといっても限度があります。であれば、相対的な大きさを重視せざるを得ないでしょう。その意味で、窓は、そこにどれだけ近いところで生活ができるかといった感覚的な要因で、スケールが違ってくるというようなことが起きてきます。
イスタンブールのハギア・ソフィアに行かれた方は多いと思います。この建物は、中央のドームを柱が支える構造をとっていますが、柱の上部、ドームの下端の入り隅に、イスラム教の聖人の名前が書かれている楕円形の額があります。下から見るとたいした大きさには見えないのですが、たまたまある機会に近くで見ましたら、あまりの大きさに驚かされました。全体を見渡すことができるところから見ればほどよい大きさでも、向かい合っている時には、身体的な感覚でその大きさを感じてしまうのです。この住宅でも、日常の生活の中でそういった感じ方の違いを体験できればいいと考えました。
内装に関しても悩みました。理論的には、外断熱ですので内装はいらないのです。しかし、そのままでは暗い感じになってしまいますから、白くしようと思いました。本来、塗装する場合には、シーラーとパテを塗って表面を平滑にし、それから塗装します。コンクリートというのは打ちますとどうしても表面が波打ってしまうので、このような処埋をするのですが、今回は均質に全部まっ白に塗ってしまうのもどうかと思いましたので、シーラーとパテを塗ったところで正めてしまいました。当然、コンクリートのへこんでいるところにはシーラーがつくし、出っ張ったところにはつきません。このことで物理的には平滑だけれど、視覚的には凸凹の壁面が誕生します。上にはアクリルの透明塗料を塗りました。なるべく手の痕跡は見せずにたまたまそうなったという感じにしたかったのですが、どうしても手作業ですから、手で塗ったように見えてしまうところもあります。