アスファルト防水のエキスパート 東西アスファルト事業協同組合
複雑系という学科と情報アーキテクチャーという二学科しかない学校で、デザイン系の先生も、経済の先生も、生物の先生も、コンピュータを用いて授業を行います。既存のジャンルではくくりきれない内容を扱う大学だといえます。
コンペで選ばれたのですが、そのコンペで、私たちは巨大なスタジオのような空間をつくることを提案しました。そこは、学生たちが各自自由に勉強できるし、レクチャーも行われる、また設計課題の審査講評なども行われる、何でもできるスペースです。このスタジオのイメージは、設計事務所です。設計事務所というのは、みなさんご承知のように、ひとりで仕事をすることもありますが、たいていの時間、人と話をしています。ですからコミュニケーションするための空間が中心にあって、かつ個人でも仕事ができます。大学もそうした設計事務所のようなものでいいのではないかと提案をしたのです。
コンペの二次審査の段階では、スタジオが敷地の斜面に従ってだんだん階段状に上がっていくようなイメージヘと変化していきました。先生の研究室と学生たちのスタジオが一体化するような、そういう教育の仕方、研究のシステムを考えたらどうだろうかということです。
コンペ時は、スタジオゾーン、レクチャーゾーン、体育ゾーン、管理棟という四つのゾーンに分かれていたのですが、策定委員会の先生たちと話をしていっているうちにどんどん変わっていきました。コストも原因のひとつで、当初は百億円ぐらいの予算を見込んでいたのですが、蓋を開けてみるとランドスケープも、消費税も入った予算で、実際には九十億円ぐらいしか使えないことがわかってきました。そこで、あまりゾーンにこだわらずに、スタジオとレクチャールームを一体化した大きな箱にしていこうということになりました。
もともとマルチパーパスという部屋は、独立して設けられていたのですが、スタジオとレクチャールームを一体化してその間をマルチパーパスにしました。これは先生から出てきたアイデアです。つまり先生たちが考える教育のシステムと、われわれが考える空間のシステムが、うまく一致したためにこのような提案になったのだと思います。
そのうち、予算の問題もあり、体育館も大きな箱に入れてしまおうということになりました。その際に、単なる体育館ではなく、授業もできる体育館にしたいという話が出たり、ロボカップというロボットにサッカーをさせる世界選手権の会場としても使おうという話が出るなど、ひとつの部屋を単一の目的に使うのではなく、隣接する部屋との関係でさまざまに使おうという発想が定着していきました。設計の最終に近い段階で体育館の面積を通常の半分程度にする提案をしましたが、これですと12.6メートルスパンなのでバスケットコートがとれません。ロボカップ選手権などができれば、バスケットコートはなくてもいいのではないかと思ったのですが、函館の事務局側から一般にも開放するのでバスケットコートは必要だという意見が出て、最終的には北側に体育館が少し出っ張るような形に落ち着きました。
このように、非常に短期間に設計変更を繰り返しながらも、僕はうまい方向にいったと思っています。当初からのスタジオという提案が、さまざまな場所に反映されながら最終的なプランに収まっていきました。設計者がひとりでどれだけ頑張っても、こうは動かなかっただろうと思います。コミュニケーションが心地よいというのでしょうか、何か新しいものが生み出せそうな空気を会話のなかに感じ取ることができたのです。僕らがガラス張りの研究室にしましょうといったとき、「埼玉県立大学」では先生たちから猛反対されてしまいました。気が散ってしまうということで。しかし、「はこだて未来大学」の先生たちはむしろ、、積極的にガラスにしたい、むしろ当然であるという反応でした。レクチャールームをガラス張りにして、授業を受けている人たちを外から見ることができるような授業形態もあるのではないかという話をしたところ、先生たちは積極的にそういう教育のシステムを考えていこうとしてくれたのです。常にベクトルがマイナス側ではなくて、プラス側に働くのです。多くの場合、大学の先生と設計、あるいは行政が自分の側の都合に固執するという体験を数多くしてきましたが、ここではそうしたことが一切なく、非常にうまい方向に進んでいった気がします。そしてそれが明快な建築になっていった理由だと自分では思っています。
講義室はガラス張りですので、レクチャーしている様子を外から眺めることができます。もし行かれたら、授業していても遠慮せずに中に入って下さい。僕らが入っていくと、先年は何の授業をしているのがということを教えてくれます。そして興味があれば先生や学生に質問しても構いません。このように授業のスタイルが今までとはまったく違い、外部にプレゼンテーションするような授業なんです。それもこうしたガラスだからこそ可能になった授業形態だと思います。それに中の様子が丸見えですから、居眠りする学生などいないですね。
一階南側にはプレゼンテーションスペースが設けられています。ここでは高校の先生がお昼体みに化学や物理の実験ショーをやったりしています。教えるのがとてもうまい先生がいらっしゃって、高校の実験をわかりやすくやっているんです。学生だけでなく先生もいっしょになって楽しんでいます。
この大学では、学生全員が入学の際にコンピュータをもらえます。そのため、校舎内のさまざまな場所からインターネットや構内LANのインターフェースが出ていて、そこから学内外の情報にアクセスすることができます。
南側の正面から見ますと、高さが約20メートル、横が12.6メートルの8スパンですがら、ほぼ間口が100メートルです。奥行きもほぼ100メートルで、100×100の巨大なワンボックスになっています。ランドスケープは、妹島和世さんにをお願いしました。
構造にはプレキャストを使おうと、早い段階から思っていました。「埼玉県立大学」でその合理性に魅せられていたからです。構造家の木村俊彦さんに相談したところ、JIS規格にもあるダプルTというTの字をふたつ組み合わせた、下駄みたいな断面形をもつスラブを用いるのがいいだろうということになりました。スパンは13メートル。これはトラックに積める寸法ということで決まりました。梁部分であるステムの見付けは約60ミリ、背は3〜400ミリです。1スパンの3分の1をトップライトとし、残りの3分の2で水平方向の応力を担っています。
現場ではほとんど足場がいらなくて、レゴで模型をつくるように建築が出来上がっていきました。ここでは80パーセントぐらいのプレキャスト化を達成しています。地上部分はほとんどプレキャストで、その工事の風景は今までとはまったく違うものでした。
柱と上部のスラブは、圧着工法で取り付けられています。テンションをかけてロットで上下に引っ張っています。X軸方向、Y軸方向、Z軸方向すべてにテンションがかかっているということになります。
非常にきれいなコンクリートです。工場で打つので、これだけ細いコンクリートが可能になりました。あまりに薄いので、割れないかと心配だったのですが、ひびすら入りません。非常に高強度のコンクリートを使っていますので、こういうことが可能なのだと思います。現場打ちのコンクリートとは全然違いますね。印象としては非常に密実で、プラスチックのようです。木村さんに聞いたところでは、鉄骨とコンクリートのちょうど中間ぐらいの材料だと思えばいいということでした。
山中俊治さんという自動車のデザイナーの方にお願いしてつくってもらった家具です。90センチメートル角の家具で、自由に組み合わせられるようになっています。バネルや照明も自由になります。図書館の家具は、近藤康夫さんにお願いしました。先生たちとの会話のなかで、椅子に座らなくてもいいんじゃないかという話が出てきて、寝っ転がって本を読むためのこうした家具が実現しました。
マルチパーパスの家具も近藤さんにお願いしています。